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おまけの余談

「待ってくれ、こんな」

「待たない」

抱きしめて、口付けを交わす。ここまではいい。平常運転だ。勇人に経験値が少ないだろうことは、美巳も予想の範囲だ。

かてて加えて男同士など、もっての他、というか考えたことすら無いに違いない。だからといって美巳がプラトニックで我慢できるかと言われれば、首を横に振らざるを得ないのだ。

とにかく、触れる。抱きしめる。すると勇人は恥ずかしそうにしながらも拒んだりはしない。

むしろ人の体温が心地いいらしく、縁側で抱きしめていると、そのまま転寝に入られることも一度ならずあるくらいだ。

そういう勇人を抱きしめながら、美巳の胸中は複雑である。安心しきっている顔を見せてくれることは嬉しい。多分、勇人は夜には眠れていない。時折、夜中にうなされている声が居間で眠っている美巳にまで聞こえてくるくらいだ。

だが、同時にまったく意識されていないことではないだろうかと考えてしまうのである。

告白はした。一緒にいたいと思う。だが、勇人は拒みはしないが、積極的に受け入れる訳でもない。それが勇人の抱えたトラウマに原因があることも気付いていた。

ぱちりと目を覚ます。今日も勇人の部屋からうなされる声が低く響いている。

そっと美巳は布団を抜け出し、勇人の部屋の前に立った。

「勇人、さん」

多少迷いつつ呼びかけるが、当然返事は無い。美巳は扉を開いた。

元々は子供部屋だったらしい勇人の部屋は、不似合いな学習机の上にノートパソコンが乗ってる。大き目のベッドは現在の勇人の体格に合っているから、買いなおしたものだろう。

そのベッドの上で、勇人は苦しげに息を吐いていた。眉間には深い皺が刻まれ、首をかすかに振る。汗ばんだ額を、美巳はそっと拭った。

「く、ればやし?」

薄く目を開いた勇人が美巳を見る。無意識なのは承知だが、煽っているのかと思う。呼び名は紅林のままだ。いや、一応書類上は紅林美巳だし、『向こう』にいたときに付けられた、識別ナンバーを捩っただけの呼び名よりも、今の美巳には合っているし、気に入ってもいる。だが、勇人に呼ばれるそれはいつも胸を高鳴らせた。

「大丈夫?」

「ああ。悪い、起こしたな」

身体を起こそうとする勇人を、美巳は制した。そのままキスをすると、珍しく甘えるように勇人の手が美巳の腕を掴む。おそらく、気が高ぶっているのだろう。

本当ならば、落ち着くまで傍にいて寝かしつければいいのだ。だが、美巳は付け込むのは承知の上で、勇人をベッドに押さえ付けた。

口付けながら、髪を梳き、肩を抱く。

布団の上から身体を探り、足を開かせる。布団越しの感触が、もどかしいのか汚すのを気にしてか、勇人が身じろいだ。

「く、ればやし、あの」

「うん。判ってる。全部俺の所為だ」

強引に隣に潜り込み、服を取り去る。全部、美巳の所為にしてしまえばいい。長患いの母親を亡くしたときに訪れた喪失と同時の安堵。それを勇人は後悔している。

二十年以上も死期の訪れを待つだけの身は辛かっただろう。なのに、純粋に悲しまなかったことを、数年経っても後悔している勇人。

「好きだよ。俺には勇人さんだけだから」

「そんなの、知ってる」

応える声には自棄になったような色が濃い。どうせ、美巳がこっちに残ったのも自分の所為だとでも考えているのだろう。何処まで自分を追い詰める気なのか。

「勇人さんって、可愛いよな」

「お前、目が悪いだろう」

頬にキスを落とすと、憎まれ口が帰ってきた。美巳はそんな勇人の唇を優しくふさいで、舌を忍び込ませた。口中を蹂躙する感触に、力の抜けた勇人の腕がベッドへ落ちる。

「何も考えなくていいから」

葛藤なんか放り出してしまえばいい。今だけでいいから。美巳は改めて勇人に覆いかぶさった。

ゆっくりと傷跡を癒していけたら。それでいい。二人の過ごす時間の分だけ。

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