プロローグ~想~
前置き・・・というか状況説明がやたら長いです。
では、始まります。
~第零話・プロローグ1~
僕は、そこにいた。
いつからそこにいたのだろう。
気付いたら、そこにいた。
随分と長い時間、そこにいた。
・・・否、「随分と長い間」というのは気のせいかもしれない。
というのも時計が無いのだ。今自分は腕時計をしていなければ、懐中時計を懐に忍ばせているわけでもなく、ましてやここに置き時計が置いてあったり、掛け時計が壁にかかっているわけでもないからね。
とりあえず言えるのは、「自分の中にある体内時計が機能する限界の時間を軽く突破した程度に長い間」そこにいた。といったところだろうか。
わけがわからないややこしい言い回しだと自分でも思っている。しかし、どうも自分は好きなようなのだから致し方ない。何が好きって、わけがわからないややこしい言い回しが好きなようだから致し方ないと言うのだ。
・・・少し、脱線が過ぎたか。
話を戻そう。
否、戻る本流の見当たらないこの現状なら「本題に入ろう」と言った方が的を得ているか。
───
さて本題に入ろう。
本題は主に三つの疑問により構成される。
まずは一つ目だ。
「ここはどこなのか」
・・・先程説明した通り、ここには置き時計や、掛け時計といったインテリアの類は存在しない。
もう少し踏み込んで説明しよう。
ここには置き時計等を置くための棚等といった類や、掛け時計をかける壁は存在しない。
さらに踏み込もうか。
ここには置き時計・掛け時計・棚・ベッド・机・椅子・壁・扉等といった現代世界の「内」を表す物や、道・電柱・車・人・高層ビル・住宅・海岸線・雲といった現代世界の「外」を表すものは存在しない。
結論を言ってしまえば。
ここには、何もないのだ。
最初から結論言えよ。
・・・ああ、「何もない」と言ってしまうと、宇宙空間のように暗黒に包まれた全方位不覚状態の世界を想像させるようで拙いな。訂正しよう。
ここは、
・際限なく続く白の平面
・ただひたすらに青い空
によって構成されている。
それ以外、何も存在しない。
ここにいると気付いた当初こそ興奮した。だってこんな景色今まで見たことがない。どこまでも広がる地平線それも自然のランダム性を完全に排除した幾何学的平面としての地平線なんて今まで見たことがない見られるはずもない。それに空だってそうだ。この空は青く、明るく、そのくせに太陽と呼べるものがどこを見渡しても存在しない。最高だ。わけが分からない。
しかし、まあここまで時間がたってしまうとその興奮も随分と落ち着いてしまい、今度はこの何もなさに退屈してしまうのが悲しいかな人の性。何か起こらないかと欲を出してしまうのが悲しいかな人の性。
・・・また脱線してしまった。少し落ち着こうか、自分。
というわけで、「ここは見たことのない不思議な世界だ」という解答をもって僕は一つ目の疑問の考察を終了する。
適当な答えにもほどがあると怒られそうだが、なんてことはない、これはただの自己満足考察でしかないのだ。自分がその答えで納得できればそれでいいのだよ。
さて二つ目の疑問に向き合おう。
「なぜここにいるのか」
・・・本来この謎を解明するのは簡単だ。
人間は思考や経験を記憶として残し、必要に応じてそれを引き出す能力をもつ。
だから本来この謎を解きたければ、先刻まで自分が何をしていたか等の記憶を引き出してやればそれでけりがつく。単純な話だ。単純な話・・・。
しかし現在、この謎を解明する事はおそらく不可能に近いだろう。
何故?単純な話だ。
・・・記憶が、ないのだから。
残念ながら、僕はここにくるまでの記憶を失っているようなのだ。
昨日の夕食なら覚えている。カレーだ。
昨日の就寝時間だってわかる。2時だ。エロ動画あさりで遅くなった。
今朝の朝食もわかるぞ。食べてない。不健康?言うな、本人が一番分かってる。
しかし、これ以降の記憶となるとどうもあやふやなのだ。
そして気付いたらここにいる。
わけがわからないよ。
これ以上考えても突破口が見つかりそうにないので、この疑問に関しては「なぜかしらここにいる」という結論を持って締めくくらせてもらおう。
ま っ た く答えになっていないが致し方ない。僕の頭は現在提示されているこの少なすぎる情報で状況を理解できるほどよくできちゃいないのだ。
さて最後の疑問、三つ目だ。
「今自分はどうなっているのか」
・・・これは先の疑問よりさらに単純な話といえるだろう。
それは一般論にとどまらず、今のこの特異なる現状においても単純だというのだから気が楽でいい。
何故か?とわざわざ問い掛ける必要もないだろう。この疑問に答える方法は単純明快なのだ。
自分の姿を、見ればいい。
というわけなので、今自分はどういう状態かを、今回は主に視覚から得られる情報で確認していく。
・・・さて、だいぶ前の説明にある通り、僕は現在懐中時計をポケットに忍ばせる等といったお洒落な芸当をしちゃあいない。いいよ懐中時計。夜道で全く使い物にならなくなるけどね。まあそんときは携帯でカバーさ。
さらに言うなれば、ポケットティッシュやハンカチもない。携帯だってない。財布もない。ついでに財布に金はない。
つまり、何も持ってないのだ。
この状況から考えるに、どうやら僕は、色々と持ち歩かなければいけない外出先でこの世界に迷い込んだのではないという線が濃くなった・・・
・・・ように思えるかい?でも現実はそう甘くないんだよね。
どういう事か?説明しよう。
これまたずいぶんと前に説明した話だが、僕は現在腕時計などという便利なものは身につけていない。欲しかったなー金属バンドの腕時計。生まれてこのかたゴムバンド一筋。
まあ今身につけていないと言ったわけだが・・・うん、正確に言おう。身につけられない。
全く持って不思議な話である。皆様ご存知の通り、腕時計を腕に装着する方法は簡単だ。腕を出す・バンドを巻く・固定・完。大抵小学生くらいにもなれば見につくスキル。自分は残念ながら小学生世代は随分前に堪能したので技術的には問題ない。ならば身につけられるだろうと誰もが思うだろう。
しかし。
もし、その身につける場所自体が無くなっていたら?
腕が、無かったら?
・・・いやそこ、達磨とか言わないで。確かに達磨なら説明がつくけどあれはちょっとマニアックすぎると思うんだ。僕そんなのされたままこの世界に来たとか考えたくないです。それに単に腕が無くなってるとかいう話じゃないんです。はい。
腕が無ければ足も無く、腹も無ければ胸も無い、首無し顔無し何故見える、魂一つでここにあり。
要は肉体を失ったらしいのだ。
肉体を失っている以上、ここに来る直前自分がどんな格好をしていたかを特定するには記憶に頼るしかない。そして僕にはその記憶が無い。つまりここに来る直前の状況はわからないということだ。
さて、危うく忘れそうになったが今現在疑問としているのは「今自分はどうなっているのか」である。
そのどうなっているかなのだが、今自分で分かる範囲で答えるならその答えは「肉体がなくなっている」である。しかし肉体がなくなっているとはどういうことなのか、それを聞かれると解答に困るのだ。
果たして幽体離脱して精神界的な何かに迷い込んだのか。
それとも夢の中か。
それとも自分は死んでしまったのか。
・・・最後のはちょっと精神的にこたえるなー・・・。いや、でも死んだら閻魔大王様のところに連れてかれて裁きをうけて地獄か天国かに連行されるのかどうかよう知らんけどとりあえずそのはずだから今の状況は・・・まさか、ここ順番待ちの魂の控え室!?もうちょっと何か置いといてよ、退屈するじゃない・・・
・・・はあ。とにかく何がなんだかわかんない。とりあえずこの最後の疑問は「肉体を失っている」という解答をもって考察を締めくくらせていただこう。最後にしてやっとまだまともな解答が出た。わーいやったーほめてほめてー。
・・・どうしよう。あまりにも状況がわけ分からなさ過ぎて壊れてきたかもしれない。
とりあえずこれにて本題終了である。よく考えたら本題て何だ。だれかに講演でもしているかのような気分だったのだろうか。だとしたら誰に?
(あーダメダメ!それタブーだってば!)
・・・あ、はい、タブーですかわかりました。
しかしまあ驚いたものだ。目玉なくても見えるし、脳みそなくても考えられるし。・・・あれ、本当に自分魂だよね?でもどう考えても体が見当たらないし、心の奥底が「お前は今魂のみの状態だ」と告げている。それは生前「お前には肉体がある」と常識で認識できていたのと同じような感覚。まるで肉体が無いのが当たり前であるかのような感覚。
・・・生前とか使っちゃったよ。
本当に自分・・・もしかして、死んでる、の?
(うんそうだよー)
・・・死んでるんだ。
突きつけられた事実に僕は何も考える事が出来なくなる。
・・・もう少し人生堪能したかっ・・・
・・・
「・・・えっ誰!!??」
「いやー、やっと気付いてくださいましたか。先程からこっそり頭の中に話しかけていたのですがね」
「・・・何者だいつからいた」
「いつからって、わーいやったーほめてh「あーわかった恥ずかしいから繰り返すな!」・・・つれないですねー」
そう言うや否や、突如目の前の空間に亀裂が走った。
そして男がその中から出てきたんだから驚きを隠せない。
「やあ、人間様。」
「もう、わけがわからん・・・」
突然の展開についていけない。
驚きやら戸惑いやら悲しみやら何やらで軽くパニックに陥った自分の頭を必死に制御しながら、やっとの思いでそれだけを口にする。
対してその出てきた男はあたかも何事も無かったかのように話し始める。状況が読み込めていないこちらは完全に置いてけぼりである。
「さて、もう少し早めに来る予定でしたが遅れてしまい申し訳ありませんね。自己紹介させていただきましょう。わたくし今回の人間様の転生を担当します神『葉山』と申します。転生先にお送りするまでの短い間ではありますが、以後お見知りおきを。」
言い終わると彼はこちらを見て微笑んでくる。まるで笑顔の仮面を顔に貼り付けたかのような、機械的な笑み。正直見ていて薄気味が悪い。
・・・というか今こいつ何と言った?
転生、だぁ・・・? (続)
主人公の名前出てきませんでしたね。
次回から本格的に話が動き出します。
まあまだプロローグが続くのですが(笑)