ずれ
俺の世界は俺だけの物だ。たとえ俺の好きにならなくても、その世界に踏み込むことのできるヤツなんていない。そして、俺の世界で俺の決断だけはいつでも俺に由来してくれる。
けど、やっぱ俺の思い通りにならねえ世界ってのは辛いもんだ。
こういうとき、俺は完全に負けちまう。自分を曲げても良いって気になるんだ。
そこで、俺は理解した。
そうだよ。俺を世界の方に合わせれば、俺は俺らしく、そして、思い通りに動く世界の中で生きていけるじゃあないか!
俺は自分の事を天才だと思ったね。
いや、間違いなく俺は天才だ。
ちなみに、基準は俺自身だ。その辺が、俺にとってハッピーなのさ。
※
私は生きていく道標をいま生きている世界に定めた。故に、私はいまかような口調になっておる。先程までは『俺』等という下衆の使う言葉を放ってはいたが、世界に自らを合わせるという一点に置いて、非常に不都合だったと言えるであろう。
私は目線を変えることにした。世界の中で生きて行くに相応しい視点に。
まずは合理的な観念と正しい文学的観点など少々会得しようと思う。
道ゆく少女はあわれなり。さらさらと流れる髪など風流なるものを感じさせる。
「もし、そこ行く少女よ。我とお茶などしたもうないか?」
「え……?」
あてなる少女、いとをかし。我は非常に高ぶりたまう。
「我、貴君が何すれぞかまわず。さは、お茶したもう……」
あてなる少女、我をなぐりたもう。とても痛ひ。
ああ、てふてふが飛んでいるなあ……。
そうこうと独り言を吐いていると、向こうから警察官の様な男達が駆け寄ってきた。
おや? 本当に警察官のようだが。
うわ!?
何をする!?
やめろ!!
警官の一撃すなるを受け、我が気は入滅す……。
※
先程は観点を間違えちまったみてぇだ。
心の中の声を変えるだけでは、世界と自分を合わせることはできないんだな! よっしゃ! それさえ分かりゃあ次にいけるぜ!
そうだな……心持ちを変えてみるぜ!
※
俺の世界は……血に染まっている。
今日も隣町では血なまぐさい戦いがある。
三丁目と二丁目はゴミ処理をめぐって、同じ町内の癖に内部分裂を起こしていやがる。このご時世、味方を疑うようになっちゃあお終いだって言うのによ……。
俺が町を歩いていくと、早速小競り合いに衝突した。
なんてこった!? ゲートボールだと!?
年寄り共までこんな戦いに身を投じているって言うのか!?
「やめろ!! お前等は戦う必要なんてねえんだ!!」
俺はバカでかい声を張り上げてその場に乱入した。
老人の一人が持っているスティックを取り上げて、俺は場を制そうとした。
「これ以上やるんだったら俺が相手になってやる!」
だが、何故だ!? 争いをやめさせようとする俺を、皆さげすむ目で見ている。
やめろ!
俺は……俺は間違ってなんかいないんだッ!!
「やめろ……これ以上……俺を見るなあ!!」
俺はスティックを振り回した。老人達は散っていく。この哀れな戦いの元凶であるグラウンドから次々と這い出していく。
遠くからなにか、サイレンの様な音が聞こえる。
なんてこった……国家の犬共が来やがったぜ!
「スティックを捨てろ!」
「おばあさん達に罪はない!」
「國の為を思うなら、そのスティックを捨てるんだ!」
何を俺に言ったって無駄さ!
お前等国家の犬と違って、俺は正義なんだ。
自己満足と欺瞞で塗り固められた混沌の世界で、俺は正義を貫くんだ!
俺は、スティックをかざして警官隊に突撃していった。
その刹那、一発の銃声が俺の耳に入った。
その一撃が、俺の胸元を貫いた。
ベイベー……。
これで終いかよぉッ……。
へ……空が……青いぜ…………。
※
一人の男の物語はここで終わる。
ただ狂った男が居たと思うな。
お前が生きている世界に、お前自身が合致していなかったとすればどうなる?
お前はこの男と一緒だ。
ただ、この世界と合致しているから生きているだけに過ぎない。
終