ルールは悪党を生む
ファニーは自転車を漕いでいる。漕ぐ目的は不明だ。スペードに手分けして探すように指示を出せれたが、なにをすれば良いのか不明である。
ファニーは自転車を止めて思考を巡らせてみた。
悪党とはなにを意味しているのだろうか?
ファニーが考えを巡らせていると、大きなエンジン音がした。音のする方に顔を向けると、大群の若者が派手なバイクに跨がり、大きなエンジン音を響かせて道路を我が物顔で通って行った。
あれこそ悪党ではないだろうか? とファニーを彼らの後ろ姿を眺めながら思った。
だとすれば自分に太刀打ち出来ないだろう。
スペードのことを考えた。彼は多勢に無勢だろうが、立ち向かうだろうか? いや、立ち向かうだろう。それが、スペードという人間だ。
自分の信じることであれば、相手がテロリストだろうが、プロボクサーだろうが、大統領だろうがお構いなしに向かっていくだろう。
ファニーは今回の相手が先ほどのような不良じゃないと良いな、と願う。
そもそも相手は複数人なのか?そんなことを考えているとレンタルショップが目に入った。なにか悪党のヒントがあるかもしれないと店に入った。
自動ドアを通り抜けて店内に入る。10月の夜にしては外の気温はまだ高くエアコンの効いてる店内は心地が良かった。
店内は音楽がだらだらと流れている。ファニーは店内を1周して悪党のヒントを探すが、当然見当たらない。
そりゃそうだ、とファニーは心で呟く。レンタルショップにヒントが転がってはずがない。そもそも、悪党とは何を指しているかも不明だ。
「あの」
ファニーは何を血迷ったのか、気がついたら女性店員に声を掛けていた。
「はい?」女性店員の顔が警戒の色が浮かぶ。
「悪党って…あるじゃないですか?」
「はい?」彼女が眉間に皺を作った。
「この世の中って善悪じゃないじゃないですか。昔の偉い人が作った勝手なルールを違反したら悪党って言われるんですよね。」ファニーは自分で自分が何を言っているのか分からなかった。
「はぁ」彼女は冷たい目線を向けて首を傾げる。
「いや、そうゆう映画を探してるんですけど…」
「ああ、映画の話ですか。」
「いや、映画の紹介なんてしてないですよね。」
「紹介はしてないですけど…昔観た映画ですか?」
「まぁ、そうですね。タイトルが思い出せなくて…」ファニーは彼女の話に合わせて嘘を吐く。
「違うかもしれないですけど…」と彼女が歩き始める。ファニーは思ってもいない展開に戸惑いながらも付いていく。
彼女は洋画コーナーまで来ると足を止めた。
「この映画はどうですかね?」彼女はDVDを取り出してファニーに渡した。
「これはどんな映画なの?」
「SF映画です。ある理由で世界が2つに分離してしまうんです。その後、2つの世界が交わることなく膨大な時間が過ぎて、突然交わるんです。そのときの住人は2つの世界が分離した理由なんて知らなくて…」
「はぁ。」ファニーはよく分からず首を傾げる。
「そして、争いが始まるんです。でも、過去の住人は争いを避けるために世界を分離したんですよ。」
「はぁ。」
「片側の世界から見たら相手は悪で反対から見たら自分は悪なんです。」
「はぁ。」
「主人公達が世界の真相に向かっていく映画なんですけど…」
「はぁ。」
「違いますよね。でも、私の1番好きな映画なんです。良かった見て下さい。」彼女はそう言うとニコッと笑った。
笑顔の彼女は澄ました顔をよりも可愛く、家から随分と離れたレンタルショップだったが、ファニーはレジでレンタル手続きをして店を出た。