トラブル
「おかしな。おかしい」とスペードが繰り返し呟き始めた。
「なにがおかしんだ。」
「さっきのバスから降りた奴らがいただろ。」
「ああ、いたけど。」ファニー達は公園に設置されているベンチで事が動くのを待っていた。そこからバス停が見え、スペードいわく今回の「奇跡」はバスの乗客員に起こるらしい。
「あの女からは「奇跡」は起きない。」
「女?」
「この間まではあったはずなんだが…」スペードはファニーの話を聞かずに独り言を呟く。
スペードには普通の人には見えない「何か」があるらしい。あるらしい、というのはファニーも詳しく分かっていないからだ。スペードはそれを「奇跡」呼んでいる。
「スペードがそんな物騒な物を持ってるから奇跡が逃げていったんじゃないか?」ファニーが冗談まじりでスペードの片手にあるバットを指摘する。
「奇跡が逃げる…」スペードが顔を顰めたあと、「それだ!」と目を見開いた。
「どうしたんだよ。」ファニーは状況が分からず尋ねる。
「逃げたんだよ。」
「逃げた? 誰が?」
「悪党だよ。」
「悪党?」
「ああ、おれ達に恐れて悪党は逃げたんだ。」
「そうか。じゃあ、もう奇跡を起こしたんだな…」なんとも言い表せない気持ちになる。ツーアウトサヨナラ満塁のチャンスの緊迫した場面に自分の打席が回って来たと思ったら、初球デットボールで試合終了。何もしてないのにヒーローインタビューに呼ばれて『身体に当たって本当に良かった』と答えた野球選手を思い出した。
「馬鹿野郎。そんなことで奇跡が起きるはずねーだろ。探しにいくぞ。」スペードがそう言うと歩き始めた。
「おい、どこに行くんだよ。」
「そんなの決まってんだろ。」スペードは吐き捨てる。
「どこだよ?」
「奇跡があるところにだよ。」
「それってなにも分かってないだろ。」
「仕方ないだろ。イレギュラーだ。」
「違う。これはお前のせいじゃないか?」ファニーが問いかける。
「おれのせい?」スペード顔をしかめる。
「お前がそんなバットを持ってきたからじゃないか?」