悪党はおれらか。
目的地まで着くと不良達が屯ろしていた。
1番最悪なパターンになってしまったか、とファニーは心の中で天を仰ぐ。
しかし、スペードが「よぉ、マサキ」と馴々しく不良達に声を掛けたので驚いた。
「あっ、せ、先輩。ち、ちーす」マサキと呼ばれた不良のリーダー格ぽい男がどこか取り繕った感じでスペードに挨拶した。
「ん、どうした?」スペードが訝しむ表情で尋ねる。
「い、いや、それが…」とマサキが口籠もる。
「まぁ、いいや。」スペードは興味なさそうに「それで、悪党はどこにいった?」とマサキに尋ねる。
「すいません。先ほど、怪しい男を捕まえたんですけど…に、逃げられました。」マサキがスペードに頭を下げる。
「そうか…」スペードが頭を下げるマサキに言った。
「お、おい。」ファニーがたまらずスペードに声を掛ける。
「こいつらがサポートメンバーなのか?」
「ああ、そうだが。」スペードが答える。
「もしかして、あなたは『あのファニーさん』ですか!?」マサキがファニーに目を輝かせて尋ねてきた。
「『あの』が何を指すのかは分からないけど、一応『ファニー』ではあるけど…」ファニーは勢いに圧倒されて引き気味に答える。
「マジっすか!? お会い出来るなんてマジでカンドーっす」マサキの尊敬の眼差しが痛い。
「いや、そんな感動されることではないと思うけど…」
「いや、カンドーっすよ。だって、あの『奇跡起こし隊』に1発で正規メンバーになれるなんて伝説っすよ。」
「いや、誰でも入れるんじゃないか?」
「入れねーっすよ。だって『奇跡起こし隊』っすよ。」
「いや、そうなのか?」ファニーは半ば無理やり加入させられたので、なにが伝説なのかは不明である。
「おれもいずれ手柄を上げて加入するので覚えておいて欲しいっす。」
「そうか…」ファニーはなにを持って、手柄なのかは分からない。
「それより、怪しい奴ってなにが怪しかったんだ?」ファニーがマサキに尋ねる。
「ああ、アイツ、こんな時間に何か叫んでたんっすよ。」
「叫んでた?」
「ああ、そうっす。」
「なんて叫んでたんだ?」
「さぁ、分からねーっす。なんか、叫んでて、こんなところ歩いてるから怪しーつーか、しかも、ヨタロウ先輩のことも知んねーすよ。」
「ヨタロウ?」
「えっ!? ファニーさん、ヨタロウ先輩のこと知んねーすか? それはファニーさんでっもマジ引きます。」マサキが大袈裟に驚く仕草をする。
「ヨタロウ先輩は歴史上の人物なの?」
「チゲーっすよ。ヨタロウ先輩はヨタロウ先輩っすよ。」マサキが答える。
「それは、答えになってないぞ。」
「いや、ヨタロウ先輩知らないってマジでありえねぇっすよ。」マサキはそう言うと周りの不良達に「なぁ」と同意を求める。周りの不良達も「ありえねーっす」と賛同する。どうやらこいつらは自分達の物差しでしか他人を測れないらしい。
「なぁ、これって…」とスペードに尋ねる。
「帰るか…」さすがのスペードも空振りだと気付いたらしく、寂しそうな顔をした。
「先輩、あいつはあっちの茂みに逃げんたんで、今からおれら総出で追い込み掛けるんでちょっと待ってて下さい。」マサキが道路を挟んだ先にある茂みを指差して言った。
「いや、いい。」スペードはそう言うと自転車の籠に入っていたバットを持って茂みに向かった。そして、石囲いの上に立つと茂みに向かってバットを投げた。
スペードは振り返って石囲いの上からマサキ達に向かって叫んだ。
「今日は解散だ。それ以上、そいつを追ったら奇跡起こし隊のサポートメンバーから除外する。」
「わ、分かったっす。」マサキは静かに返事をすると「今日は解散だ。帰るぞ。」と周りの不良達に叫ぶ。
「また、何かあったら声掛けて下さい。」マサキはそう言うとバイクに跨って大きなエンジン音を響かせて立ち去った。
「これじゃあ、おれらが悪党だな」ファニーが言う。
「おれらも行くか。」スペードは返事をしなかった。
それから、スペードは一言も発することはなかった。帰りにコンビニを寄るとスペードはアイスを買った。ファニーは自転車を漕いで喉が渇いたのでお茶を買って喉を潤した。
「それじゃあ、今日は解散だ。」スペードはコンビニを後にして歩きだした。
ファニーはスペードの背中を黙って見送った。
ファニーはスペードとの付き合いが長いわけではないが、ここまで元気がないのは初めて見た。
スペードなりの責任感なのか。
スペードにしか救えない命があって、それを救えないことに負い目を感じているのか。
それとも関係のない人を巻き込んでしまったことに責任感を感じているのか。
ファニーには分からないがスペードなりの正義があり、それを達成出来なかった自分を許せないのだろう、とファニーは察した。
ファニーはスペードの背中を見ながら、スペードなりの正義を応援してやろうと、次の活動も協力することを決める。
ファニーも家に帰ろうと自転車に乗ろうと鍵を刺したときにスペードが自転車を忘れていることに気づく。
あいつは自転車を忘れるぐらいショック受けているのか、と心の中で笑う。
あいつも可愛いところあるな、と自転車を見ると鍵がされていなかったのでファニーはスペードの自転車を乗ってスペードのもとに向かった。
驚かせようと勢いをつけてスペードの前でドリフトを決める。
「おいおい、落ち込み過ぎて大事なもん忘れてるぜ。」とファニーは格好付ける。
すると、スペードはすかした顔で「別に落ち込んでなんかねーよ」と静かに答えた。
「おいおい、落ち込んでねーやつがこんな大きな忘れ物しねーだろ。」ファニーが茶化しを入れる。
「別に忘れてなんかねーよ。」
「いや、忘れてんだろーが。恥ずかしー奴だな。」ファニーが自転車から
降りてスペードに自転車を渡す。
「いや、それおれのじゃねーよ。」スペードが答える。
「いや、これお前のだろ。さっきまで乗ってたじゃねーか。」
「まぁ、乗ってはいたがおれのではない。」
「ん!?」ファニーが意味が分からず眉を顰める。
「だから、それはおれの自転車じゃない。」
「いや、お前のじゃないって。でも、さっきまで乗ってだろ。」
「ああ、それに乗ってはいた。だが、おれのではない。」
「えっ!? じゃあ、だれの?」
「知らん。」
「知らんって、本人に了承は得たのか?」
「知らん相手にどうやって了承を得るんだ?」
「じゃあ、パクったってことじゃねーか。」
「いや、パクってねーだろ。さっき返したじゃねーか。」
「いや、返したって、アウトだろ。完全に泥棒じゃねーか。」
「まぁ、緊急だったからな。でも、いいだろ。元の位置に戻したんだから。」
「よくねーよ。馬鹿野郎。」
ファニーはお前が1番悪党だよ、スペードに向かって叫んだ。




