悪党の情報
ファニーは自転車を漕いでいる。先ほどと違うのは目的地が決まっていることだ。
レンタルショップを出て、行くあてもなく自転車を漕ぎ続け、コンビニで気分転換という名目でアイスを食べていたときだ。スペードから電話が鳴った。
「犯人が見つかった。今すぐ、こっちに来い」自分の用件だけを伝えて切る。いつもの一方的な電話だった。
ファニーが自転車を漕いでいた方向とは逆方向の場所だった。ファニーは深いため息を吐いて自転車を反転させて漕ぎ始めた。
ファニーが目的地まで行くとスペードが自転車に跨がり待っていた。
「あれ、自転車を持って来たのか?」
「ああ、ちょっと借りてきた。機動力は大事だからな。」スペードは無愛想に答えた。
「それで、悪党はどこにいるんだ?」ファニーは当たりを見渡す。ファニーが呼ばれた場所は駅から少し離れた場所にあり、植え込みが横に並んだ幅広の場所で、ちょっとした広場だった。とても悪党が事件を起こすような場所には思えない。
「ここじゃない。ここから少し離れた場所だ。」スペードはそう言うと自転車を漕ぎ始めた。
「おい、どこに行くんだよ。」ファニーは慌てて自転車に跨り追いかける。
「ああ、悪党の名前は『サトウ』というらしい。」スペードは無表情に正面を向いて小さな声で言う。
「サトウ? 平凡な名前だな。相手は1人なのか?」
「出身中学は△△中学だ。」
「出身中学? 出身中学がなんか関係あるのか?」
「身長は170センチぐらいの細身。年齢は22歳だ。」
「どこの情報なんだよ。それは?」
「サポートメンバーが悪党を捕まえたという情報が入った。」
「サポートメンバー? そんないるのか?」
「おまえ、奇跡起こし隊を馬鹿にしてるだろ。」スペードの表情が無表情から鋭い眼付きに変わりファニーを睨んだ。
「いや、サポートメンバーとかバンドかって思っただけだよ。」
「そもそも、お前を救ったときは他にもメンバーいたろ。」
「そういえば…」ファニーは過去を思い出す。確かにあのときは、スペードとダウス以外にもメンバーがいたはずだ。だが、ファニーはスペードとダウス以外のメンバーには会ったことがない。
「そんな細かい情報を仕入れるってサポートメンバーってなんか情報屋みたいな人なのか?」ファニーはTVドラマで見る薄暗い部屋で1人パソコンで情報を仕入れる情報屋をイメージする。
「さぁな、行けば分かるだろ。」スペードはぶっきらぼうに答えた。
ファニーはこれから対峙する悪党にスペードも緊張しているのか、と思いこれ以上は詮索をするのは止めて、ペダルを漕ぐことに集中した。
 




