表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

第六話

 初投稿から二日が過ぎ去った。所詮は風の前の塵に同じだった。みんなはただ宣伝に乗っかってくれただけだった。日間ランキングには残れず、PVは二桁に逆戻り。エックスのプロフィールは、「先日小説を書き始めた高校生です」。埋もれてしまうのも無理ないか。そのまま惰性でスクロール、スクロール。


 「これはマッチングアプリか何か?それとも就活でもしてんの?」


 天井の薄白い丸を眺めていたら、次第に二重三重に増えていった。


「ざまあみろってな。つまるところあんたの話は、消耗品に過ぎないってわけだ。ウチを殺しといてこのザマか?ええ?」


 金槌で後頭部を砕かれたような気分だ。ベッドに拳を振り下ろして、猫パンチ猫パンチ。


 ***


「梨花姉ちゃん、また他にも書いてよー。まだ在音姉ちゃんとの思い出いっぱいあるんでしょ?」


 梨花にとって、それはナイフを向けられたに等しかった。それもひどく尖った。


「うーん、在音姉ちゃんとの思い出は確かにいっぱいあるんだけどね、筆が進まないんだあ」


 蓮はあからさまに、口を尖らせる。口酸っぱくとは、まさにこのこと。


「ええーひどいよ、梨花姉ちゃん。在音姉ちゃんのこと好きなんでしょ?好きで書いてるんでしょ?だって梨花姉ちゃん、在音姉ちゃんにそっくりだよ?明るくなってるもん!」


 信号機が鳴き声を挙げた時、梨花は言った。


 「そう、だね」


 ノールックでスマホを起動し、PVを確認するも一切変わっていなかった。


 ***


 とある路地裏のことだ。右にはスチール製の低い壁が。左には苔むした石塀と、荒いアスファルトの隙間から生えた雑草が息を潜めている。蛍光灯にはクモの巣が張っていて、蛾だが蝶だかの羽がちぎれている。その先には、エナジードリンクとブラックコーヒーをやたらと強調している自販機が佇んでいる。


 梨花はポケットから、小銭三枚ちょうど挿入して、ず太い音とともにエナジードリンクを産み落とさせた。梨花は缶に人差し指で触れるなり、反射でそれを引っ込める。そして、もう一度回収を試みる。


 缶を開けた梨花は、喉の奥まで一気に注ぎ込んだ。喉がピクリと震え、手をグーにして咳き込んで。


 咳を抑え込んだ梨花は街灯のない一本道へと足を進めていく。ガードレールはネジのアタリから、錆び始めている。


「あんたがウチに妬けるのはわかる。ウチばっかり輪の中心にいたからね。ウチがいなくなってスッキリしたんでしょ。ねえ、なら何で今更、蒸し返すの?そもそもウチのこと書いて、何がしたいの?」


 何処かから救急車の悲鳴が聞こえてきた。でもすぐに遠のいていった。


「なんだっけ」


 口に出したそれは他人の言葉を借りたかのようだった。


 私は何がしたかったんだろう。


 在音を書いて。

 思い出を並べて。

 美しい顔だけを切り取って。


____梨花ちゃんは優秀だよねー尊敬しちゃうなあ


 私は在音をこの世に残したかったのか。


 違う。


 本当はもっと棘があった。

 もっと面倒で、もっとわがままで、もっと人間くさかった。


____休み時間もずっと勉強してるねえ、ちょっとは絡みたいんだけどなあ


 なのに私は、削った。


 大衆受けする在音だけにして。


 それって、供養?


____事故のあと、警察とかニュースとかは、みんな姉ちゃんが可哀想って言ってるだけで。でも、小説の中の姉ちゃんは、すごく楽しそうで、キラキラしてて。僕、読んでて嬉しかった。姉ちゃん、梨花姉さんと一緒にいれて幸せだったんだなって


 違う。


 死者への冒涜だ。


 ちょっとした嘘をねじ込んで。

 理想の虚像を植え込んで。


 記憶は消費されていく。


 在音は、ずっと世界の中心にいた。


 私が言えなかったことを、平気な顔で言いやがって。

 私が躊躇った場所に、迷いなく立ちやがって。


 眩しかった。


 腹立たしかった。


 憎らしかった。


 羨ましかった。


____在音姉ちゃんにそっくりだよ?明るくなってるもん!


 ああ、そうか。そうだったんだ。


 私、在音みたいになりたかったんだ。


 みんなに受け入れられたかったんだ。


 だから、書かなきゃ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ