第三話 嘘吐
両親が死んだのは五歳の時だった。その日は晴れていた。晩御飯のことだ。父は母を刺した。何の脈路もなく唐突に、だ。いや、父の中では物語が書かれていたのかもしれない。今となっては想像することしかできないけど。母の血はあたたかかった。そして赤かった。でも、床に零れ落ちてできた水溜りは黒かった。その日のカレーみたいに。一目散に逃げ出した私を、はあはあ息を荒げながら追ってきた父親は逆手持ちしたナイフを振り下ろした。ナイフは板と板の間に突き刺さり、抜けなくなった隙に家から抜け出した。バランスを崩しながら必死に走り抜ける中、ふと振り返ったら。
我が家が燃えていた。柱は落ちて、瓦が剥がれ落ちていく。
私はただそれを眺めていた。
「悪趣味だねえ、それ使う機会あるの?」
在音は私にしゃがれた声をあげる。それでも口調は確かに在音のものだ。
「いや、ないんだけど。これ見てるとさ、今日までの人生色々思い出すのよ」
「へー。でもなんでそれで?」
「両親も在音も、火が奪っていったからね。ふっ、私は火にでも嫌われているのかな?」
「白々しい」
私は一度溶けて固まり、原型をとどめていないライターを机に放って、パソコンを開いた。
左胸に拳を当てて握りしめ、目を細める。
幼い頃、私は全てを失った。
無慈悲な炎が、父さんと母さんを連れて行ってしまったあの日から、私は孤独と戦い続けている。
でも、私は負けない。天国の二人が、そして親友のAちゃんが、私を見守ってくれているから。
「なんてね」
私は親指を噛んだ。二秒も経たずに痕は薄れたものの、腹は赤いままだった。




