第一話
教室の女王が燃えている。顔は爛れて、制服ははだけている。そんな醜女は日陰者の私に手を伸ばした。
「お願い、助けて。ダっススっケてっ」
私はただそれを眺めていた。赤い唇に舌を這わせる。
「ざまあみろ」
私の痰が親友まで届くことはなかった。
「こんな感じで書いてみたんだけど、どうかな?」
「うーん、よく書けてるとは思うんだけど、やっぱり暗すぎないかな?最近の読者は、時間に追われて心に余裕がない、つまり小説の中でまで苦しみたいとはおもわないんじゃないの?」
奏斗は顔を顰めて、原稿を机に放り投げる。梨花は赤ペンまみれの原稿に目を落とした。
「それに、主人公の性格も終わってるよ、読む気失せるし応援してもらえないよ?みんなに共感してもらわないとさ」
「共感、共感か。そんなに大事かなあ?人間失格とか地獄変とか正直あんまり共感できなかったけど、読後感はしっかりあったよ」
「そりゃ、文豪の時代はそうだったかも知んないけどさ。梨花ちゃん、ダチと喋ってて『それわかるわー』って言われたら嬉しいだろ?な?令和ではそれが大事なんだよ」
梨花は奏斗と目を合わせる。そして、原稿をバックにしまって部室の扉に手をかけた。背中越しに少しだけ声を弾ませる。
「じゃあ、次はもっと共感できるの書いてくるから、楽しみにしといてよ」
「おう、お前が部で一番書けるヤツだからな、期待してるぜ」
押戸が軋んで、元の位置に帰ったのち、奏斗は独りごちた。
「そうだ。あれが書けるんだから、もっと軽くするのはわけないさ」
***
黄昏時、カラスは空へ嘆いていた。私はビンテージな革靴を鳴らして、墓地へと足を向ける。桃瀬家之墓。一輪の白いカーネーション。カラスは空へと翼を広げた。一枚の黒い羽を落として去っていく。
「ねえ梨花ちゃん、ウチを助けてくれるのかい?」
墓標に寄りかかるその少女は、火傷痕で全身が覆われていた。ところどころ皮が剥げて、茶髪は散り散りで。
「また来たの。もう来ないでって言ったのに」
「やだなあ、来たってことは梨花ちゃんがそれを望んでるんじゃない?所詮ウチはあなたの妄想なんだから」
私はサイドの髪を指でくるくると回して戻して、回しては戻すのをひたすら繰り返した。
「現実では助けなかった癖に、空想では助けるんだあ?」
「いいや。在音、助けるんじゃない。書き換えるんだよ。本当の話じゃあ、読者刺さってくれないからさ」
「最低」
私の指は、髪を弄るのをやめて、自ずとスマホへと向かう。
「ねえ、在音。君、今すっごく『ヒロイン』してるよ」
***
教室の女王が燃えてる。顔は爛れて、制服ははだけてる。そんなお姫様は日陰者の私に手を伸ばした。
「お願い、助けて。ダっススっケてっ」
私は唇を噛み締めて、炎の中に駆け込んだ。
(助けなきゃ、助けなきゃ。あなたは私の光だから)
私の手は親友の元へと届いた。
「こんな感じで書いてみたんだけど、どうかな?」
「昨日のを一晩で書き換えたの?えっ、マジで、あ、ガチで、すげえじゃん!梨花ちゃん、マジ天才!やっぱり文芸部で一番書けるだけあるわ!俺の目に間違いはなかった!」
梨花は口元を両手で覆った。でも、笑みは隠しきれていなかった。
(ざまあみろ)




