最終話:真の夜明け
渋谷の巨大電波塔、マスター・コントロール・ルーム。
ドクター・Aは、熊嵐隊長と自衛隊の特殊部隊によって拘束された。タケルとアキラは、満身創痍ながらも、その様子を静かに見守っていた。彼らの手には、血と鋼の匂いが残っていた。
ユキの操作により高周波の起動信号が完全に停止したことで、東京全域に残存していたハイブリッド実験体を含む異形種の群れは、一斉に活動を停止した。彼らを動かしていた「制御の鎖」が、断ち切られたのだ。
熊嵐隊長は、ドクター・Aの拘束を確認した後、自衛隊の将校に近づき、低い声で交渉を始めた。
「真実は公表された。貴様らが何を企んでいたかは知らぬが、ドクター・Aはマタギが捕らえた。彼をどうするかは、我々が決定する権利がある。貴様らは、速やかに東京の『掃討』を完了せよ」
熊嵐は、タケルとアキラの存在を『公式の記録』から抹消しようとしていた。彼らを国家の裏切り者としてではなく、『東京を救った影の狩人』として、自由の身にするための、最後の親心だった。
熊嵐は二人に近づき、一瞥した。
「任務完了だ、タケル、東雲。リョウは、貴様らの帰りを待っている。…そして、二度と『組織の秩序』を乱すな」
それは、「よくやった、だが二度と表に出るな」という、熊嵐隊長なりの最大限の感謝と、新たな任務の開始を意味していた。
数日後。東京全域の異形種は完全に掃討され、自衛隊は撤収を開始。都市の瓦礫の下から、再生への光が差し込み始めていた。
タケルとアキラは、都庁の医務室で、ようやく意識を取り戻したリョウと再会した。
「タケル…アキラ…お前たちが、東京を…」リョウはかすれた声で言った。
「リョウ、お前の命が、俺たちを動かした。お前の分まで、俺たちは『狩り』を続けた」タケルは、安堵の涙を隠し、静かに答えた。
そして、三人は、都庁の最も高い場所、夜の屋上に集まった。ユキは、簡易的な通信装置を組み立てていた。
「ドクター・Aは軍の管理下に置かれましたが、彼の背後にいる『国家の影』は、まだ生きている。このままでは、またどこかで、同じことが繰り返されるだろう」アキラが言った。
タケルは、渋谷の電波塔の頂上を静かに見つめた。
「俺たちの狩りは、終わっていない。『山』が、新たな『病巣』を生み出す限り、俺たちは鉈を収めるわけにはいかない」
ユキは、三人のための新しい通信装置を、アキラとタケルに手渡した。
「私、西条ユキは、この東京を監視し続けます。アキラさんの『知識』と、タケルさんの『本能』が、『影の狩人』として、都市の闇を暴き続けるための、『目』になります」
アキラは、新しい端末を受け取ると、静かに笑った。
「タケル。俺たちの役割は、組織の枠を超えた『都市伝説』となることです。表向きは行方不明。しかし、闇に蠢く人間を狩り続ける、『影の特務遊撃班』として」
タケルは、夜の風を受けながら、背中の鉈を握りしめた。彼の狩人の心は、今、組織や国家の命令を超え、東京という名の「山」を守るという、最も純粋な使命に燃えていた。
「行こう、アキラ。俺たちの『真の東京奪還』は、今、始まったばかりだ」
二人は、夜の闇に紛れて、都庁の屋上から姿を消した。




