第5話:潜入:『三人の突入』
夜明け前の渋谷。巨大電波塔の基部に、タケル、アキラ、ユキの三人が身を潜めていた。
「最終確認です。電波塔のメイン電源への物理的アクセスポイントは、最上階のマスター・コントロール・ルームのみ。ユキ、システム側の脆弱性は?」アキラが静かに尋ねた。
『塔のセキュリティシステムは旧式ですが、物理的に強固です。私がアクセスする隙は、タケルさんが電力中継ボックスを物理的に破壊した一瞬だけです。そこから私がシステムに潜入し、アキラさんの進路を確保します』ユキは、いつもより強い決意の目で答えた。
「了解。ユキ、お前とアキラは、塔の基部にあるメンテナンスハッチから侵入し、システム室を目指せ。俺は垂直ラダーを登る」タケルは、軽量スーツの肩にロープを固定し、鉈を握った。
「タケル!絶対に無理はするな!ラダーの途中に私兵が配置されている可能性が高い。敵の弾丸は避けるんだ!」アキラが警告する。
「マタギは、『山』で獣を狩る。この『垂直の山』では、俺が一番強い。お前たちのために、必ず道を開ける」
タケルは、そう言い残すと、誰も知らない間に電波塔の外壁に取り付けられた垂直ラダーへと、静かに登り始めた。彼の背中には、二人の信頼と、東京の命運が乗せられていた。
タケルが登り始めて数分後、アキラとユキは、メンテナンスハッチのロックを、アキラが用意した特殊な溶解剤で静かに解除し、塔の内部に侵入した。
内部は薄暗く、金属の匂いが充満していた。二人は、ユキが持ち込んだ「高周波カウンター・システム」を背負い、静かにシステム室を目指す。
『タケルさん、最初の警備隊です!地上から30メートルのメンテナンスフロア、三人!』ユキが、タケルの暗視ゴーグルに内部構造図を投影する。
タケルは、ラダーの陰に身を潜めた。警備チームは、重武装の私兵で、塔の内部から外部を監視していた。
タケルは、ラダーを登る音で敵に気づかれる前に、『奇襲』を決断した。
ラダーから一気にフロアへ飛び降りたタケルは、瞬時に鉈を振り、最も近くにいた警備兵の通信機を叩き割った。残る二人がパニックに陥り銃を構えた瞬間、タケルは彼らの足元の鉄骨の繋ぎ目を正確に蹴り上げた。
ガシャン!
バランスを崩した警備兵たちを、タケルはCQC(近接格闘)で一気に無力化。彼は警備兵の銃を奪うことなく、鉈だけを信じ、再びラダーを登り始めた。
『成功です!タケルさん、システム室までの障害を排除!』ユキが歓声をあげる。
アキラとユキは、塔の基部のシステム室に辿り着いた。ユキは急いでカウンター・システムをメインコンソールに接続し、キーボードを叩き始めた。
「ユキ、急げ!塔の電力システムを支配し、ドクター・Aが使うであろう高周波増幅器への電力供給を一時的に遮断するんだ!」アキラがライフルを構え、ドアを警戒する。
『分かっています!でも、このシステムは複雑すぎます!まるで、ドクター・A自身の思考のように、あちこちに防御壁が貼られている!』
ユキは、極度の緊張と、現場の物理的な圧力に、全身を震わせながらも、必死にキーボードを叩いた。彼女の戦いは、肉体ではなく、精神と技術の極限の戦いだ。
その時、ユキの端末の警告ランプが点滅した。
『やられた!ドクター・Aが、私の侵入を察知し、塔内の換気システムを高温に切り替えてきました!アキラさん、タケルさん、このままでは熱中症になります!』
塔の内部は、急激に温度が上昇し始めた。ユキは額に汗を滲ませ、必死に換気システムをハッキングしようとする。
「くそっ!」アキラはタオルを濡らし、ユキの首に巻いた。「ユキ、換気システムは後回しだ!最優先で、タケルの進路を確保しろ!お前の技術は、タケルの命綱だ!」
ユキは、アキラの厳しい叱咤と、タケルの命が懸かっているという現実を前に、再びキーボードに向き直った。彼女は、初めて現場に出て、自らの責任の重さを痛感していた。
その頃、タケルは、塔の半ば、地上150メートル地点で、垂直ラダーの最後の踊り場へと到達していた。その先には、私兵の警備隊だけでなく、獣の血と肉片が散乱した、恐ろしい戦闘の痕跡があった。




