第4話:ドクター・Aの逆襲:『電波塔の罠』
タケルとアキラは、熊嵐隊長から送られた物資で装備を整え、渋谷の巨大電波塔を目指していた。混沌とした都市の状況は、彼らにとって逆に有利に働いた。自衛隊のヘリの爆音と、各地での戦闘の銃声が、彼らの移動の音をかき消していた。
二人は、渋谷の廃墟となった駅構内で、先回りして待機していたユキと合流した。ユキは、大型のバックパックを背負い、いつになく真剣な表情をしていた。
「ユキ。なぜここに?お前の役割は、都庁で俺たちの侵入をサポートすることではなかったか?」アキラが尋ねた。
ユキはきっぱりと答えた。
「これは、私のシステムへの挑戦です。ドクター・Aは、この電波塔を介して、私たちが作り上げた『影のネットワーク』を破壊しようとしています。私が現場にいなければ、塔のメインシステムを内部からハッキングすることはできません」
彼女のバックパックには、自作の「高周波カウンター・システム」が収められていた。これは、電波塔の制御信号を妨害するための切り札だ。
「わかった。だが、決して無理はするな。お前は俺たちの『目』だ」タケルはユキの頭に軽く触れ、彼女の決意を受け入れた。
ユキはタブレットに電波塔の構造図を投影し、ドクター・Aの計画の全貌を説明した。
「電波塔は、異形種を制御する高周波音波信号を、増幅して東京全域に送信する役割を持っています。ドクター・Aは、この塔の最上階にあるマスター・コントロール・ルームを占拠しています」
アキラは、塔の警備状況を分析した。
「塔の警備は、外部は残存する異形種が担当し、内部はドクター・Aの私兵が固めているはずだ。最上階へのエレベーターは確実にロックされている。突破経路は、メンテナンス用の垂直ラダーしかない」
垂直ラダーを登るには、体力、持久力、そして高所での戦闘能力が問われる。それは、タケルにしかできない役割だった。
「タケル。あなたは『先鋒』だ。ラダーを登り、私兵の警備を排除する。ユキと俺は、警備の手薄な下層階から侵入し、あなたの進路をシステムで確保する」アキラは指示した。
タケルは、渋谷の崩れたビル群の合間から聳え立つ、巨大な電波塔を見上げた。それは、人類の傲慢さの象徴であり、東京を滅ぼそうとする悪意の巣窟に見えた。
「わかった。ラダーを登る。だが、敵は俺たちの動きを学習している。『奇襲』ではなく、『力押し』で突破する」タケルは、静かに決意を固めた。
その時、ユキの端末に、暗号化されたデータが割り込んできた。それは、ドクター・Aからの、タケルたちに向けた挑発的なメッセージだった。
【ドクター・Aからの音声ログ】
「…ふふ、マタギの裏切り者と、そのおもちゃたちよ。貴様らは、私が仕掛けた『餌』に食いついたな。このタワーは、貴様らの愚かな抵抗を嘲笑うための舞台だ」
「貴様らが真実を暴露したことで、私の実験は加速した。今、この塔の頂上から、私は人類再構築のための『神の意思』を、この堕落した都市に送り届ける。貴様らの無力さを、その目で見るがいい」
ドクター・Aは、タケルたちの動きを完全に予測し、彼らを電波塔へと誘導していたのだ。
「罠だ…だが、避けては通れない罠だ」アキラは顔を引き締めた。
「罠だろうと、『獲物』を前にして、『狩人』が立ち止まる理由はない」タケルは鉈を構えた。
三人は、それぞれの役割を再確認した。タケルは『力』で道を切り開き、アキラは『知恵』でタケルを支え、ユキは『技術』で塔のシステムを制圧する。
彼らの「影の狩り」は、今、東京の命運を賭けた、最終決戦へと向かう。




