第1話:自衛隊の介入と『混沌の街』
タケルとアキラが都庁の屋上から脱出して半日。
彼らの「宣戦布告」は世界を震撼させ、日本政府は国際的な圧力に抗しきれず、東京への自衛隊の正式な投入を決定した。
新宿上空には、大型輸送ヘリが編隊を組み、武装した自衛隊の隊員たちがロープ降下で次々と都内の主要拠点に展開していく。戦車や装甲車が幹線道路を塞ぎ、異形種の掃討作戦が開始された。
都庁のマタギ作戦室は、まさに大混乱に陥っていた。熊嵐隊長は、自衛隊の上層部と厳しい交渉を強いられ、隊員たちはタケルとアキラの「裏切り」と、真実が暴露された「衝撃」に動揺していた。
「タケルと東雲は、国を売ったのか…」
隊員たちの間には、憤怒と困惑が渦巻く。彼らは真実を知らないが、上層部からはタケルたちが『テロリスト』として扱われ始めていた。
タケルとアキラは、ユキが確保した隠れ家である、荒廃した雑居ビルの屋上で、自衛隊の展開を静かに観察していた。
「計画通りです。自衛隊は投入された。これで、異形種の脅威は一時的に抑えられる」アキラは、双眼鏡を覗きながら冷静に報告した。
しかし、その報告のトーンには、皮肉が混じっていた。
「だが、奴らは『狩り』をしていない。ただ『掃討』しているだけだ」タケルが呟いた。「ドクター・Aの組織や、その背後の人間には目もくれない。いや、目もくれないように命令されている、といったところか」
ユキの構築した『影のネットワーク』を通じて、自衛隊の内部通信の断片が届く。
『…特殊部隊へ。都庁を離脱した民間人、篠田タケルおよび東雲アキラを発見次第、現行犯として拘束せよ。彼らは機密情報を漏洩した、重要指名手配犯である』
タケルは鼻で笑った。
「重要指名手配犯、か。マタギの裏切り者になり、今度は国の指名手配犯だ。上等だ。俺たちの『狩り』が、正しい証拠だ」
アキラは冷静に、通信記録を遮断した。
「自衛隊は、異形種掃討のための『光』。そして、私たちを追う『影』でもある。これからは、ドクター・Aだけでなく、軍の目を避けながら行動する必要があるな」
東京は今、『異形種』、『マタギ残存部隊』、『自衛隊』、そして『ドクター・Aの私兵』という、四つの勢力が入り乱れる、混沌の街へと変貌していた。
二人は、潜伏する隠れ家を移動するため、夜の裏路地を縫って進んでいた。
その時、彼らの前に、自衛隊のパトロール隊が姿を現した。迷彩服に身を包んだ隊員たちが、暗視ゴーグルを光らせて、彼らを包囲しようとする。
「タケル!戦闘は避ける!相手は軍だ。逃げるぞ!」
アキラは即座に閃光弾を地面に叩きつけ、タケルにハンドサインを送る。
タケルは閃光が炸裂する一瞬の隙を突き、壁を蹴って高所へと飛び上がり、アキラを引っ張り上げた。彼らの動きは、もはや阿吽の呼吸を超え、一人の人間が持つ「知性」と「本能」の融合となっていた。
ビルの屋上を駆け抜ける間、タケルはアキラを背中に庇い、アキラはタケルに進路を指示する。
「三時の方向、二つ目のビルが射線。遮蔽物に入れ!」
「分かった!」
タケルは、自らの命を預け、アキラの指示に100%従った。その極限の共闘の中で、彼らは改めてお互いの存在の重要性を確認した。
「タケル、俺がいなければ、あなたは感情に流され、無駄な戦闘に巻き込まれる」アキラが言った。
「アキラ、お前がいなければ、俺はすでに軍に拘束され、この真実も闇に葬られていた」タケルが返した。
二人は、逃亡という孤独な状況下で、互いこそがこの混沌の中で唯一、絶対的に信頼できる存在、すなわち『聖域』であることを理解した。
彼らの「影の狩り」は、真の目的であるドクター・Aの追跡へとシフトしていく。




