第9話:東京を救う『最後の手段』
都庁から離れた廃墟のクリーンルーム。夜明け前の青白い光が、三人の覚悟を照らしていた。タケル、アキラ、ユキは、ドクター・Aの研究データという『時限爆弾』を前に、最後の作戦会議を行っていた。
「猶予はない。敵は俺たちがデータを持ち出したことに気づき、必ず次の手を打ってくるだろう」アキラは冷静に状況を分析した。
タケルは、熊嵐隊長から裏切者と見なされるリスクを承知の上で、決断を促した。
「熊嵐隊長は、組織の秩序を優先し、真実を隠蔽するだろう。軍や政府も、この計画に深く関わっている以上、動かない。俺たちが頼れるのは、『世論』と、『真実』だけだ」
ユキが緊張した面持ちで、最終的な計画を説明した。
「アキラさんが作成した『東京事変の真実』に関するレポートと、タケルさんが命懸けで持ち帰った『生物兵器開発計画のログ』を、世界中の主要なニュースメディアと、SNSのトレンドに一斉に流し込みます」
アキラは付け加えた。
「これは、単なる情報公開ではない。『軍の介入』を促すための『戦術』だ。異形種が生物兵器であり、国家の闇が関わっていると世界が知れば、政府は隠蔽できなくなる。都内への自衛隊の正式投入を、強制的に決定させることが狙いだ」
「成功すれば、俺たち三人は、国を敵に回すことになる」タケルは重々しく言った。
アキラはタケルの目を見つめ、強い信頼を込めた。
「タケル。俺たちは既に、『山の掟』を破った。そして、『国家の陰謀』を敵に回した。今さら立ち止まる理由はない。俺の知識も、ユキの技術も、あなたの鉈も、この東京を救うという一つの目的に集中している」
作戦のコードネームは『天照』。闇を払い、真実の光を世に示すという意味が込められていた。
ユキは、データ転送用の特殊なプログラムを完成させた。
「ハッキングは、都庁のメインサーバーを経由させます。これは、敵の注意を熊嵐隊長に向けさせ、私たちへの追撃を遅らせるための『陽動』でもあります」
「それは、熊嵐隊長への『宣戦布告』になる」タケルが確認した。
「ええ。ですが、彼も元は正義感の強いマタギのリーダーです。真実が公開されれば、きっと動いてくれると信じましょう」アキラは、わずかな希望を口にした。
そして、彼らは最後の役割分担を決定した。
西条ユキ: クリーンルームに残り、全世界へのデータ流出と、それに伴うサイバー攻撃の防御を担当。『光の操り手』。
東雲アキラ: 都庁の屋上へ先行し、データ公表の瞬間、都庁の残存スピーカーをジャックして『東京奪還』のメッセージを公表する。『宣伝部隊』。
篠田タケル:アキラの護衛として屋上へ同行。敵の追撃チームとの戦闘に備え、『最後の防衛線』となる。
夜明けの太陽が、東京の東の空を赤く染め始めた。作戦決行の時刻だ。
タケルとアキラは、都庁に向けて移動を開始した。都庁へ戻る道すがら、タケルはアキラに、一つの質問を投げかけた。
「アキラ。お前はなぜ、そこまでしてこの真実を公開しようとする?お前は、一般人として避難することもできただろうに」
アキラは立ち止まり、タケルに向き直った。
「俺は、自衛官候補生時代、『人々の命と、この国を守る』という誓いを立てた。その誓いを、国家の陰謀で踏みにじられるのは、耐えられない。そして…」
アキラは、タケルの腕に触れた。
「俺は、命を懸けて俺を救ってくれた、あなたの『狩り』の哲学を信じている。この都市に必要なのは、『傲慢な支配』ではなく、あなたのような『真の狩り』の精神です。この都市を救うには、あなたが必要だ」
タケルは、アキラの静かな情熱に心を打たれた。彼らの間にあるのは、もはやただの仲間を超えた、互いの存在意義を肯定しあう、強固な共闘関係だった。
「…分かった。行こう、アキラ。俺たちの『狩り』で、この都市に『光』を呼び戻す」
二人は、都庁の壁を伝い、最高層にある屋上へと、昇り始めた。彼らの下に広がるのは、獣と陰謀に覆われた巨大な都市。その夜明けを、彼ら自身の手で変えようとしていた。




