第6話:警備システムの突破と追撃者
サーバー室の赤い非常灯が、タケルの顔を血の色に染めた。
ガシャン!
分厚いセキュリティドアが開き、三人の重武装した警備チームがなだれ込んできた。彼らは最新鋭の防弾チョッキとヘルメット、そして非殺傷性の高周波音波銃を構えている。
「動くな!データ収集端末を捨てろ!」リーダー格の男が叫ぶ。
タケルは応じなかった。彼は、この都市を蝕む「病巣」の最深部を破壊するため、もはや逃げるという選択肢を捨てていた。
「ここは…俺たちの狩場だ」
タケルが地を蹴った瞬間、警備チームの一人が高周波音波銃を発射した。
キィィィン!
鋭い、耳鳴りのような不快な高音が、タケルの全身を貫く。これは異形種を制御するのと同じ特殊音波を、人間に向けて放つ兵器だった。タケルの五感が一瞬にして乱れ、平衡感覚が麻痺する。
「うっ…!」
その隙に、別の警備員がタケルに向けてスタンガン付きの拘束ネットを放った。タケルはとっさに鉈でネットの端を切り裂いたが、痺れが走る。
「アキラ!敵は音波兵器を使用している!異形種の制御に使っていたものと同じだ!」タケルは歯を食いしばり、痛覚を無視して叫んだ。
『了解!タケル、持ち場を離れるな!ユキ、敵の高周波出力源を逆探知!』アキラが外部から指示を出す。
タケルは一呼吸で平衡感覚を取り戻すと、マタギの俊敏性を発揮した。銃弾を避けるように左右にステップを踏み、一瞬でリーダー格の懐に飛び込む。
ブチッ!
彼の鉈は、男の通信機が取り付けられたヘルメットの側面を正確に叩き潰した。男はバランスを崩し、高周波音波銃の照準が大きくブレる。
外部で待機していたアキラは、ユキが解析した音波の逆探知情報を頼りに、廃墟の屋上へと駆け上がっていた。
『アキラさん、音波の発信源は警備員たちが装着している胸部の小型装置です!高周波出力時の熱源が急上昇しています!』ユキの解析は正確無比だった。
「ターゲット確認」
アキラは愛用のライフルを構え、廃墟の地下に向けて銃口を定めた。サーバー室は地下二階。厚いコンクリートの壁と、鉄骨が阻んでいる。通常の銃弾では貫通は不可能だ。
しかし、アキラは『特殊徹甲弾』を装填した。
「タケル、今から換気ダクトの排気口を狙う。二秒後に射撃開始。排気音で衝撃音を相殺しろ」
タケルは警備員と近接戦闘をしながら、排気口に背を向けた。
ブゥゥゥン…という排気ファンの轟音が、地下に響き渡る。
一秒。 アキラは排気口の微細な隙間を視界に捉える。
二秒。
ドォン!
アキラの放った徹甲弾は、完璧に計算された角度で排気口を貫き、室内に飛び込むことなく、警備員の一人が身を隠していた配電盤を粉砕した。
バチバチッ!
閃光と共にショートした配電盤から火花が飛び散り、警備員たちの胸部の音波装置が一斉に機能停止した。
「何っ!音波が止まった!?」警備チームは動揺した。
音波の妨害が消え、タケルの五感が研ぎ澄まされる。
「…チャンスは、一瞬」
タケルは残る二人に向かって、鉈をブーメランのように投げつけた。鉈は正確にリーダーの脇腹を浅く切り裂き、その隙にタケルは投げた鉈を回収する。
「撤退するぞ!データは手に入れた!」タケルは自らを鼓舞するように叫ぶと、すぐさまアキラとユキが指定した脱出ルートへと駆け出した。
警備チームが追撃しようとしたその時、アキラが再びライフルを構えた。
「追うな」
パァン!
徹甲弾は、警備チームの足元、コンクリートの床を正確に抉った。破片が飛び散り、追撃者の動きが止まる。
アキラは無線を切った。
「タケル。俺はあなたの『命』を、この『論理』で守る」
タケルは、廃液処理管とは別の、古びた地下の管理通路を駆け上がっていた。彼の心臓の鼓動は激しいが、その瞳は澄み切っていた。アキラとの、信頼に基づいた完璧な共闘が、彼の焦燥を完全に鎮めていた。
彼は証拠のデータを握りしめる。
「ドクター・A…お前が次の獲物だ」
しかし、その通路の先で、タケルは予想外の光景を目にすることになる。




