第21話:新たな脅威:『ハイブリッド・トラップ』
都庁の地下電源が不自然に途切れた直後、ユキの通信機器が激しく点滅し始めた。
「ハッキングです!強烈なパケットアタックを受けています!私が解析した遺伝子兵器のデータを狙っています!」
ユキは即座に防御壁を展開するが、相手の攻撃はプロのレベルを超えていた。
「この手口…まるで、国家レベルのセキュリティを破るような…!」
タケルは鉈を構え、アキラはライフルを手に、作戦室の出入り口を警戒する。
「アキラ!お前の『知識』で、この状況をどう説明する!」タケルが叫ぶ。
「これは、俺たちが追っていた『製造者』からの警告です!俺たちの解析が、奴らの隠したい核心に触れた!ユキ、最優先でデータを物理的に隔離しろ!」
ユキはデータを暗号化し、外部ネットワークから切り離すことに成功したが、その代償は大きかった。
『成功…でも、やられました!相手は私のハッキングで使ったネットワークの脆弱性を逆に利用し、都庁周辺のインフラ制御システムに侵入しました!』
「インフラ制御…!何を仕掛けた!」
『地下です!奴らが残存する異形種の群れを、都庁の地下道へと誘導しています!これは…ハイブリッド・トラップです!』
ユキの解析画面に、新宿中央公園方面から、数百にも及ぶ異形種の赤い点が、都庁の地下へと向かう水道管や地下通路を、一直線に突き進んでいる様子が映し出された。
タケルは無線機を手に、熊嵐隊長へと連絡を入れた。
「隊長!都庁が囲まれます!地下道を通じて、残党の群れが向かってきています!人間による誘導です!」
『馬鹿な!タケル、貴様、東雲に吹き込まれた妄言を信じているのか!獣がそんな統率された動きをするはずがない!』熊嵐隊長は、依然としてアキラたちの報告を拒否した。
「隊長!これは獣の動きではない!インフラの制御で、水道管の音や熱を利用して誘導されています!ユキの解析が証明しています!」アキラが叫ぶが、無線は切られてしまった。
「くそっ、聞く耳を持たない!」アキラが壁を叩く。
タケルは冷静に鉈を握りしめた。
「想定内だ、アキラ。隊長は、『敵』を信じられなかった。だが、俺たちは違う。ユキ、敵のハッキングは、どのルートに集中している?」
『都庁地下駐車場、そして、私たちがアルファの討伐に使った光ケーブルシャフトです!奴らは、私たちが脱出に使ったルートを、逆に侵攻ルートにしようとしています!』
タケルは、ユキとアキラに目を向けた。
「ユキ。お前は俺たちの『目』だ。この部屋から一歩も出るな。アキラ、作戦を立てろ。マタギの本隊は、隊長の指示で地上防衛に固執するだろう。俺たち二人で、地下の侵攻ルートを『封鎖』する」
「了解!遊撃隊は、防衛戦に切り替えます!」アキラは即座にマタギの持つインフラマップに、爆薬の配置案を書き込み始めた。
「地下駐車場の天井を狙い、侵攻ルートの真上に『落盤トラップ』を仕掛けます。そして、光ケーブルシャフトは、手製の火炎トラップで封鎖します。タケル、トラップの設置は俺がやります。お前は、侵攻してくる獣の『時間稼ぎ』を頼む!」
タケルはアキラの顔を覗き込んだ。
「お前一人で爆薬を仕掛けるつもりか?危険すぎる」
「俺の専門は『爆破物処理』です。仕掛けも解除も、俺が最も正確にできる。タケル、俺の命綱は、お前との『連携』だ。俺がトラップを仕掛けている間、お前がその獣たちを『間合い』に入れさせない。それだけだ」
二人は、再び命を預け合うことになった。
「分かった、アキラ。お前の戦術を信じる」タケルはアキラの肩に手を置いた。「だが、一つだけ約束しろ。俺の背中にお前が入ってきた時、俺は絶対に鉈を振るうことをやめない。お前も、引き金を引くことをやめるな」
それは、「互いの存在を信じ、躊躇なく殺し合う」という、極限の誓いだった。
タケルは鉈を抜き、アキラは爆薬を抱える。都庁の地下最深部へ、二人の狩人が、今度は「守る」ための戦いへと向かう。彼らの上空では、夜明けが完全に訪れ、東京の街が目覚め始めていた。




