第19話:解析された真実:『変異の要因』
渋谷地下街の瓦礫の山を乗り越えたタケルとアキラは、群れの「コア」へと続く、広大な地下駐車場跡に到達した。
そこはアルファの支配が途切れてもなお、獣たちが本能的に守り続けている場所だった。中央には、巨大な換気シャフトがあり、そこから地下深部の冷気が吹き上がっている。
「ここが、群れが最後に集結する場所だ」タケルが鉈を構える。「アキラ、援護を頼む。ここを潰せば、渋谷の掃討は完了だ」
「了解。タケル、ターゲットは換気シャフトの内部だ。奴らは、ここを新たな巣穴にしようとしている」アキラはライフルを構え、タケルの動きを支援する。
タケルは一瞬で広場を横切り、換気シャフトの縁に立つ異形種たちを一閃の下に薙ぎ払った。その隙に、アキラはシャフトの周囲に予備の音響グレネードを設置し、獣の侵入ルートを完全に遮断する。
二人の連携は完璧だった。タケルが近接で群れを崩し、アキラが戦術と遠隔でその後の展開をコントロールする。彼らは、互いの命を預け合える、最高のバディとなっていた。
その頃、都庁地下の作戦室では、ユキが一人、鬼気迫る表情でタブレットとマタギの解析装置に向かっていた。
彼女は、タケルたち遊撃隊から送られてきた異形種の血液サンプルと、渋谷地下街の環境データを解析していた。アルファの死後、獣の動きが「本能」に偏ったことで、その生態データに大きなヒントが隠されていたのだ。
『ダメ、ダメ、ダメ…。この獣の進化は、自然発生的な変異ではない…!』
ユキは解析を繰り返すうちに、異常なデータに気づいた。異形種の細胞内に存在する特定のアミノ酸配列が、地球上の既知の生物には存在しないパターンを示している。
ユキは必死に解析を続け、ついにそのアミノ酸配列が、過去に発表された**ある論文**のデータと一致することを発見した。
その論文は、「遺伝子組み換えによる軍事用動物兵器の可能性」について論じた、裏社会の闇に葬られたとされる極秘のものだった。
「嘘……これ、は……」
ユキは震える指で、論文と異形種の細胞データを重ね合わせた。
異形種の細胞内には、クマ科動物の遺伝子に、驚異的な耐久力と知性を付与するための人工的な操作痕が、明確に残されていた。
結論:東京に現れた異形種は、自然の獣ではない。高度な技術によって生み出された、「誰かの」意図的な生物兵器である。
ユキは、その真実を理解した瞬間、全身が冷え切るのを感じた。
「マタギが、ただの獣だと思って命を懸けて戦ってきた相手は……人間が生み出した怪物だった……」
彼女は、タケルたちが命懸けで守ろうとしているこの「山」の戦いが、実は、巨大な陰謀の駒でしかなかったという、最も残酷な真実を突き止めてしまったのだ。
『ユキ!応答しろ!コアの殲滅完了だ!群れは完全に分断された!』
無線越しに、タケルの興奮と疲労の入り混じった声が響く。
ユキは、目の前の真実と、無線越しの彼らの命懸けの達成感との間で、激しく葛藤した。
この真実を伝えれば、マタギたちの信じる「山の掟」も、「狩りの哲学」も、根底から崩れてしまう。しかし、隠せば、彼らは人間の敵に利用され続ける。
ユキは、自分の役割は彼らをサポートすることだと決意した。
「タケルさん、アキラさん…!掃討成功、お疲れ様でした。すぐ都庁へ戻ってください。重要すぎる、緊急報告があります」
ユキの声は震えていたが、その決意は固かった。彼女は、この情報をまず、遊撃隊の二人に伝え、今後の戦いの真の敵について話し合う必要があると判断した。
戦いの舞台は、「獣」から「人間」へと、今、移り変わろうとしていた。




