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獣境都市TOKYO:俺たちが生き残るための、殺戮ヒグマ殲滅マニュアル  作者: AAA
第一部

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第18話:タケルの決断と『最後の鉈』

「シロウ!リョウを連れて離脱しろ!ここは俺とアキラで抑える!」


タケルの怒号が、狂乱する獣のホールに響き渡った。


重傷を負ったリョウは意識を失い、シロウがその体を抱え、壁を背にしながら後退を始めた。彼らの背後から、さらに多くの獣が通路を塞ぐように押し寄せてくる。


「タケル様!無茶です!二体だけでも…!」シロウが叫ぶ。


「これは命令だ!アキラ、通路の角に起爆トラップを仕掛けろ!時間稼ぎをするぞ!」


アキラは即座にライフルを背中から外し、マタギ隊員が携行していた高性能の音響起爆型グレネードを、通路の角の瓦礫の下に設置した。


「設置完了!タケル、すぐに離脱しないと爆発に巻き込まれます!」


タケルは、獣の群れの前に立ちはだかり、鉈を逆手に握り直した。その瞳は、逃げ惑う獣ではなく、アキラの目をまっすぐに見つめていた。


「離脱はしない。お前が先に離脱しろ、アキラ」


「何を言ってるんだ!俺がお前を援護しなきゃ、この数は…!」アキラは絶句した。


「これは『山親爺』の流儀だ。狩りのリーダーは、獲物の目を引きつけて、仲間に活路を開く。俺の残した一撃が、お前とユキの『明日』になる」


タケルの言葉は、別れを意味していた。


「冗談じゃない!俺たちは『新しいマタギ』なんだろ!俺は…俺はお前の『鉈』になるんじゃなかったのか!」アキラは叫び、警棒を握りしめた。


タケルは、アキラの肩を力強く掴んだ。その力は、怒りではなく、命を預ける信頼の重さだった。


「お前は『鉈』ではない。『頭脳』だ、アキラ。この都市で俺たちマタギが生き残るには、お前の知識が必要だ。俺の命と引き換えに、お前はユキと共に生き残れ。そして、群れの掃討作戦を完遂しろ」


タケルの言葉に、アキラはこれまでの経験がフラッシュバックする。タケルの命懸けの水道管降下、地下での救出、そして今、自分を生き残らせるためのこの無謀な決断。


アキラは、タケルが自分を単なる道具ではなく、未来を託す共闘者として認めていることを理解した。


「…分かった。俺は生き残る。だが、タケル」アキラはタケルの目を真っ直ぐに見返した。「俺の戦術は、『頭脳』だ。お前という『心臓』を失う戦術など、最初から存在しない」


アキラは即座に警棒を収め、背負っていたライフルを取り出した。そして、その銃口を、タケルの背後に迫る獣ではなく、通路の天井の、最も弱い一点に向けた。


「ユキ!今すぐ、このエリアの通路の天井の構造解析を!最も脆弱なポイントを割り出せ!」アキラは無線で叫んだ。


『アキラさん!?解析は可能ですが、天井が崩れれば、このホール全体が生き埋めになります!』ユキの悲鳴のような声が響く。


「構うな!これが俺の『活路』だ!タケル、俺の指示で、天井が崩れた瞬間に垂直に跳べ!」


「天井を崩すだと…!?」タケルは驚愕した。それは、マタギの戦術にはない、自爆に近い常識外の判断だ。


「そうだ!天井を崩し、ホールを一時的に『岩盤の牢獄』に変える!獣の群れは、空間認識能力が低い!崩れた瓦礫が一時的な壁になる!」


『解析完了!天井の鉄骨構造、この一点です!』ユキの声がアキラの耳元で響く。


アキラは、迷いなくその一点にライフルを構えた。弾は、残りの徹甲弾全てだ。


「タケル!今だ!跳べ!」


アキラが引き金を引く。


ドドドドッ!


連続する銃声が、天井の鉄骨を打ち砕いた。同時に、アキラは起爆トラップを作動させた。


ドォン!


グレネードが炸裂し、音響と振動で天井の崩壊を助長する。大量のコンクリートと鉄骨、土砂が、獣のホール全体に降り注いだ。


タケルはアキラの指示に従い、全身の筋肉を使って垂直に跳躍した。彼は瓦礫と土砂の噴煙の中を、文字通り飛び上がった。


アキラもまた、崩壊の直撃を避け、瓦礫が堆積してできた小さな空洞へと、泥まみれの体を滑り込ませた。


瓦礫の山がホールを塞ぎ、獣の咆哮が、一気に遠ざかった。


しばらくの後、タケルは瓦礫の隙間から、アキラの隠れた空洞に、血と泥にまみれた右手を差し伸べた。


「…アキラ。お前は…俺の予想を裏切り続けたな」


瓦礫の下から出てきたアキラは、タケルの手を取り、再び立ち上がった。


「言ったはずだ。心臓を失う戦術は、ない。タケル、これが俺の『狩り』だ。さあ、コアを潰しに行こう。この瓦礫の山が、奴らの最後の『閉じ込め罠』になる」


タケルは、アキラの冷静さと、命を懸けて自分を救おうとした覚悟に、心の底から感銘を受けていた。マタギの流儀は「本能」だが、アキラの「知識」は、その本能さえも凌駕する力を秘めていた。


二人の若き狩人は、瓦礫の山を乗り越え、群れの「コア」へと続く静かな通路を、再び突き進む。

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