第17話:渋谷駅地下『獣の熱狂』
遊撃隊(タケル、アキラ、シロウ、リョウ)は、陽動によって誘導された異形種の群れを追って、渋谷駅の地下へと侵入した。地下街は、新宿とは比べ物にならないほど複雑に入り組み、巨大な蟻の巣のようになっていた。
『遊撃隊!渋谷地下街、集中度が予測の2.5倍です!アルファの統率こそありませんが、狂気的な密度です!』ユキの焦りが混じった声が無線で響く。
「想定外の数だ…!」アキラはタブレットのヒートマップを見て顔をしかめる。渋谷駅地下、ハチ公口方面の通路全体が、鮮やかな真紅に染まっていた。
「アキラ。これがアルファを失った獣の『熱狂』だ」タケルは鉈を抜き、通路の角に身を潜めた。「群れは、指揮官を失ったことで、唯一の共通目的である『捕食』のために、本能的にここに集まっている」
タケルの隣に立つシロウとリョウは、顔を覆う布の上からでも緊張しているのがわかった。
「タケル様、これほどの数では、我々四人では殲滅は不可能。掃討ではなく、『突破』に切り替えるべきでは?」リョウが提案する。
「ダメだ」アキラは即座に否定した。「突破しても、この群れが地上に溢れれば、都庁にいる生存者たちにも被害が及ぶ。俺たちの任務は『領域掃討』だ。群れの中央、最も深い『コア(核)』を叩く」
アキラはマップ上の地下通路の中央広場を指差した。
「コアを潰せば、群れはさらに分断され、掃討しやすくなる。タケル、突破はしない。殲滅する!」
タケルはアキラの眼差しを見て、その大胆な決断に笑みを浮かべた。
「面白い。元候補生の度胸も、本物の狩人並みになったな。アキラ、お前のプランに従う。シロウ、リョウ、遊撃隊の『真の狩り』の時間だ」
タケルを先頭に、四人は慎重に地下通路を突き進んだ。
数分後、彼らは目的地の広場に到達した。そこは、渋谷の地下街の中でも特に開けた商業スペースだったが、今や異形種の咆哮が反響する獣のホールと化していた。
数十頭の異形種が、瓦礫や破壊された店の残骸の中で蠢いている。その光景は、地獄絵図そのものだった。
「ユキ、遮蔽物がない!ここを突破する陽動プランを!」アキラが無線を握る。
『くっ、全電力が異形種の発生する熱でショートしています!予備電力による緊急照明の点灯だけが可能です!』
「照明!?それが使えるか!」アキラは叫ぶ。
「アキラ、照明は一瞬の『目眩まし』にしかならない!」タケルが警告する。
「それでもだ!一瞬の目眩ましで、群れに『パニック』を起こさせる!タケル、俺の指示で照明をつけろ!群れが混乱した隙に、警棒でコアを切り開く!」
アキラはライフルを背負い、伸縮式警棒を手に、タケルと肩を並べた。
「無謀だ!」シロウが叫ぶ。
「静かに!」タケルが一喝した。「俺は、アキラの心臓を信じる。ユキ、いつでも点灯させろ!」
タケルがアルファ討伐で得た信頼は、部下たちの静止さえも押さえつけた。
タケルの合図とともに、ユキが残存電力をすべて解放した。
バチバチッ!
広場全体に、強烈な緊急照明が一斉に灯った。
獣のホールは、一瞬にして光に包まれた。異形種の群れは、突然の強烈な光に視覚を奪われ、苦痛の咆哮を上げながら、互いに噛み付き合うほどのパニック状態に陥った。
「今だ!突っ込め!」タケルが叫ぶ。
タケルとアキラは、互いに背中を預け合い、獣の群れへと飛び込んだ。
タケルは鉈を振り回し、獣の頭部や四肢を次々と断ち切る。その動きは速く、まるで獣の群れの中を切り裂く嵐のようだった。
アキラは警棒を振るい、タケルの死角に入り込んだ獣を、的確に頭部や関節に一撃を加えて無力化していく。
「リョウ、シロウ!遊撃ルートを確保しろ!コアまで、あと20メートル!」アキラの指示は冷静だ。
だが、狂乱した獣の数は多すぎた。照明がショートで途切れた瞬間、群れはすぐに理性を失い、四人目掛けて襲い掛かる。
ドスッ!
タケルをカバーしようとしたリョウの体が、巨大な異形種の前足に叩きつけられた。リョウは全身の骨が砕けるような音と共に、壁に激突した。
「リョウ!!」シロウが叫んだ。
「シロウ!リョウを連れて離脱しろ!通路を塞げ!」タケルが叫ぶが、群れの波は二人を囲い込んでいく。
「くそっ!」タケルは鉈を振り下ろし、リョウに迫る獣を仕留める。
その瞬間、タケルは決断した。このままでは全滅だ。
「シロウ、リョウを連れて脱出ルートへ向かえ!熊嵐隊長に合流しろ!ここは俺とアキラで抑える!」
タケルはそう言い放つと、アキラの背中を強く叩いた。
「アキラ!行くぞ!この群れの核を、二人で狩る!」




