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『それ』  作者: 次郎
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第一章

 朝が僕を迎えに来てから、自然と瞼が閉じるまで、考えている言葉がある。

 『それ』は、考えようとしている訳でも無いのにも関わらず、僕の目覚めと共にやって来るのだ。心の隙間にだけいた『それ』は、これ程までに、僕の生活の中で主張をする事は無かった。しかし、いつの間にか『それ』の存在は、初恋に焦がれたあの青春の時のように、僕の心の中を支配しようとしている。目が覚めて、顔を洗って、歯を磨いている時でさえも、『それ』は、僕に思い出させる。

『それ』は、はっきりと明確に存在するモノであるが、何処か、あやふやで掴み所が無い霞のよう。そんな霞みたいなモノを僕は、一日中取りつかれように思慕している。例え、簡素な食事を用意しても、『それ』が僕の心を支配すると、その簡素な食事であっても喉を通らなくなる。余りにも、腹が空いた時以外、殆ど、冷蔵庫に戻される始末だ。空腹時だけが、唯一、『それ』を忘れていられる時間なのかも知れない。『それ』と空腹は、反対側の存在であり、『それ』は、空腹には勝てないようだ。腹が空けば、『それ』は、自然と消え入るし、腹が満たされれば、自然と空腹は消え、『それ』が、何処からともなく湧き出る水の如く、僕の心の中の隙間から、ぶくぶくと顔を出す。

 仕事場で『それ』は、今の所、秩序を保ってくれているが、何時、何処で、顔を出すのか分からない。そんな不安に囚われながら、僕は、7年もの月日を過ごした。どうすれば、共存出来る日が来るのだろうかと考えあぐねいているが、未だ、答えは得られていない。日に日に、『それ』の支配が強まっている事は確かだ。思い考えている時間が、随分と増えてしまっているように思う。

 『それ』との出会いは、僕にとっては、人生を変えたそのモノである。もし、『それ』と、出会っていなければ、今の僕は存在しないと言える。出会って、僕の人生の感覚は全て変わった。僕自身何かが変わった訳では無いけれど、出会ってからとの僕は、全く別の人間が生きている感覚でいる。違う人間が生きていた道を、僕がこれから生きて行くような、僕が生きていた人生を、僕では無い違う人間が生きて行くような感覚だ。

 今まで心の中にある思い出も、僕のモノでは無い気もするし、僕だけのモノであった気もする。だけれど、確実なのは、これからの思い出は、僕だけのモノでは無くなると言う事だ。

 『それ』を、知っていなければ、そう思う感覚も特別とは思う事は無かっただろう。知る事と、知らない事が、これ程まで、僕の人生を変えるとは思ってもいなかったし、変えられるモノだとも思ってはいなかった。知らないままでいる事の幸福もあるが、知ってしまえば、知らなければ良かったとは、思えない位、別の幸福を僕は知ってしまった。

 『それ』と共に生きる答えは無いかも知れない。だけれど、僕は、いつか、どんな答えであっても、『それ』との共に生きる答えを僕の為の答えを探し出したいと思った。

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