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第七話 高校襲撃

「リリ、今日は掃除当番だってさー」


「今日は俺達だけで活動しようかな」


「だな。んじゃ、考える作業はアスハにまかせた〜」


 部の日課だった異世界スキル活用方法のアイディア出し。ツムギとアスハが活動のためペンを握っていた最中だった。


 バンッ、と破裂音が響き学校全域へ闇が降ろされる。


「なんだっ!? 停電?」


「……違う。ツムギこれは」


 異常な暗さに違和感を覚え、アスハは窓から顔を出す。

 突然の事態に他の生徒たちも窓を開けてざわついていた。


「停電キッツ。真っ暗じゃん」

「いやいや、今日晴れてんのにこれは暗過ぎだって」

「まってさむっ。急に冷えてきたんだけど」

「えースマホの通信繋がんないよナニコレ」


 暗闇に続き、真紅の太陽が出現する。


「うそ、日の出?」

「ありえないって。だってまだ昼だよ?」

「でも実際そうじゃん! ちょうど日が昇って……って、なんか赤黒くない?」


 常軌を逸した光景に混乱が伝播する。

 アスハは理解した。危惧していた出来事が発生してしまったのだと。


「オイ、オイオイオイ。アスハ、もしかしてこれさあ」


「……ああ、異世界帰還者の仕業だ」


 最中、リリの声が脳裏に響く。


『アスハ、ツムギ、()()()!』


「リリ、今なにが起きて……」


『異世界帰還者が何人も来てるの!』


「ッ! 複数人の仕業か。敵は――」


「アスハッ、魔獣だ!」


 ツムギの叫びに駆け付けると、廊下では鱗の塊が蠢いていた。


「ヘビ。いやっ、ドラゴンの亜種じゃんか」


「これは襲撃だ。犠牲が出る前に!」


 部室を飛び出せば、廊下を埋め尽くすほどの巨体と対面した。


 白い鱗に手足のない蛇型の魔物。その眼は隣の化学室に取り残された生徒達に狙いを定めていた。


「ツムギ、みんなを守ってくれ!」


「応ッ!」


 蛇の体を駆け上がり、ツムギは扉に触れる。

 扉は変化し、やがて教室そのものが強固なシェルターへ変貌した。


「『最適化(オートクチュール)』、即席防護棺インスタント・コフィン!」


 間一髪で蛇の牙は壁に阻まれる。頑強な棺は僅かな傷しか残さない。


「大丈夫。単体の強さはそこまでじゃない」


 アスハは大蛇へ触れる。まばたきした直後にはその肉が爆ぜた。

 魔獣の巨体は薄っぺらな赤しみに変わる。


「アスハおまっ、スキルの詠唱破棄的なのできたのかよ!」


「思考が鈍るから好きじゃないけどね。敵の能力も人数も分からない今は、手の内を明かしたくない」


『二人とも大丈夫!?』


「こっちは問題ないよ。襲って来た魔獣は一体討伐した」


『待って。そっちには魔獣がいるの?』


「リリの方はどうだ。さっき異世界帰還者が何人も来てるって言ってたけど」


『どうもなにも、絶賛交戦中だよ。なんとか五人抑えてるけどしんどい』


「五人もッ!」


『ごめっ、余裕なくなってき――』


 言葉を遮られながらリリの魔法が途絶える。


「リリィ、リリィ! ちきしょう、反応が返ってこない」


「魔獣を退けつつリリの下に向かおう。異世界帰還者がリリの所に集中してるなら、戦力は分散されてるは、ず」


 アスハが振り返った時、廊下は既に校舎の面影を残していなかった。


 青白い光で覆われた高い天井、反響する獣の咆哮。壁と地面は巨大なキューブとなり、不規則に通路が変化する。

 回廊は迷宮へと化す。


「廊下が、異界(ダンジョン)化してる?」


「こんなんじゃ、捜しようがねェじゃんか。空間がぐちゃぐちゃに混ぜられてる」


 驚嘆している間にも、魔力に誘れた魔物が立ちはだかる。


「アスハ、こいつらの相手はどうするよ」


「倒すだけなら何とかなる。けど」


 二人の耳には多くの生徒の叫び声が届いていた。


「このままじゃ誰も助けられなくなる」


 躊躇う暇などない。アスハはツムギの援護を待たずして駆け出していた。



 ※



 二人に状況を伝えたリリもまた、異界に足を踏み入れていた。


「アスハの能力があればここまで辿り着けるだろうけど」


 ひどく美しい銀河が異界の天上に映し出されていた。

 燃える星の運河が仮初の夜空の果てまで続いている。輝きは無機質な地上の廃都市を照らす。

 ダンジョンでなければ、何時間でも心奪われるような佳景だ。


「それまで魔力、持つかな」


 星海の下に集うは五人。襲撃者である異世界帰還者が彼女に立ちはだかっていた。


「大の男が寄ってたかって弱い者いじめなんて、みっともないわねー。それとも、こんな乙女とはまともに話せやしないコミュ障の集まりかしら?」


 嵐を前にしても花は折れない。その気迫は五人の覇気に劣らなかった。


「このオレ相手に信じらんねー口の利き方しやがって。皇女サマでも奴隷の女の子でも初対面から優しかったってのに」


「悲惨な目に遭った人間にほんの少しの慈悲を与えて虜にする。それ、詐欺師やDV彼氏と同じ手口ですよあなた」


「テメェも誰にむかって口利いてんだよ! オレは魔神をぶっ殺した大英雄様だぞ!?」


「うっせぇよオメェら。今は協力関係だって話ついてんだろうが」


 明らかな寄せ集め。彼らに協調性などない。あるのは野心と、ただならない魔力の気配のみ。


 前線で吠える三人衆と、高台から見下ろす帰還者二人組がリリの目に映る。


「あーあー成り上がり組は興奮しちゃっテ。ボクちんらみたいにスローライフ送ったり内政経験ないと、ああも感情抑制できない人間になるのかナ。どうよ大将?」


「好きにさせましょう。現行の社会体制を壊す。それさえ叶えば、多少の粗相は許容します」


「ンハハ、そんな大層なこと言ってサ。議事堂でも主要都市でもない他所の高校を初手で襲撃してる時点で、大将の学生時代コンプが丸見えでっセ~?」


「訂正。あなたも少し口を慎んだ方がよろしいかと」


 仲間同士の口論、軽口、談笑。そこから感じられる余裕には、確かな証拠がある。


 ――その帰還者達は全員、各々の異世界を制してきた最強格の征服者。紛うことなき一騎当千の戦力だ。


「前線にはいたけど。バックアップなしにこれだけの相手はきびしいかなー……」


 使役可能な召喚獣のほとんどを全校生徒の救助に割いていたリリに、彼らを屠る火力は残っていなかった。

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