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第十二話 剣聖の野望

「今宵は月が満ちている。魔法なきこの世界でも、満月は私達の魔力を昂らせますね」


「良い夜じゃなイ。凱旋にはもってこいのテイストダ」


 月明りは背徳者二人を照らした。

 異界からの帰還。二十日ぶりに俗世へ戻った二人は鉄橋の上から街を見下ろす。ニヒルな笑みを浮かべて。


「準備はいかほどで?」


「バッチリって感じサ」


 今宵のため、剣聖は剣を振るった。障壁となる全てを迎え撃つべく。

 今宵のため、奇術師は数多の仕掛けを張った。内に秘めた欲求を満たすべく。


 千景学園を襲撃した日よりも、彼らの魔力は多く練り上げられていた。


「大将はサ、なんで社会をぶっ壊したいノ?」


「私は……もう一度だけ叶えたい夢があるんです」


 剣士は懐かしき異世界を追憶する。その記憶の中に彼の願いはあった。


「私の元で統治する理想の独裁国家。それをこの世界で再建するのです」


「ヒュ~驚いタ。まさか大将にそこまで過激な政治思想があったなんテ」


「独裁、という言葉は些か強すぎるかもしれませんね」


 苦笑するグリフェルトは言葉を改める。


「理想の独裁国家というものは、優れた統治者によって生み出される公平で平和な世界です。決してディストピアなどではありませんよ」


「でもサ、その理想国家をつくる前にケッコーな数の人間も殺すんでショ?」


「間引き、選別、剪定。過去の歴史でいくらでも行われてきたことです。ノアの箱舟だって、同じことでしょう」


「ハハッ、言い得て妙ってやつだネ」


「そういうあなたは、何故破壊を望むのですか?」


「似たよーなもんだよ、ボクちんモ」


 聖書を読み上げるように奇術師は語り出す。デルネウゾは空で本をめくるジェスチャーをしてみせた。


「ボクちんの異世界には裁定の理(システム)があって、命としての在り方に一種の正解があっタ。冤罪も免罪も存在しない世界サ」


「ほほう? 絶対的な正義の審判が存在した世界、ですか。それもまた一つの理想郷の形ですね」


 デルネウゾは身に着けた装飾品を揺らしながら、青白い月を握りしめる。


「ボクちんはまたそんな世界に君臨して、尊敬されて、自由に生きたいってだーケ。だから同じ理想な大将の下で働くし、その独裁国家ってのを作り上げた後もよろしくしたいだけってこト」


「ゆえに我々は手を取った。理想の世界のため……」


 剣聖はありのままを語り、鉄橋下に目を向ける。


「今の話を踏まえて、どうかな? 一度は刃を交えかけた間とはいえ、互いに手を取り合うのは」


 視線の先には、グリフェルト達を見上げる青年が一人。相容れない思想に、灰燼は嫌悪感を示していた。


「紙があったら焼き捨てたい内容だったね。脳に虫でも住み着いてるかと思ったよ」


 敵を前にし、アスハは義憤の眼光を送る。既に覚悟は装備していた。


「悲しいものだな。ありのままを伝えても、自分の理想が理解されないのは」


「しょうがないサ大将。こういう理解できない人間があるから、ボクちん達が作り変える必要があるんだっテ」


「俺の方こそ理解に苦しむね。統治だの支配だの……この手の帰還者は同じ末路を辿る」


 対話も交渉も必要はない。淘汰するか、されるかを決めるためだけの殺し合い。その意志のみが両陣に共通する。


「守衛は任せましたよ、デルネウゾ」


「はいは~イ、またね大将」


「この期に及んでまだ逃げるつもりか」


「ちょっとちょっと、せっかちだナ~。標的を間違えてんだよガキ」


 グリフェルトは再び異界に消える。

 退避ではなく何かに備えるような素振りを見せた。


 剣聖を再び発見できると信じ、アスハの殺意はまず魔人王へ向く。


「やっと見つけたんだ。ここで決着としよう。お互いのためにも」


「言っておくケド、ボクちんも大将も前回と違ってフルスロットルだからネー。自決するなら腕と舌があるうちがオススメだヨー」


「ありがとう。お前達を殺すときの参考にするよ」


 鉄橋の二か所が粉砕される。音が響いた頃には、アスハとデルネウゾは拳を交えていた。

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