何があっても、そばにいる
駅のホームの隅に、小さなカバンを抱えて座り込む少女がいた。
制服の袖に泥がつき、肩は少し震えている。
その隣に、彼女が気づかないほど自然に、ひとりの青年が立っていた。
傘も差さず、ただ黙って、少女のそばに。
「……誰?」と彼女が気づいて顔を上げたとき、青年はふわりと微笑んだ。
「忘れたかな。ずっとそばにいたんだけどな。君が泣いてるときも、笑ってるときも。」
少女はまぶたを細める。どこかで聞いたことのある声。見たことのある目。
だけど思い出せない。ただ、不思議と怖くなかった。
「なにもかも投げ出したくなること、あるよね。君、今日頑張ってたじゃない。誰も見てないように感じたかもしれないけど、ずっと見てたよ。」
少女の目に、じわりと涙がにじむ。
「うまくいかなくて……言いたかったのに、言えなかった……」
「知ってる。あのときも、あのときも、言葉にできなかった気持ちがいっぱいだった。だけどさ――」
青年は、彼女の目をまっすぐ見て言った。
「君は、何度だって超えてきただろう。何があっても、乗り越えてきた。君ならまた、きっと。」
少女は、はっとして涙を指でぬぐう。
「でも、また傷つくのが怖い。ひとりで戦うのは……」
「ひとりじゃないよ。No matter what――何があっても、I will stand by you。僕はずっと君の味方。」
その言葉が、まるで心の奥に落ちていた欠片を包み込むように響いた。
温かくて、やさしくて、泣きたくなるほど懐かしい。
「あなた……誰なの?」
少女がようやく問うと、青年は肩をすくめて微笑んだ。
「君の心の中にいた誰か、ってことで。明日、少しだけ顔を上げてみて。君の歩く道に、ちゃんと光が差すよ。」
気づけば青年の姿は消えていた。
けれど彼の声は、風に混じって彼女の背をそっと押していた。