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大好きな妹に婚約者を譲ったら女嫌いで有名な公爵様に溺愛されました。

作者: 瀬尾 桜華

小説の設定?みたいなのが長いですが、大目に見て読んでもらえると嬉しいです!!


私、シェリア・ヒルレールが前世を思い出したのは3歳のとき。高熱を出し、10日ほど生死をさまよっていた時だった。

私はここが、前世に私が大好きだった『本物のヒロインはだれ?』という小説の世界だということを思い出した。

でも、もうひとつ思い出してしまった。私は物語が始まって15ページでご退場する()()の悪役令嬢だったのだ!


この物語、通称『本ヒロ』は伯爵令嬢シェリア(私)の婚約者である侯爵令息がシェリアの妹シシィと恋に落ちることから始まる。だが、婚約者を心底愛していたシェリアは激怒しシシィに対して意地悪をするのだ。しかし、そのことにより婚約破棄されシェリアは修道院送りにされてしまう。


これで最初の悪役令嬢(つまり私)はご退場だ。


ここまでだとシシィはヒロインのようだが違うのだ。

シシィは恋多き女だった。ある日、第1王子を一目見て恋に落ちたと言い、王子に付きまとい始めるのだ。だが、第1王子は国を1番に考える人だったので上手くいかなかった。そこでシシィは第1王子と自分は想いあっている、秘密で付き合っているなどの噂を流し始める。それに噂好きの人達が

「女に興味が無いと言われていた第1王子が!?」

と言って食いつくのだ。だが、噂を流し第1王子の婚約者である公爵令嬢を陥れようとしたとして公爵家と王家により爵位の剥奪、領地を王家に返還し身分を平民に引き落とすことになってしまう。

これで2番目の悪役令嬢はご退場だ。

そして、最後に第1王子の婚約者が、シシィと同じように第1王子に言いよった隣国の侯爵令嬢を断罪する。

しかもこの侯爵令嬢、婚約者のいるたくさんの男性と関係を持っていた毒婦だったのだ。


だが、その後第1王子の婚約者の家が何年にも渡って横領を繰り返していたことが発覚する。その上、公爵令嬢本人も積極的に悪事に手を染めていたのだ。王家に仕える身でありながら、王家を欺いた罪で一族皆処刑されてしまう。

これで3番目と4番目の悪役令嬢はご退場する。

まだ続きがあるが私は続きを読む前に死んでしまったので分からない。誰が本当のヒロインなのか。

続きの予告に女の人の後ろ姿が載っていたから、彼女が、新しく登場し、ヒロインなのかもしれない



そんな時、母に子どもができたことが知らされた。

私は怖かった。この子が産まれれば私は死に1歩ずつ近ずいて行っているのではないか、と。

ずっと、怖くてこんな子お腹の中で死んじゃえばいいのにと、何度も思った。でも、たくさんの愛情をくれる大好きな父と母が悲しむのは嫌だった。


そんなことを考えているうちに産まれてしまった。

名前は小説通りシシィと名付けられ、母の腕の中で泣いていた。


可愛かった。とにかく可愛かった。関われば死に近ずいて行くと分かっていても、抑えられなかった。

それからの私は常にシシィにベッタリでどこに行くにも一緒、服はおそろい、勉強も、学校にも一緒にいった。

気づいたら、10年経っていた。私はもう13で、シシィは10。物語が始まるまであと、1年半。

やばい、やばい、何とかしないと、シシィに会えなくなっちゃう!


あれ?でも、シシィは小説の通りに私の婚約者に恋してるけど、わざと見せびらかして来るようなことはしないし、ワガママも言わない、なんなら、その気持ちを隠そうとしている。


もしかして、何とかなった?


もしかしたら、私が転生したことによって物語を変えちゃったのかも!?大丈夫かなぁ?

でも、出来れば大好きな世界だし、みんな幸せになって欲しいもん。

女神様、どうか許して?悪いのは私。シシィが産まれたことは悪くないわ。うん。


きっと、何とかなるわ!


週に一度の神殿で礼拝(女神様にお詫び?)をした後私はパンを買って孤児院に向かっていた。

我が家は孤児院に積極的に寄付をしているため、その娘としてよくこの孤児院には来る。

今日は、昨年結婚して、孤児院を出ていった私の姉的存在が遊びに来ていた。

彼女は旦那さんととても仲睦まじく、見ているこっちまで幸せになる。


彼女の微笑みを見たらシシィの想いを隠そうとしている、あの苦しそうな顔が浮かんできた。


はぁ。

やっぱりシシィには想い人のルーカスと結ばれて欲しいわ。

でも、ヒルレール家は私が婚約者のルーカスと結婚して継ぐ予定だし…

そうなると私は、邪魔、かしら…

まさに、小説で描かれる悪役令嬢そのものね。

あ、私は初めから悪役令嬢だったわ。

シシィは私のことを慕ってくれているから、略奪、なんてことはないだろうけど…


どうにかして、両家円満に婚約者を私からシシィに変えられないかしら?


一応、シシィには家を次ぐための教育も施してある。両親は必要ないと言ったが、私が知っておいて損は無いと思いシシィにも教育をつけさせている。

なので婚約者を交代しても困ることは無い。

けど、それがダメなのだ。逆に考えると婚約者交代する意味が無い。


何か、ないのか。私が悪いことをすれば簡単に婚約者交代ができるのだろうが、そうすると、犯罪者のいる家としてヒルレール家は選ばれなくなる。


何かいい方法は無いのかしら?



そんなことを考え初めて1年ほど経った。

  

その頃になって、第1王子がその婚約者リリアナ様を溺愛しているという噂が流れてきた。それと共に実はリリアナ様は公爵家の実子では無いことも明かされた。リリアナ様は実は隣国の王女だったのだ。

リリアナ様の母は公爵の姉であり当時留学に来ていた隣国の第一王子(現隣国の国王陛下)と秘密で付き合っていたらしい。そこでできてしまったのがリリアナ様だそうだ。リリアナ様の母は子を孕んだことを伝えようとしたが、その前に自分の家の横領について知ってしまい、逃げてしまった。

彼女は1人でリリアナ様を産んだか、元から体が弱かったため死んでしまった。そしてリリアナ様は公爵家に引き取られ今に至る。


なぜ私がここまで詳しいかと言うと、リリアナ様本人から聞いた。実は彼女も転生者だったらしく自分の人生を変えるべく動き回ったところ知ったらしい。

ちなみにリリアナ様は『本ヒロ』のことは読んだことは無かったが、彼女の前世のご友人が詳しく解説していたらしく知っているようだった。残念…

それから、よくお茶会などに呼んでいただいて仲良くさせてもらっている。


そんなある日、シシィが暴漢に襲われた。街に出かけている時に護衛が目を離した隙に見失ってしまい、今、巷で多い輩にナイフで刺されてしまった。彼らは貴族でも見境なく刺してくる。

もちろん、全員捕まえてころ…処罰を受けさすつもりだ。

私の可愛いシシィを襲ったのだから当然よね?


シシィはベッドの上で、苦しそうだった。息が荒く、顔色も真っ青で。

お医者様、お願いシシィを助けて。シシィがいないと、私…

あぁ、女神様、シシィを助けてください。


お医者様がシシィを診終わったらしく、部屋から出てきた。その顔は真っ青で。

「お医者様!シシィは?シシィは、助かりますよね?」

まさか、そんなことあるはずないと、藁にもすがる思いで問いかける。

「残念ながら、お嬢様。シシィ様のご容態は酷く。もうダメかと…」

なっ。シシィが助からないですって?

「嘘よ。うそ。シシィが死ぬなんて。」

後ろで、お母様とお父様が息を飲む音がする。

「そんな、シシィ…」

「なんで、シシィなんだ…」

ねぇ?嘘よね?シシィが死ぬなんて?

私は医者を退けてシシィのいる部屋に入った。

「ねぇ、シシィ。」

「…」

呼びかけても、ただシシィの荒い息をする音が聞こえるだけ。

「シシィ、いつもみたいに「お姉様、だいすき、」」

私はびっくりして顔を上げた。

「シシィ?」

「お姉様、 私ね、ルーカス様のね、 ことがね、 好きなの、 ごめ、なさ、 い」

「たぶん、こんなこと、 いったら、 お姉様、私の事嫌いに「ならないわ!シシィは私の大事な妹よ?私がシシィのこと嫌いになるなんてことないから!この先ずっとよ…だから、シシィ私の事置いてかないで…私より先に居なくならないで…」」

背後で、お母様とお父様が驚きの声を上げている。

お母様とお父様はシシィの気持ちに気づいていなかったものね。

「ごほっ、ごほっ、うぅ」

シシィが傷が痛んで来たのか血を吐いてしまった。

「シシィ?!シシィ!」

こんな時、聖女様でもいたら…

「おねぇ、さま、いたい、たすけて…」

シシィのそんなか細い声を聞いて我に返った。

私は馬鹿だ。シシィを助けられるのは私しかいないのに。いつだってシシィのことは私が助けてきた。勉強が分からないと言われれば、一流の家庭教師を呼んだし、お腹がすいたと言われれば、世界各国から美味しい食べ物を取り寄せた。

シシィは私が助けないと。

いいえ、絶対私が助けるの!


そう決意した瞬間、私の体が光り出した。

体が光ったというか、光に包まれているような…

「な、なにこれ?!」

すると、光は私の中に吸収されるかのようにして収まった。

「な、なんだったの?」

自分でも何が起こったのか分からない。体が光るなんて聞いたことないし…

「女神、アルカディアの奇跡…」

そしたら、ぽつりとお母様がそんなことを零した。「「それって…」」

「そうよ。あなたたちが知っている通りの女神アルカディアの奇跡よ。」

女神アルカディアの奇跡とは、我が家に代々伝わる奇跡である。1代に1人(もしくは出ない時もある)女性に授けられると言われる女神アルカディアからの奇跡である。その人が誰かを助けたいなどと強く願った時に発現する。

ご先祖様が女神様の愛し子と結婚したため、我が家は奇跡の力が強い。奇跡を使うと治療の力を使うことが出来る。ただし一度きり。

「それなら、私はシシィを助けられる?」

「でも、奇跡を使ってしまうと五感のうちのひとつを失ってしまうの。」

お母様はきっと私が五感のうちのひとつを失って苦しむことを心配しているのだろう。でも、そんなのどうってことない。私にはシシィがいるから。

「そんなこと、シシィのためならどうってことないわ。私はシシィを助ける。」

「あなたなら、大丈夫そうね。シェリア、私からもお願いするわ。シシィを助けて。」

「すまない、シェリア。頼めるだろうか?」


「任せて!」


「女神アルカディア様、私はシェリア・ヒルレール。どうか私の妹シシィ・ヒルレールをお救い下さい。」

少しするとシシィを暖かい光が包み込み傷が治っていくのがわかる。

「ん、あったかい。もういたくない、おねぇさまありがとう…」

シシィは疲れたのかゆっくり瞼をとじ、眠った。

奇跡を使ったシェリアが眠りに着くのも同時だった。



それから数日後、シシィは完全回復して、元気いっぱいだった。

「おねーさまぁ、起きて〜、シシィと遊ぼ?」

奇跡を使ったものは数日眠るためシェリアはまだ眠っていた。

「こら、シシィ。シェリアの眠りの妨げになってしまったら、どうするのですか。」

「だって…お姉様がずっと眠ってるのシシィのこと嫌いになっちゃったからかもしれないし。」

「お姉様に、シシィのこと大好きだよって言ってギュッてして欲しいんだもん。」

「だから、「シシィ、大好きだよ。」」

シシィは瞳を大きくして驚いている。

「まぁ、シェリア起きたのね!旦那様に言いに行かなくちゃ!」

「お、おねぇさま?」

「うん?お姉様だよ?シシィのことが大好きなお姉様です。シシィはお姉様のこと好きですか?」

「う、うん、だいすき。だいすきです。シシィのこと助けてくれてありがと。」

そのあと、父と母が来るまで私はシシィとずっと抱きしめあって泣いていた。けど、始終穏やかに笑っていた。



あぁ、ほんとシシィが無事で良かった。女神アルカディア様、お救い下さりありがとうございます。

貴方様のおかげでまだまだ人生を楽しめそうですわ。

「あぁ、シェリア、起きたんだな。おはよう。」

お母さまがお父様を呼んできたみたいだわ。

「えぇ。お父様、おはようございますわ。」

「シェリア、体に異常はないか?なにかあったら言うんだぞ。起きたばかりだからくだも…………」

あら?お父様が口パクをし始めたわ?それになんだか耳鳴りもするわ。

「お父様、どうしましたの?なにか驚くようなことでもありまして?」

お父様があまりにも口パクをするものだから、私は周りを見渡してみる。

?? 何も無いわね。変ね?

「お父様、どうしましたの?どうしてずっと口をパクパクさせていますの?」


SIDEシシィ

お姉様が起きて、私の事、大好きって言ってくれて嬉しい感情に浸っていたらおかしなことを言い始めた。

「お父様、どうしましたの?なにか驚くようなことでもありまして?」

「お父様、どうしましたの?どうしてずっと口をパクパクさせていますの?」

おかしい…

お父様は、お姉様が起きたばっかりだから果物でも食べる?って心配して聞いているだけなのに、()()()()()の?

()()()()()


もしかして、お姉様は私たちの声が聞こえないの?

「お、お姉様、シシィの声聞こえるよね?」

問いかけても、お姉様は返事をしてくれない。

「お姉様!お姉様!」

大きな声で呼んでもお姉様は返事をしてくれない。

「シシィ、もうやめなさい。シェリアは聞こえなくても今起きたばかりなのですよ。」

お母様に注意された。

「シェリア、おまえは聴覚を失ってしまったのか…」

「お姉様の聴覚は戻らないのですか?お母様…」

「シェリアは女神様の奇跡を使ったのですから、五感を失うのは仕方の無いことです。戻す方法は…聞いたことがないですね。」

そうよ。お姉様は女神様の奇跡を使ったから、聴覚を失ったんだわ。

「それって私のせい…私のせいでお姉様は「シシィのせいじゃありません!」」

驚いてお姉様の方を見た。

「シシィ、あなたが考えることぐらい分かります。シシィならきっと自分を責めてしまうでしょう?でもね、これは私が決めたんです。シシィを助けるって。それに私の五感ぐらいでシシィを救えるのなら、いくらだって差し出しますよ。」

ぼろぼろと涙がこぼれてくる。

そう言ったお姉様の瞳は凛としていた。

「おねーざまー、だいずぎでずー」

そのあと私はずっとお姉様に抱きついていた。


SIDEシェリア

私は聴覚を失ってしまったが、今私に抱きついてくれている可愛いシシィを守れたなら平気だわ。


「お母様,お父様、後日私の体調が全回復したら、私の婚約の件で話があります。ルーカス様とそのご両親方にも参加して頂きたく思います。」

シシィが悲しそうな顔をしているわ。

「大丈夫よ。シシィはお姉様が幸せにするからね。」

お父様が、頷きながら両手で7を作っているから1週間後ってことかしら?

「えぇ、お願いしますわ。」



それから私は順調に回復していった。

ついに1週間たち、両家の話し合いの場が設けられることになった。

ルーカス様方がきて、ほんわかとした雰囲気になっていた。


実はこの婚約お母様とルーカス様のお母様であるアメリア様がこれからも仲良くしましょうという意味を込めてむすんだものだった。

2人は学友で仲良しだったらしい。

アメリア様はとても優しくて周りに気遣いのできる素敵な女性だ。私の憧れだったりもする。

そんなアメリア様と義父様はまさにおしどり夫婦だ。

我が家も結構仲のいい夫婦だと思うがアメリア様方には負ける。

まぁ、そんなこんなで本題に入りたく思う。

「お父様、そろそろ…」

お父様は頷いてくれた。伝わったらしい。

ここ数日でテレパシーが上手くなったのかもしれない。


着席して数分、私は口を開いた。

「今日、こちらに来ていただいたのは私とルーカス様の婚約についてです。私は女神様の奇跡を使ったため、聴覚を失いました。そのため婚約破棄をさせて頂きたく思います。」

ルーカス様たちが驚いている。でも、聴覚を失ったせいで何を言っているのか分からないわ。

「仰っていることが分からないので、こちらの紙に書いて頂きたいですわ。っと、その前にお父様、お母様、詳しく説明して上げてください。」

その後、お父様とお母様が説明している時、シシィの方を見て涙ぐんでいたり、顔を真っ青にしたりしていた。

「と、言うわけで私は別荘ででも療養しようと思うのです。」

すると、ルーカス様が紙に「そしたらヒルレール家は誰が継ぐんだ?」と書いてくれた。

あぁ、そっかシシィに家を継ぐ教育を受けさせていることは誰にも言っていなかったわね。

「シシィがルーカス様と結婚して継ぎますわ!」

そう言ったら、この場にいる私以外の人が口を開けてポカーンとしている。あら、シシィもね。

今度はシシィが紙に書いてくれた。「私、家を継ぐ教育を今から習うのは無理です」

「シシィ、これまであなたが受けてきた教育は他家に嫁ぐための教育じゃなかったの。」

シシィがハッとした顔をした。自分が習わされていた内容に気づいたようだ。

シシィは急いで紙に「でも、それではお姉様がこれまで努力した分が失われてしまいます」と書いた。

「シシィ、そして皆様、私、ルーカス様に焦がれていた訳ではありませんの。それに、私はシシィとルーカス様の仲を引き裂くようなことはしたくありませんの。」


侯爵家の皆さん、びっくりしてらっしゃるわ。ルーカスとシシィが密かに想いあっていたこと、気づいていなかったのね。


シシィは姉思いのいい子だから私の事、心配してるのね。何か言いたげな表情だわ。

「シシィ、私夢があるのです。平民としてたくさんの花を育てて生活してみたいのです。お母様、お父様、アメリア様、義父様、婚約破棄及び婚約者交代、して頂けないでしょうか?」


義父様が「ルーカスの婚約者はシェリア嬢から、シシィ嬢へ変更する」と宣言するかのように書いてくださった。

これで安心ね。


お父様から、あとは任せて!の合図を頂いたわ。


「シシィ、お姉様と少し話しましょうか。」

こくこく…

「お庭にでも行きましょ。」

こくこく…


SIDEシシィ


このお庭はお姉様が生まれた時に作ったらしい。今では、お姉様と私の好きな花が沢山植えられていて色鮮やかだ。

「ここのお花はいつだってきれいね。庭師さんがいつも整えてくれているから。」

お姉様にわかるように、コクコクと頷く。

「わたしね、平民として暮らそうと思うの。」

え?平民?お姉様、ここから居なくなるの?そんなの嫌!

『なんで?お姉様、シシィと一緒にいてくれないの?』

私の気持ちを伝えるために急いで紙に書く。お姉様には綺麗な字を見せたいけど、急いでいるのでこの際読めるなら汚くてもいい。

「私、花屋さんになりたかったの。でも、さすがに貴族は辞められないから、平民のふりをして花屋になろうと思って。」

つまり、表向きは療養ということにして平民になるということ。

『それじゃあ、もうシシィと会えなくなっちゃう!』

「うーん。じゃあ、シシィ、ルーカス様との婚約が整ってきたら、私の花屋に1ヶ月1回くらいで遊びに来て?お忍びで花を買いに来るの。私もシシィに会えないのは辛いもの。」

『おねえさま、シシィと会ってくれるの?』

「もちろん!そしたら、私は大繁盛ね!シシィのかった花だもの。お忍びでも分かっちゃうわ。これはお父様とも話して決めたから。大丈夫。そんな、泣かないで。」

私は気付かぬうちに泣いていたらしい。やだなぁ、お姉様の前ではちゃんとしていたいのに。

「シシィ、あなたは私の自慢の妹だわ。それはいつだって変わらない。お姉様は少し離れるだけだもの。ね?大丈夫。大丈夫」

とん。とん。

私はいつの間にか眠っていた。目が閉じる前にルーカス様が見えた気がする。


SIDEシェリア

それから、私は家を出た。シシィは迎えに来たルーカス様に預けて。本当は私が運びたかったけど…

私の筋力じゃあ、無理だから。

向かう先はお父様に用意してもらった一戸建てのお店(お家かしら?)。これから内装や外装を可愛くしてお花屋さんっぽくするつもりよ。

何のお花を売るかとかは今から決めるつもり。だいたい半年後には開店する予定よ。


それからの私は大忙しだった。毎日色々な市場を見に行ってどこで仕入れるかを決めたり、どのくらい仕入れるのかや何の花にするか。店の装いも決めるわ。

でも、たまにシシィが遊びに来てくれた。シシィとルーカスとの結婚式の日取りはちょうど私のお店の開店1ヵ月記念日の日に決まった。シシィは結婚式で持つブーケは、私のお店で発注してくれるみたい!シシィを世界一可愛く、着飾るわ!

ブーケだけだけど…

あと、私喋っていることを見て読み取れるようになったの。家を出た時から毎日先生のところに通っていたのよ。

それから、素敵な場所を見つけたの。乗合馬車に乗って10分の所にある植物園よ。沢山お花が咲いているわ。種類も豊富だし。最近はほぼ毎日通っているわ。

もう知り合いもできちゃったくらい。

そういえば、私はまだ誰にも仮にも貴族であることはバレていないわ。

植物園には絵を描いてる人とか図鑑を片手に詳しく調べている人がいる。もちろん私と同じように見て楽しむ人も沢山いるわ。


今日もお花たちが可愛いわ。風に揺れて私をお出迎えかしら?いつも通り大好きな花畑があるところに行く。今日も見慣れた顔があ…る……?

(誰あの人?お花を見ているのにすっごく険しい顔をしているわ。なにか困り事かしら?)

明らかに彼は浮いている。みんなほんわかしているっていうのに、騎士団の制服で険しい顔しちゃって。そんな顔してるから周りの人が居心地悪そうだわ。

恋人のことを考えるならあんな険しい顔はしない。なら、誰かへの贈り物?

ってよくみたらあの人知ってるわ。フェリシオン家嫡男であり王国騎士団長を務めるアレクシード様だわ。とても整った顔立ちをされていて、社交界には滅多に出てこないが出てきた時は女性からのアプローチが後をたたないんだとか。そりゃあ未来の公爵様だもんね。その上美麗秀麗の騎士団長様。でも、ご本人は女嫌いらしくて、話しかけても冷たい瞳で睨まれて声をかけた人もビクビクしちゃうんだって。


私は遠目で見たのが初めてね。ずっとシシィといっしょにいることしか考えてなかったから色ごとには疎くて。

(そんな女嫌いの騎士団長様がお悩みとすればきっと、誰かの結婚式ね。見てる花がブーケに使われるものが多いし。)

ついお花のことになると興奮しちゃって、いつのまにか話しかけていた。

「こんにちわ、騎士団長様。お困りのようだったので。どなたかの結婚式でしたら、鈴蘭がおすすめですよ。鈴蘭の花言葉は純粋、幸せ。お相手の幸せを願っていると思いませんか?あとはガーベラとか。花言葉は希望、前向き。希望を持って前向きに進んでねという意味で送っては?」

騎士団長様はポカーンとした顔でこちらを見ている。やっちゃった。急に話しかけられたらびっくりするよね。あ、もしかして、結婚式じゃなかった?

「君は誰だ?何が目的だ?」

騎士団長様って人間不信なのかしら?普通に喋れてるわ。

「私はリアです。花屋をやっているんです。正確には来週からですが。花が好きでお花のことで困っているようでしたので何か助けになれば、と思って。」

「君は鈴蘭とガーベラが好きなのか?」

「はい。特にガーベラが大好きです。見ていると自分に希望が持てるというか。」

「そうか。だが、お前はなぜ俺が結婚式の花を選んでいると思ったんだ?ましてやここは植物園で花屋じゃない。どうせ俺を知っているあたり、公爵夫人の座を狙ってだろう?」

「えっと…その…」

「まぁいい。結婚式があるのは事実だからな。花の情報は感謝する。だがそれ以上はないからな。」

騎士団長様は足早に立ち去ろうとする。やばい、勘違いされてる。それに私が欲しいのはシシィの1番だけなのに…公爵夫人なんてなりたくないわ…

「ち、違うんです。騎士団長様のそういう噂は聞かないですし、花を渡すとかそんなことしなさそうな雰囲気だったものですから。でも、これを言ったら不敬だと思いまして。」

sideアレクシード

昔から女は嫌いだった。浮気者の女とそんな妻を愛してやまない父である公爵。ただ救いだったのは俺には興味がないことだった。押し付けがましくないと言えば聞こえが良いが、あれはただの無関心だ。俺のことなんて眼中に入っていない。昔は子供だったこともあり父の関心を惹こうとしたことだが、今となっては阿呆らしい。

俺が母と浮気相手の子だったらよかったものだ。そうすれば、貴族としての務めを果たさなくても何も言われない。流石に知らない子供を自分の子とするのは嫌だったらしく、父はあの女に監視をつけていたらしい。

そんな女を見てきたから女は誰しもがそういうものだと思ってしまう。実際俺に近づいてくる奴は公爵夫人の座を狙っている奴ばかりだ。それ以外はこの整った容姿ばかり見ている奴だ。


それなのになんだ、この女。不敬?そんなこと考えていたのか?話しかけられた時不覚にも可愛いと思ってしまった。だが、俺のことを知っている限りこれまでの女と変わんないと分かった瞬間すこし気持ちが落胆した。

気がないフリをして俺に近づいてきたやつなんてたくさんいた。それなのに何故かこの女だけは違うと思ってしまう。穏やかに微笑む彼女はとても純粋な瞳をしていて愛らしい。

「あ、あの…ごめんなさい。やっぱり不敬でしたよね。すみません、今回だけは見逃していただけないでしょうか?まだ夢を叶えていないんです。」

「リア、この植物園を案内しろ。」

「はい、罪は償いま…え?案内?そ、それなら園の人にしていただいた方が詳しいのでは…」

「罪。償うんだろ?植物園の案内で見逃してやるよ。」

「そ、そういうことなら…私に出来る限りやらせて頂きます。」


sideシェリア

その後私とアレクシード様は植物園を一通り見たあと、ガゼボで少々談話していた。名前は堅苦しいから名前で呼べって言われて…これは不敬に入らないわよね?

「なるほど、つまりアレクシード様は第1王子殿下とリリアナ様の結婚式のためのお花を探していたと。」

私の言葉にアレクシード様はピクリと反応した。

「俺のことは初対面で騎士団長様と呼んだのに王女殿下のことは名前呼びか?君はさっきから妙だ。花屋だと言っておきながら、貴族のような振る舞いをする。しかも王女殿下ともあられるお方を名前呼びなど、君はほんとに平民か?」

うわぁ、めざとい。緊張して口が滑ったわ。何か弁明を…

「す、少しご貴族様に関わったことがあるというか、」

「ふぅん少し関わるだけでこの国の未来の王妃を名前呼びできるのか?君はすごいんだな。」

アレクシード様が全てを見透かしたかのような瞳でこちらを見つめてくる。

「え、えっと」

「ほんとにそれだけ?」

「も、元貴族だったんです。」

そう言った途端彼は目をまん丸にした。

「貴族とはいえ王太子の婚約者に会うには伯爵位以上は必要だろう?だが、20年ほどは貴族令嬢が没落したという話も、追放された話も聞いたことないぞ?」

ひっ、墓穴を掘った!そこまで覚えているの?

どうしよう。私は世間的には病で療養中だから元気に花屋をしてる、なんてバレたら大変なのに!

ここは…

 ―ガタッ―

「すみません、私今から予定があるのを思い出しましたわ。お先に失礼!では、ご機嫌よう!」

逃げるが勝ちよ!!!

急いで席を立ち走った。こういう時平民の服装だと走りやすいし、この植物園は構造を知り得ているから逃げ切れる!

「あっ、おい!待て!…騎士団長の俺から逃げられると思っても無駄だ。」


わけなかった!あっけなくアレクシード様に捕まった。

「安心しろ、俺は君をどうこうするつもりは無い。」

「…本当ですね?」

「あぁ、騎士として誓おう。君に危害は加えない。

「分かりました。逃げたりしようとしてすみません。」

「まぁ、少しびっくりしたが。リアはいつもここにいるのか?」

「はい。ここ最近は毎日。」

「じゃあ、これから毎日ここに来よう。リアも来てくれるね?」

「え、あ、はい。」


それから二週間ほどして私は店を開いた。あれ以来アレクシード様とは毎日植物園で会っている。毎日一緒にいるとわかるもので彼はとっても優しい人だった。そしたら気付かぬうちに彼を好きになっていた。でも、私は平民の花屋になる。これ以上好きになって辛い思いをしたくない。これから一ヶ月耐えてシシィがルーカスと結婚して既成事実ができればなんと言われようと「でも、もう結婚してるし」で逃れられる。だからシシィたちが結婚したらアレクシード様にはサヨナラするつもりだ。


「そして待ちに待ったシシィの結婚式!」

ついにこの日がやってきた。シシィが結婚しちゃうのは悲しいけどルーカスがいい人で浮気なんかしない人だって知っているから許そう。

もし、誰か知り合いに会ってしまったら危険なので髪は黒く染めた。シシィと同じ金髪で本当は染めたくなかったけどここはやむを得ない。結婚式が終わったら元に戻そう。結婚式に出席する時もシシィの遠縁として出るつもりだし。顔が知られてるからバレるとまずいしね。


シシィが持つブーケは私が作ったわ。シシィにピッタリの明るい希望を持った花を集めたの。

「お母様、お久しぶりですわ。」

「まぁ、シェリア久しぶりね。耳の調子はどう?」

「なんとも。でも、口元を見て大抵の事は見て分かりますの。お母様緊張してる?娘の結婚式ですものね。」

「そうね。それもあるのだけれど今日はフェリシオン公爵子息が来てらっしゃるから。」

「…え。そうなの?」

「実は2週間前くらいかしら?夜会で、ご挨拶した時に結婚式の話題になってぜひ招待状待ってますって言われたから送っちゃった。」

送っちゃったじゃないよ。たしかに送らないわけに行かないけど…

まぁ、きっと偶然よね。

「シシィは今、控え室かしら?」

「えぇ、私たちはさっき行ってきたからシェリアも行ってきたら?」

「そうね。じゃあ行ってくるわ」

振り返って式場の出口に向かっていたら出口の真横ににアレクシード様が立っているではありませんか。

完璧な笑みで素通り…

「リア、久しぶり。1週間ぶりくらいか?」

周りがザワっとした。あのアレクシード様が自ら笑顔で女に話しかけに行ってるんですもの。嫌だ。目立ちたくないのに。私は花屋。平民。あぁ最悪。

「まぁこんにちは。すみませんが他の方とお間違えではないでしょうか?」

「まさか()()の顔を間違えたりはしないさ。」

え?こいびと?恋人…はぁ?!なになになに?!どういう意味?

「さぁ、そろそろ行こうか。妹君にご挨拶に行かないと。」



ポカーンとしているうちに控え室に連れられてきたらしい。ぼけーっとしたままシシィに会ってきた記憶がある。

「あの、どういうつもりですか?私が嘘ついたこと怒ってあんなこと言ったんですか?」

「嘘をついたのは認めるんだな。」

「それはもうバレてますし。でもごめんなさい。あなたに話しかけられたせいで注目されたのが嫌だったんです。ごめんなさい。」

「まぁ、それはいいよ。それで恋人って言ったことについてだが…


シェリア、君が好きだ。」


声は聞こえない。けれど、表情の一つひとつが、まるで旋律のように心に響いていく。

「嘘…私のことが好き?」

「嘘じゃない。シェリア、君が好きなんだ。…愛してる。」

その唇が紡ぐ言葉を、シェリアは目で追っていた。


「……アレクシード、様……?」

彼の名を呼んだ瞬間、胸の奥がふっと熱くなった。

涙が頬を伝い落ちる――その刹那。

――ポトッ。

涙が落ちる音。そして、彼の息遣い。

「……聞こえる……?」

驚きと喜びが入り混じった瞳で、顔を上げた。

アレクシードの瞳が、優しく細められている。

まるで、祈りが届いたとでも言うように。

「シェリアは俺の事好き?」

「…っ好き!愛してる。聞こえる…聞こえる!」

「シェリア…愛しています。俺と結婚してください…」

「っ…はい!」


その後会場に戻りシシィたちの結婚式を見届けたあと私はアレクシード様と両親のところに行き事情を説明した。両親は泣いて喜んでくれた。

その後すぐ婚約し異例の速さで結婚した。シシィの結婚式の1週間後だ。そんなに早くできるの?!と思ったがさすが公爵家できてた。


悪役令嬢に転生してどうなる事かと思ったけど可愛い妹を溺愛してたら女嫌いの公爵に溺愛されてました。




「ねぇ、見た?!まさか本ヒロのヒロインあの子だったなんて!」

「見た見た!まさかの最初の悪役令嬢()()()()だったなんてね!」

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