色彩
君は頬を紅く染めながら、恍惚とした表情で僕の顔に白い躰を押し付けた
僕は跪いた姿勢で君の両脚を抱きかかえ、ベッドで眠る子供の安らかさで眼を閉じる
歳の頃の近い少年の匂いが、僕は好きだった
刹那、君の皮膚を破って鮮血が飛び散り、僕の躰を紅く濡らした
「また濃くなったね」
僕は血に濡れた髪を掻き上げると、裸の躰中を濡らす血液を指で掬っては舐める
「そんなに気持ち良かった?」
僕がいたずらな視線で視ると、君は弾かれたように視線を逸らして小さく頷いた
僕たちが増血剤を過剰摂取するこの遊びに耽溺し始めてから、何日が経過しているか既に解らなくなっていた
世の享楽のすべてを蒐めたかのように飾られていたこの部屋も、いまや濃密な生命の色彩に塗り潰され油絵のように染まっていた
一滴も出なくなるまで血を吐き尽くした君が、糸が切れた操り人形のようにベッドに倒れる
裂けた躰は既に元通りになっていた
君を腕枕すると僕は君に口付け、そして耳元で囁く
「次はさ」
「そろそろ死んでみたくない?」
意味が解っているのかいないのか、君は虚ろな眼で僕の方を視る
「きっと、すごく気持ち良いよ」
「僕は君の死ぬところ、余さずに味わいたいな」
そして君を押さえ付けると、肩を噛んで血を啜った
粘つく紅い味を音を立てて飲み込むと、それは僕の喉に甘く染みていった
君は眼を閉じて震えながら快楽に耐えていたが、僕が肩から離れると荒い息をしながら「死ぬのはちょっと怖いよ」と答えた
僕は何も言わずに、次の増血剤の注射器を取り出すと君の腕に刺した
そして次の注射器も、その次の注射器も突き刺す
君は躰の中で血が過剰に生成されている筈なのに、青褪めたような顔をしながら「怖い」「ねえ怖い」「やめてよ」と何度も繰り返し、眼を見開いて僕を視た
───綺麗だ
口付けると、君の口から止め処なく鮮血が滲んできた
僕はそれを貪るように呑み続けた
「助けて」
過呼吸を起こしながら、自らの血を喉に詰まらせて呼吸出来なくなりながら、君が言う
「死んじゃう」
君の両腕が、助けを求めるように僕の背中を彷徨った
「でも」僕は言った
「君の死ぬところは、世界一可愛いね」
汗と血液で濡れた君の髪を撫でる
「好きだよ…」
君の額に僕は口付けた
君は咳き込み、喉に溜まった血を吐き出す
湿った紅い生命の匂いが、僕の肩や胸を染めた
君は「本当?」と僕の眼を視た
「なら死んでみる」
「頑張って死ぬ」
「だから僕の事、一生好きでいてね」
僕たちは互いの背に手を回すと、慈しむように優しく抱き合った
君の躰が強く痙攣する
腕の中で君の躰が爆ぜる
命が液体となり僕を、この部屋を紅くした
僕はいつまでも、恍惚と血に染まるすべてを視続けていた