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俺は〔ヴォン・コントレール〕という大技の発動モーションを入力。エペ・ラピエル専用インスキルで、紅い花びらの旋風を巻き起こしながら逆手突きを行う。攻撃後、旋風の範囲内で何体もの〝俺〟が現れて攻撃して消え、をくり返す分身連撃が付随する。
二割以上残っていたゴーリキンのHPは、見る影もなく削れていった。パリィを二回までしたのはさすが高ランカーと言えるけど、裏取りした分身の攻撃までは防げなかった。HPゲージが砕け散り、彼のキャラクターモデルは白く光りながら砕け、光の粒となって消えていった。
「そんな……この俺が……初心者なんかに……」
消えゆくゴーリキン、いやグリムフォースに向かって、俺は剣先を向ける。
「高みで待っていろ。叩き落としに行く」
対戦相手の姿が消え、上空にWINNERの立体文字が躍った。
アリーナが静まり返っている。
勝利の高揚に酔いしれていた俺は、我に返った。
(……そうだった。ここに味方なんていない。俺に向けられるのは悪意ばかり)
立ち去ろうとしたら、一人が拍手した。足を止めてそいつを見ると、涙を流しながら拍手をしてくれていた。
「良かったな、ゼキ……遂に勝てたな」
その一言をきっかけにして、轟くような拍手と歓声が沸いた。
「やったああ!」
「すごい試合だったぜ、ゼキ! あんたやっぱ強いよ!」
「連敗脱出おめでとう」
驚いてしまって立ちすくんでしまった。拍手が鳴り止まず、歓声が続き、驚きがやがて解ける頃には、目頭が熱くなって、泣かないようにするのが精一杯だった。
(俺は一人じゃなかった……)
悪意だけじゃない。応援してくれる人もいたんだ。そう思ったら、あの苦しい日々が報われたような気がした。