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「はあ? 君さあ知らないの? 俺は百敗の……」
「勝てないのには理由があるのですネ」
少女の口から語られた事実は、衝撃的だった。ゲルニカのメンバーは国内ランキング上位の高ランクプレイヤーと懇意にしている。そいつの名はグリムフォース。ゲルニカは彼に別垢を複数用意して、初心者を装ってアリーナに入らせ、俺の対戦相手としてぶつけていた。三戦目から先は、別々のプレイヤーと戦っているように見えて、実はすべてグリムフォースの中の人と対戦していた。
「生体情報の偽装チートを利用した、いわゆるスマーフのやり口ですネ」
「どうやってその情報を?」
「ま、まあ色々ネ。もし弟子にしてくれるなら、連中が保有する別垢のリストを渡すヨ」
少女は羊皮紙を実体化させ、差し出してきた。
「そんなもの俺に差し出して、どうさせる気だった?」
「運営に通報すれば、チートスキャンが行われ、BANの対象になるネ」
「つまらない結末だな」
「そっか。よけいなお節介だったネ。ソーリー……」
少女が羊皮紙をしまおうとしたので、立ち上がってそれを取った。
「え……?」
「連中を実力で叩き潰すために、こいつを使う」
「聞いてなかったネ? グリムフォースはランキング上位ヨ」
「込み上がってきた気持ちがある。いままで生きてきて、こんな気持ちになったことはない。簡単には表現できないけど、無理矢理にでも名前をつけるなら……」
羊皮紙に書かれたIDネームを、脳細胞の最奥にまで刻み込んでから、続きの言葉を口にした。
「……プライドだ」