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「……アリーナ?」
最新パッチで導入された、円形闘技場――千人くらいを収容できる巨大建造物だ。そこで行われるデュエル型PvP、それがアリーナだった。アクティブプレイヤーの大多数が、そこに集結しつつあった。
散々楽しんでおいて、こんなことを言うのは何だけど、セイバーズのクエストは決して面白いものじゃない。鬼周回上等、まともな育成をしていたら年単位の手間が掛かり、中級以降の戦闘難易度は死にゲー並み。魂を底まで削るような廃仕様になっている。ウンザリしている連中がゴマンといた。
そいつらが集まって、新コンテンツであるアリーナを始めた。そこに見物人が集まった。俺もその中の一人に加わって、対戦を眺めていた。
「すげえ……!」
モンスターは理不尽に強いけど、戦闘アルゴリズムは秀でて賢くもないゲームだから、物足りなく思っていたところへ、人間同士の熱い駆け引きを目にし、見物人も熱狂した。
元々セイバーズは『無限のスキル群』と呼ばれるほどにスキルが多様だったけれど、俺たちは『何をしてくるか判っているモンスター相手に、攻略法通りの行動を行う』のが常だったため、多くのスキルにスポットライトが当たっていなかった。でも、アリーナが生まれたことで、それらが活き活きと輝き始めたんだ。
そこから数々の強豪が生まれ、強いとされるスキル編成がどんどん飛び出ていった。やがてランキングマッチが始まり、ウズウズしていたプレイヤーどもに〝勝つべき理由〟が投下された。みんなの熱は一気に上がっていき、セイバーズといえばアリーナ、と言われる最強コンテンツと化した。
参加するかどうか迷った。アリーナ向けにキャラクターを改良する作業は、一筋縄ではいかない。廃人と呼べるくらいのプレイ時間が必要となる。
(俺が有名になれば、戻ってきた相棒の目に留まるかもしれない)
そうなったとき、追いかけたくなるような最高の背中を見せたい――そう思って、俺は覚悟を決めた。レベルを完ストし、強いとされるスキルを集めるため、ゲームフィールドの各地を巡った。
満を持して作り上げたキャラで、初のランキングマッチに挑んだ。
「……――がふぁァ!」
対戦相手の斧が、俺をパリィごと薙ぎ払って吹き飛ばした。初戦は呆気なく敗退。
編成を組み直し、二戦目。前半は有利に進めた。対戦相手をギリギリまで追い詰め、必殺の一撃をくり出したところで武器が折れてしまい、けっきょく敗退。
おかしくなってきたのは三戦目からだ。
「……やけにギャラリーが多いな」
このときに察するべきだった。でも俺は気づくことなく、試合を始めた。試合はやけに接戦だった。形勢がくるくると入れ替わり、最後にスタミナ切れを狙われて、負けた。
「ちくしょう。もう少しだったのに」
四戦、五戦……いや一二戦まで一気に飛ばそうか。ずっと似たような展開だった。理由はあとで知ることになるが、有利に進めているつもりでも、いつも逆転されて負けた。
(才能ないのかな……?)
モチベーションを失っていき、セイバーズへのログインを躊躇うようになっていった。