12
「…………」
「あり得ませんよ! 判ってますか? ここは異聞人類録なのですよ。同じに見えても、辿った歴史が違うのです。下手な干渉は命取りに……」
「しっ」
試合が終わった。物議を醸した剣士が退場していくのが見えた。シルバーの目は、そのあとも水晶から離れない。
「どうしてそんなにこだわるのですか?」
「……私はリアの本気をまだ見ていない」
「殺したのでしょう?」
「実力じゃない」
「同じことです」
「決着はついていない」
「私たちには任務があるのですよ」
「さっきも答えた。拒否はしないと」
「怒りですか? それとも嫉妬?」
「……さあな」
「任務を達成すれば、あの少年は世界ごと消え去ります。それで良いではありませんか?」
「…………」
「ああ……そんな納得がいかない顔を。本当に貴方は面倒な人ですね。このあとにヘイハチロウとの戦いが控えているんですよ? そんな大仕事を前に……」
「リアも倒せないようでは、ヘイハチロウだって倒せない」
ガヴァナーは遠くに追いやったエールに手を伸ばし、飲み干した。あからさまに顔をしかめてから、告げた。
「……行ってください」
「は?」
「彼とは、私一人で会います。ミッドガルド人の余興につき合えばいい。ただし、二つ約束を。手早く済ます。決して負けない。特に二つ目は重要ですよ」
ガヴァナーはフォークを手に取り、シルバーに向けた。
「いまの私たちは〝ミッドガルド人に変換された〟状態であり、ネットワークなるものを利用し〝アスガルドに接続している〟のです。その過程は執行者の監視下にあり、偽装を用いてギリギリ誤魔化しています。もし負けでもしたら包囲網が敷かれるでしょう。そうなればターゲットに近づくことすら叶わなくなります。判っていますよね? この任務に失敗すれば、消えるのは私たちのいた世界です」
「……承知した」
「この任務の裏には、二人の犠牲者がいます。〝存在を上書きされて〟消えていった、この異聞人類録における、貴方と私です。失敗すれば、彼らの犠牲が無駄になります」
「言ったろう。承知した」
シルバーは席を立ち、闘技場に向かった。それを見守るガヴァナーは呆れ顔ではあるが、口元には微かな笑みが浮かんでいた。