第八説 ベッドの下の男
ねぇねぇ… 「ベッドの下の男」って話… 知ってる?
ある女の子がね… 飲み会が終わった後…
友達の部屋に泊まることになったの…
友達の部屋に着いて… 少し話をした後…
布団を敷いて横になったの…
そしたらね… 友達の寝ているベッドの下から…
男がジッとこっちを見ていたんだって…
怖いよね…
●第八説 ベッドの下の男
A子「ただいま~。 ふぃ~、すっかり酔っ払っちゃったぁ~」
B『も~、調子に乗って飲むからよ!』
A「えへへ~、な~んか気分よくってさ」
B『そうみたいね~。お気に入りのカレとけっこう話できたみたいじゃん』
A「ちょっとやめてよ~!恥ずかしいじゃん!」
B『よ~く言うわよ!ノリノリだったくせに~♪』
A「やめてったらぁ~♪」
… … …
… 俺は、ベッドの下の男 …
… 今回のターゲットは、飲み会帰りの女二人 …
… 久々に脅かし甲斐のありそうな奴らだ。ワクワクするぜ …
「… そういや、今回は新人の面倒も見てくれって言われたんだよな…。どんな奴だろうな?」
『… あの~、すいませ~ん…』
「ん? ああ、キミが新人の?」
『はい! 今日からベッドの下に配属になりました。よろしくお願いしまッス!』
「ちょっと、新入り君」
『はい?』
「挨拶する時は立ってしなさいよ」
『立てないッスよ!ここベッドの下なんスから!』
「まったく、最近の若いモンは…」
『あ、自分若いんスか!?』
「ああ。23くらいと思ってくれればいい」
『年齢設定いらないッスけどね!使いませんし!』
「でもキミ、来るの早いね」
『はい!先輩がスタンバイする10分前には来ていたッス』
「ほぉ~、なかなか感心な心がけだな」
『ありがとうございます』
「だが、まだ甘い」
『え』
「俺が新人の頃は、仕事が始まる30分前にはスタンバイしてたぞ」
『早すぎないッスか!?初デートの待ち合わせじゃないんスから!』
「…おい… 俺をバカにしてるのか?」
『はい!?』
「初デートの待ち合わせは2時間前スタンバイに決まってるだろうが!」
『いくら何でも早すぎるッスよ!何かトラブルが起きてもまだ余りますよ!』
「そして、ちゃんと時間通りに来た女の子に激ギレしてな…。 …懐かしい」
『タチ悪すぎるでしょ!』
『もしかして、遅刻してくる人とかもいるんスか?』
「ああ、まあな…。 以前のヤツなんか思いっきり遅刻してきて…」
『はい』
「部屋に入ることすらできなくて… そのまま半泣きで帰ってったな」
『部屋入れなくなるんスか!?』
「当たり前だろお前… ターゲットより早く部屋に入っとかないといけないからな、俺らは」
『ああ… そりゃ確かに無理ッスね』
「だろ? ターゲットより後に入ったら、ただの訪問者になっちまうからな」
『全然怖くないッスね』
「ま、中にはいたけどな。普通にインターフォン押して入ろうとした奴も」
『ええ!?どんだけ猛者なんスかその人!?』
「ま、ベッドの下には入れなかったけど」
『当たり前ッス!』
「留置所には入れたけどな」
『留置所!? え!?捕まったんスか!?』
「そりゃ捕まるだろ」
『えぇ~… 変なトコだけ現実的ッスわ~…』
「俺らはほら、現実の人間って設定だからな。下手なことしたら捕まるんだよ」
『はあ…』
「… ま、留置所にもベッドはあるから心配すんな!」
『そんな状況下になってまでベッドの下に入りたくないッスわ!』
B … じゃあ飲み直そっか! …
A … うん! かんぱ~い! …
『… まだ寝ないみたいッスね』
「…こればっかりはしょうがねえな」
『けっこう暇ッスね~。もっと緊張するもんだと思ってたッスけど』
「まあ、向こうがこっちに気付くまで、こっちからは何もできねぇからな」
『先輩は暇な時はどうしてるんスか?』
「ん?そうだな… ケータイでマージャンしてることが多いかな」
『そんなのアリなんスか!?』
「他にも色々やるぞ。アイ○ォンのアプリは色々あるからな」
『先輩アイ○ォン使ってるんスか!?』
「まあな。やっぱ今時アイ○ォンくらい持っとかないとな」
『なるほど~…』
「アイ○ォンだと合コンの時の女の子の食いつきがいいんだよ」
『合コンとか行くんスか!?』
「そりゃ行くよお前。こちとら女の子が好きだからこの仕事してるようなもんだしな」
『はぁ… 確かにそれはあるッスけど…』
「あ、そうだ。合コンで写メった女の子の胸を揺らしたりもしてるな」
『何やってんスか先輩!?』
「そういうアプリがあるんだよ。楽しいぞ?」
『知らないッスけど!?』
「こないだすげぇ巨乳の子が来てなぁ~…。最近はその子を揺らしまくってるよ」
『先輩!自重!』
「名前はなんていったかなぁ…。 結構ありきたりな感じの…」
『もういいッスって!』
B … でさぁ、カレのメルアドくらいは教えてもらったの? …
A … へへ~ん、まぁね~♪ …
B … ちゃっかりしてるぅ~ …
『… しばらく寝そうにないッスね』
「我慢だ我慢。この仕事は忍耐力が大事だからな」
『自分あんまり待つの得意じゃないッスから、大変ッスわ~』
「今回はまだいい方だぞ。これでターゲットが男と女だとキツイんだ」
『どうしてッスか?』
「考えてみろ。 男と女が酔っ払って帰ってきたとするだろ?」
『はい』
「したらよ… 最終的にそいつらベッドの上に来て…」
『…はい』
「で… そいつらがベッドの上で○○○○してるのを、一晩中ず~っと聞いてなくちゃならねぇんだよ」
『うわ…』
「キツイぞ~。ベッドの下だからよりリアルに伝わってくるしな…」
『それしんどいッスね…』
「しかもな… 男に変な趣味があると更にキツイんだ…」
『え』
「こないだ行ったとこではな、『君の○○○はまるで○○○○のようだね』とか言ってたし…」
『先輩!?』
「他には『○○○されて○○○○○○にしてるじゃねぇか!この○○○○が!』なんてのもあったし…」
『先輩!ちょっと!』
「極めつけは、女の○○○に○○○○○を○○○○○○○○してる音が聞こえてきたり…」
『先輩!もういいッス!』
「何だ、ここからもっとエグくなっていくのに」
『これ以上エグくなるんスか!?』
「そうだぞ。『○○○○が○○○○○○…』」
『ダメですって! 見てください、伏字だらけで何がなんだか分かんないッスよ!』
「おお、ちょっとおイタが過ぎたかな…?」
『過ぎたッス!』
A … …ふぁ~~~っ… なんか疲れちゃったな。 お風呂入ってくるね~ …
B … あ、アタシも一緒に入る~ …
A … え~、変なトコ触んないでよ~ …
『先輩、風呂入ってくるみたいッスよ』
「ああ、聞いてた。 ヤツらが風呂に入ったら一旦外に出て休憩するか」
… … …
「よし、行ったみたいだな…。
どうだ新入り、ここまでの感想は?」
『いや~、思ってたよりキツイッスね~』
「まあ、慣れてくりゃそうでもなくなるからよ。色んな家に侵入して、とにかく経験を積むことだな」
『そういえば、先輩はいつからこの仕事してるんスか?』
「ん? …そうだな~… 今年で5年目になるか」
『あ、じゃあもうけっこう長いんスね』
「アマチュア時代を含めれば8年」
『アマチュア時代!?プロとかアマチュアの概念があるんスか!?』
「ああ。 俺らみたいに他人の家に侵入するのがプロ」
『はあ』
「自分のベッドの下に潜るのがアマチュアだ」
『それ単なる趣味じゃないッスか!趣味と呼ぶのもどうかと思うッスけど! てかそんなの3年もやってたんスか!?』
「アマチュア3年目はセミプロと呼んでもいいくらいだったけどな」
『更なる段階が存在した! え!?セミプロ!?』
「知り合いのベッドの下に潜るんだ。 ま、肩書きとしては非公式だけどな」
『非公式もクソも無いような気がしますけど!?』
B … ちょっとA子~、アンタまた胸大きくなったんじゃない? …
A … あ!ちょ、ちょっと!そんなトコ触んないでよ~! …
B … おぉ~、やわらか~い♪ …
A … やめてったらぁ~! …
『… せ、先輩…。 …なにやら盛り上がってますね…』
「みたいだな」
『てか、どっかで聞いたことないスか? この感じ』
「作者が好きな描写なんだろうな」
『作者…』
「さすがはド変態作者だ」
『… でも、自分ちょっと興奮してきちゃったッス…』
「おいおい、だらしねぇな。このくらいで慌てるんじゃねぇよ」
『先輩は平気なんスか?』
「まあな。さすがに5年もやってるとこのくらいじゃピクリともしねぇよ」
『さすがッスね~…』
「俺も最初の頃はヤバかったけどな」
『先輩にもそういう頃があったんスか?』
「そりゃあったよ。けどな、こういうのはあらかじめ対策を立てておけばいいんだ」
『対策、ですか?』
「ああ。一番手軽なのはポケットティッシュを用意しておくことだな」
『ポケットティッシュ!?』
「ああ。どうしても我慢できなくなった時にサッと済ませるんだよ」
『ベッドの下でそんなことするのが可能なんスか!?』
「まあな。ちゃんと使用済みのティッシュは持ち帰るんだぞ」
『空しいッスね…』
「しょうがねぇだろ。残しておくワケにもいかんし」
『まあ、そうッスね』
「ま、現場に残しとくってのもある種興奮するけどな…」
『先輩!?』
「冗談だよ」
『勘弁してくださいよ~…』
「いざという時にすぐできるよう、あらかじめ自分の家のベッドの下で練習しておけ」
『…それもかなり空しいッスね…』
「しょうがねぇんだって。これも仕事のうちなんだよ」
『はぁ…』
「! そろそろ出るみたいだな…」
『え!』
「慌てるな。落ち着いてベッドの下に戻れ」
『はい!』
A … ふ~、さっぱりしたぁ~。 そろそろ寝よっか …
B … そうね~ …
『…先輩… いよいよ寝るみたいッスね…』
「そうだな…」
『こ、ここからどうしたらいいんスか!?』
「お前は今日が初めてだよな?」
『はい』
「だったら、今回は何もしなくていい。俺のやり方を見ておけ」
『… 了解ッス!』
A … おやすみ~ …
B … うん、おやすみ~ …
「(… しかしやけに小さい布団だな…。 どんな女なんだ…?)」
B『… …え?… …ベッドの下に… 誰か、いる…?』
「(ここだ! …ここでメチャ怖いキメ顔を一発…!)」
B『キャアアァァーーー!!!!
ちょっとアンタ!ここで何してんのよ!!』
「(え!?)」
B『ちょっとA子!ベッドの下!』
A「え!? 何、どうしたの!?」
「(え!? ど、どういうことだ!?)」
『(せ、先輩!?)』
B『いつまでそんなトコにいんのよ! さっさと出てきなさい!!』
「え!? う、うわっ! ちょっ!」
A「キャー! 何よこの人!」
B『なんでこんなトコにいるの、アンタ!?』
『(せ、先輩!何がどうなってるんスか~!?)』
「… …あ!
み、ミカちゃん!?」
ミカ『ねえ、何してるわけアンタ!? 一体どういうことなのかしら!?』
英子「… ミカ… …この人、知り合い?」
ミ『私のカレよ! アンタ、まだこんなことしてたワケ!?』
英「あ、この人が例の…」
「み、ミカちゃん!ちょっと落ち着いて話をしよう!ね!?」
ミ『もう辞めたって言ってたよね!? どういうことか説明してもらおうじゃない!』
「い、いや!違うんだって!つい出来心で…」
『センパ~イ! 大丈夫ッスか~!?』
「バカ!今出てくんじゃねぇよ!」
英「エェ!?もう一人出てきた!?」
『何がどうなってるんスか~!?』
ミ『… へぇ~~~… …出来心でやってたワリには… 偉そうに後輩までついてるんじゃない…?』
「… …は、ははは… …落ち着いて話、は…」
ミ『できるワケないでしょうが!』
英「…? …あれ? … この人、前にどこかで会ったような…?」
「え!? ……… …あ!!」
英「あ!思い出した!」
ミ『何よ英子、コイツのこと知ってるの!?』
英「うん…。 こないだ合コンで…」
「ひえぇぇ!やめてくれ~!!」
ミ『 … ご う こ ん ? … 』
『…せ、先輩…! この人形さん、信じられない戦闘力ッス!』
「…お… …終わった…」
ミ『… ベッドの下に潜るのをやめたって、嘘をついていただけじゃなく…
アタシに隠れて合コンに行ってたなんてねぇ…
… 覚 悟 は い ~ い ? 』
「………
… はい」
ミ『オモテ出なさい!たっっっっっぷり可愛がってあげるから!』
「痛っ! ちょ、痛いってミカちゃん!耳引っ張んないで!」
ミ『つべこべ言わずにさっさと来るんだよっ!』
英「ちょっと、ミカ!?どこ行くのよ!?」
ミ『悪いけどちょぉ~っと出かけてくるわ!先に寝てていいからねっ!』
英「エェ!?ちょっと、ミカぁ~!」
『センパーーーーーイ!!!!』
英「………」
『………』
英「… あの」
『… はい』
英「… 何で私ばっかりこんな目に遭うんでしょうか…?」
『………
… 三本足のミカちゃん人形、拾ったからじゃないッスか』
英「ああ、納得。 できるか! もういいよ!」
はい、第八説「ベッドの下の男」です。
ま、分かると思いますけど、第七説「三本足のミカちゃん人形」とリンクした話になっています。こちらは、三本足のミカちゃん人形の少し後の話です。
書き始めた順としてはこっちの方が先で、書いてる途中に「三本足のミカちゃん人形と繋げられそうだな?」 って思いついて…。
で、先にミカちゃんのほうを書き上げて… それからこっちの本文にいくつか伏線を張って…(A子と英子とか、風呂場の描写とかですね) 最終的にこういった形になりました。
初の試みだったので、うまくいったのかどうかは分かりません。ただ、自分としては書いててとても楽しかったですね。