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ショート 古雑誌

作者: 間の開く男

 朝、目が覚めると同時に動き出す。たまの休みなのだから、せめて母の日ぐらいは何かしら手伝いをしてやろう、という魂胆だった。

 家内なのだから母ではなく妻だが、娘が夕方頃にお祝いのケーキを持ってくるのだから、ついでだと言い聞かせた。今日一日の家事は俺がやると宣言し、リビングのソファーで寝ているように指示したのだ。


 普段読んでいる新聞、雑誌、漫画雑誌をぐるりとビニール紐で縛って、家の前の集積場所へと積み上げる。帰りに新聞をポストから取り出してコーヒーを淹れる。妻の分をテーブルへコトリと置き、朝食作りに取り掛かる。


 黄身まで堅焼きにしないで頂戴、と文句を言われながらもぺろりと完食された皿を見て、これぐらいなら毎朝手伝ってやれそうだな、なんて考えていると、洗濯機ががたんごとんと揺れながら異常を知らせる。蓋を開けて中身を取り出し、こんなことなら任せておけば良かったと後悔するのだった。

 

「ちょっと、こっち来て!」

 きっとこの洗い物を叱られるのだろうな、と考えながらリビングへと向かうと、テレビを指差しながら「今朝は新聞回収だったでしょう、古本やら雑誌を捨てたなら持って帰って来て!」と怒鳴られる。たしかに画面には「古雑誌が今話題」と大きくテロップが表示されており、複数の実例が紹介されているようだった。玄関まで急ぎ靴をひっかけ、表に出た時には軽快な音楽を鳴らす回収業者の車がちらりと見えただけで、もう雑誌が残っていない事は一目瞭然であった。

 

「バックナンバーを全て揃えた、元の値打ちの30倍」「コレクターの間で抜け番が高値で取引」などと胡散臭い内容が通り過ぎていく。

 生活の知恵コーナーでは、積み上げて踏み台の替わりにだとか、木製テーブルの歪みにはコレだと聞いたこともないアドバイザーが結婚情報誌を掲げ、台所に潜む昆虫への最終兵器として感触の伝わりづらいおすすめ漫画誌が紹介されていた。

 

 バラエティー、ワイドショーなんてのはこんな物をやるようになったか。

 妻からリモコンを取り上げて、別のチャンネルへと切り替えた。

 見知った顔の女優が倒れ、包丁を震わせる犯人が映る。おお、これから推理でも始まるかと期待していたが、裏切られた。

 刺された筈の女優は穴の空いた服をめくりあげ、ガムテープでぐるぐる巻きにした雑誌を犯人へと見せつける。呆れた、ドラマすらも影響を受けているのか。

 

 CMでは海外セレブ御用達だというファッション誌の10冊セットがお手頃価格だと流れている。そんなものを更に20冊も付けられてみろ、あっという間に部屋が狭くなるだけだ。

 

 一体、なぜこんな事になったのだ。普段からテレビをあまり見ないとは言えど、こんな時代に取り残されるとは思っても居なかった。同僚、後輩、受付の女の子。ありとあらゆる情報源にコンタクトし、このブームの火付け役となった人物を探しだした。

 

「ここのはずだな……」

 雑誌を束ね枕にする妻をそのままに、スーツに着替えてとある会社の前までやってきた。△△古紙回収株式会社、と書かれた表札と、横のインターホンが目に入る。アポ無しでも話が聞けるかは分からないが、インターホンを押しながら確認する。

 

「すみません、ちょっとお伺いしたいのですが」

「インタビューであればどうぞ中へ」

 金色にメッキされた門が内側へと開き、俺はその領域へと踏み込んだ。

 

「それで、伺いたい事と言うのはどんな事でしょうか」

 目の前の、高そうなスーツを嫌味なく着こなす男こそが、このブームを作り出したとされる男。

 ちり紙交換から雑誌の回収業者を経て、クラウドファンディングとやらで会社を大きくしてきたと聞いた。

「あのう、昨今の古雑誌についてお聞きしたく」

「成程、立ち話には長くなりますので、宜しければそちらへお掛け下さい」

 手の指す先には開いた本がモチーフなのだろう、銀色のソファーが用意されていた。

 尻の沈み込む感触は何分慣れておらず、不安になる。

 

「それでは、まず最初に成功の秘訣をお教えしましょう」

 回収した古本に価値を見いださせる事。読んで終わりではなく、付加価値を高める事を目的として動いてきた。

 雑誌には様々なインクが使われており、それを再生紙にするにもコストがかかる。回収にも人件費がかかるのだからここを削るべきなのだと、この男は言う。

 

 そこまでして古雑誌を減らしたとして、誰にメリットがあるというのだ。

 私の質問に彼は答えた。


「古雑誌を捨てなくなり、デジタルでの購入が増える。その結果、何が起きると思いますか? 小説や新書もデジタルでの購入が増えていき、紙媒体での販売が少なくなる。つまり、紙媒体の本屋はなくなっていくでしょう。でも、それは今に始まった事じゃない。チェーンでの古本屋が幅を利かせ、個人書店がどれほど潰されたかなど興味はありますまい」


 ごくり、と生唾を飲む。

 

「では、そのチェーンへの復讐はどのようにすれば良いか。紙媒体での本を無くせば良い。さて話は変わりますが私の父は書店を営んでおりまして……」


 俺がそのチェーン店のフランチャイズ事業部長だと、この男は知っていて通したのだろうか。

 無事に帰れる事を祈りながら、男の話を最後まで聞いた。

古雑誌、決着、一体何が

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