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逆行年齢を5歳から8歳へ、社交界デヴューの年齢を10歳へ引き上げました。変更忘れがありましたら誤字脱字報告をして頂けますと助かります

オーウェンとひと月に一度のペースで会い、話し、そうこうしているうちに10歳を目前に控え、社交界デヴュー前日になった。

来月には私の誕生日が控えている。そして、私は誕生日に家族を亡くした。


「アシュレイお嬢様。こちらとこちらのドレス、どちらにしますか?」


明日の社交界デヴューに向け、母とシーナがワタワタと準備をしていた。髪には漆黒の薔薇を飾るそう。オーウェンと同じ色をどこかに入れて欲しい、と宰相直々にお願いが来た。その次の日にはオーウェンが無言で漆黒の薔薇を渡してきた。察しの良いシーナはそういうことか、とその薔薇を添えても問題ないコーディネートを2種類考え、母と私に選んでもらおうと考えたそうだ。

ベージュ寄りの白色のドレスと、薔薇と同じ色の漆黒のドレス。

今年10歳になるものは皆明日王宮で顔合わせをする。まだ婚約者のいないケヴィンは候補を見つけるチャンスでもある。前世、白色のドレスを着てケヴィンに目を付けられ、婚約者候補を越えて婚約者になった。オーウェンの婚約者ではあるが、一応不安の種は取り除いておく。


「黒い方で」


私に酷い執着心を持っていたケヴィン。

明日、初めて今世になってから会う。前世の記憶を持っているのだろうか。私の会う前の様な我儘な皇子なのだろうか。

オーウェンが家まで迎えに来て、エスコートをしてくれると言う。両親と兄はザヴェルナの紋章を描いた馬車に乗り、私はスナーフの紋章を描いた馬車に乗る。噂によれば顔の良いオーウェンは令嬢に人気なのだそうだ。だから明日は令嬢がオーウェンの元に押し寄せるだろう。

何故オーウェンは私を選んだのだろう。

可愛いとか何とか言っていたが、可愛かったら前世、騎士をやっているときに女だとすぐバレていたはずだ。冷静になった頭でそう結論付けた。

宰相家が持っておらず、私が持っているもの。それ目当てで私と婚約したのだ。

では、私が持っているものとは?

ずっと考えているが分からない。腕っぷしくらいしか。腕を望むなら将来有望な令息を囲い込むことだってできる。何と言ったって、時期宰相なのだから、それくらい望み通りになる。

皇族と関係を持たなくて済む、と最初の方は楽観視していたが今はオーウェンが怖い。何を望んでいる?




「綺麗だ、このまま連れ去りたい」


社交界デヴューの日、歯の浮く様な言葉を掛けてくるオーウェンに形式通り、「嬉しゅうございます、オーウェン様もお美しいです」と笑う。玄関でそんな会話をすれば両親が嬉しそうにウォン宰相と話していた。兄は少し切なそうに私を見ていた。きっと、まだ婚約者がいないから羨ましがっているのだろう。顔は良いのに、性格が濃すぎるので婚約がなかなか決まらないとか何とか。

宰相家の馬車に乗り込み、家から30分ほどのところにある王宮を目指す。隣にはオーウェン、前にはウォン宰相が座っている。

前から後ろに流れる景色を眺め、時折平民から渡される花束を受け取り、声をかけられれば手を振り返す。

美貌の宰相はとても人気だ。それは平民への態度が良いからだとされている。今日まで知らなかったが、本当に平民への態度が良い。普通の貴族であれば顔を顰めてしまう様な事なのに笑って対応している。オーウェンも、笑ってはいないが礼儀正しく対処している。


「差別されないのですね」


前世一人命からがら炎から逃れて市井を彷徨った際、貴族に助けを求めた。でも、ボロボロの服と靴、髪を見て野良犬へする様に手を振った。しっしっ、と言いながら顔を顰めていた。


「ええ。だって、彼等彼女等だって人間ですからね」


ウォン宰相がパンを受け取りながら答えた。私に、まだ温かいパンを渡し、チラリとオーウェンを見る。


「それに、私の妻は平民出身ですから」



真っ白い、優美な螺旋を描く宮殿が見えてくる。私の記憶にあるよりもずっと綺麗だ。

宮殿には数多の精霊が住みついており、この国の最高権力者を認める限りは宮殿の管理をしてくれる。しかし、前世ケヴィンが実の兄の首を狙い始めた頃から精霊達はこの国に見切りを付け始め、私の命日の朝には私を見守ってくれていた最後の精霊がいなくなった。一緒に逃げよう。何度もそう言って私の腕を引っ張ってくれたが私は首を縦には振らなかった。代わりに、陛下を御守りして。そう言って別れた。その精霊は涙を流し、私に加護をくれた。これで、死なない筈。その言葉を残して消えた。私に最後まで付いていてくれた精霊は私を覚えているだろうか。人を超えた精霊ならあり得るかもしれない。もしかしたら私を8歳に戻し、生き返らせたのはあの精霊だったりして。


「美しいでしょう」


後ろを走るザヴェルナの馬車が少し速度を遅くした。ゆっくりと宰相家の馬車から離れ、違う道を走る。


「安心して下さい。爵位のある貴女の家族と私達宰相とでは入る門が違うのです」


知っている、とは言えず神妙な顔をして頷く。

爵位を持たない宰相と騎士団長は爵位持ちの貴族よりも発言力が強く、下手すれば皇族と同じ強い権限を持っている。だから、貴族用の門からではなく皇族用の門から王宮に入ることを許されているのだ。

ふと、静かになったオーウェンが気になり隣を見る。バッチリ目があっては気まずいのでそろりと首を動かした。


「ああ、多分昨日ちゃんと寝れなかったんでしょうね。不甲斐無い息子でごめんね」


オーウェンが船を漕いで眠っているのを見、目を剥いている私に苦笑混じりにウォン宰相が言った。


「明日のアシュレイちゃんはとてつもなく美しいだろう、殿下に目をつけられたらどうしようと色々悩んでいたんだ。ちょっと面白かったなあ」


じっと美しく長く色気のある睫毛を見る。

きっとウォン宰相は私を笑わせるために言っている。事実を言っているのではない。


「ねえ。アシュレイちゃん」


面白そうにオーウェンの頬を突いていたウォン宰相が真剣な目をし、綺麗な黒い瞳を私に向ける。宰相の瞳に映る自分の顔は酷く冷たかった。


「息子を、オーウェンを、愛して欲しい」

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