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投稿不定期です。息抜きで書いているものなので誤字脱字目立つかもしれません。


「私の命は殿下の、いや、陛下のものだ。分かっているだろう」


周囲には鉄製の鎧を装備した、第二皇子の、今は第一皇子か、の護衛騎士がずらりと並んでいる。ざっと数えて百は優に超えている。対し、こちらは私一人のみ。他の騎士は強制転送され、この場にはいない。

私は壁際に陛下を誘導して背後に隠す。陛下は不満そうに私の服を摘んだ。


「ザヴェ。命を散らすのは俺一人で良い。今からでも遅くない。弟の配下に付け」


「お断りするね。自分の兄を手にかけようとする奴の下でなんか働きたくないな」


「何を言っている!? 僕は打ち首の刑にされてもおかしくない罪を侵してきたやつに温情を与えようとしているのだぞ!?」


護衛騎士に守られる様に、護衛騎士の後ろから激昂する第一皇子を見てため息をつく。何が温情だ。してもいない罪をなすり付けた挙句許してやるなんて怒りすら湧いてこない話だ。それに、有能な陛下と比べてあまり学のない第一皇子。陛下をよく思わない貴族に煽てられてほいほいクーデターなぞ起こすのはどうかと思う。ここで陛下を生かして逃さねばこの国は終わる。自らの欲にしか興味の無い貴族の操り人形となっていることに気付かないなど、愚かとしか言いようがない。


「貴方が国の為政者となっては、この国は滅びる。それは一目瞭然のこと。私は陛下こそこの国に相応しき方だと感じる。ただそれだけだ。それに、自分の命など別に惜しくない。殺したいなら殺せば良い。だが、殺すのは私のみにして頂きたいね」


「ザヴェ!」


陛下が私の肩を強く掴む。私はふっと笑い、陛下の耳元に口を近付けて言った。


「陛下、わたしは陛下の事をずっとお慕いしております。ずっと」


陛下は目を見開き、掠れ声で言う。


「ザヴェ、まさか……」


しかし、陛下の言葉は皆まで言わせず、魔法でパヴェーフに転送した。第一皇子を憎んでいる隣国パヴェーフの王宮には先に書簡を送っているのでうまく対処してくれるだろう。


「わたくし、アシュレイ・ザヴェルナは陛下を守り、ここで命を散らす事を嬉しく思います」


傍観していた第一皇子の護衛騎士達は私の纏う雰囲気が一気に変わったのを肌で感じ、剣に手を伸ばす。ゆらりゆらりと護衛騎士達の方に近付き、言葉を紡ぐ。


「初代国王の名にかけて、ザヴェルナの名にかけて」


間合いを詰めながら、私に鋒を向けるもの達をある程度いなしながら、徐々に第一皇子に近付く。


「陛下をお守りできる事を嬉しく思います」


頭を振り、髪を結えていたリボンを床に落とす。真紅のリボンは第一皇子が過去に私に贈ったもの。長い髪を背中に垂らし、無機質な眼を第一皇子に向けた。


「私と殿下が最初に顔を合わせたのは婚約の時です。私はその時、貴方をこう思いました」


腰に下げた剣は陛下から頂いたもの。だから、貴方の様な者の血で汚したくない。この剣しか持っていないので私は自分の体しか武器を持っていないに等しい。


「ああ、王子様だ、カッコ良いな、この方の妻に将来はなるのか、と」


第一皇子は驚愕の眼差しで私をじっと見ていた。周りの護衛騎士も然り。

誰も私が女だとは気付かなかったのだ。それも、何年も前に事故死扱いになった、第一皇子が愛してやまなかった婚約者、アシュレイ・ザヴェルナだと。


「アシュレイ……」


「あの頃の貴方はとても聡明で、本音を言ってしまえば陛下よりも国王となるに相応しかった」


首の骨を折れば、人は死ぬ。今ここで第一皇子の首を折るのは容易いが、第一皇子は私の仕える陛下の弟。腐っても、陛下と血が繋がった者だ。何やかんやで弟を可愛がっていた陛下を悲しませたくない。


「この国には数多の禁術が存在する。私はここで、第一皇子の前で禁術を使う。禁術を使用した、という罪で私を裁いてくれ……死んだ後に」


魔法で結界を張り、誰も入って来れない様にした。そして、術を展開する。

自分の命と引き換えに、一人の人を守ることができ、どんな事をされようと死なない。死を迎えるのは、そのものが老衰し、生を全うした時のみ。

自分の命を確実にしたかった過去の皇族が乱用し、多くの命が犠牲になったために禁術扱いになったこれを私は使う。勿論一人の人とは、陛下の事。

口の中で術を呟き、陛下に頂いた剣を抜く。ふと見れば第一皇子が叫び、泣きながら何事か言っている。腹話術の心得があるので何と言っているのかは分かった。


『死ぬな! 君は僕の大切な人だ! 愛している!』


私が愛しているのは陛下だ。だから、私は愛する陛下にこの身を喜んで捧げる。婚約者の前で。

悲痛な声が響き、カシャン、と音を立てて結界が壊れる。結界の壁を何度も叩いていた第一皇子はそのまま前に倒れ込み、何とか体勢を立て直して私に縋ってきた。寸分狂わず、私は心臓を剣で貫いていたので意識が朦朧としていた。口から血が吹き出し、陛下が加護をかけた服が真っ赤に染まる。


「アシュレイッ!」


第一皇子の声が耳に響き……私は笑った。


「フルシュハイツよ、永遠なれ」


そう言って、体の自由を失った。






「お嬢様! どうか目をお覚ましになって下さい!」


お腹辺りが重たい。ああ、心臓を貫いたからか。


「ああ、神は何と酷い事を!」


芝居がかった話し方は、私の兄のものだ。もう死んでいるが。

第一皇子の失脚を望んでいたパヴェーフが深夜に家に火を放ち、私以外のザヴェルナ姓の者を殺した。第一皇子が寵愛するアシュレイを殺す為に。皮肉な事に私は助かってしまったが。


「ああ、わたしは、しんだのか」


呟くと私のお腹に頭を乗せていた、私の侍女シーナが顔を思い切り上げてわあわあ泣き始める。


「お嬢様が生き返りましたあああ!」


顔に涙がポタポタ落ちてきて冷たい。


「アッシュ、目が覚めたのか、王子のキスも受けていないのに。何とも情緒を理解していない妹だな。でも、良かった」


文句を言いながら頬にひんやりした手を当ててくる兄はちょっと涙目だ。ああ、そんなに泣いてはせっかくの綺麗な顔が台無しだぞ。


「しごの、せかい、ごくらく?」


何故か片言しか話せない私の口はそんなアホな言葉しか発せなかった。死後の世界極楽?とはどう言う質問だ。やむを得なかったからと言えど、陛下を逃す為に多くの護衛騎士を斬ってしまった。そんな私が天国に行けるはずないだろう。


「死んでませんよお、お嬢様あ!」


ぐちゃぐちゃの顔で私の顔を見てくるシーナは鼻水を垂らしている。何と言うか、汚い。


「はな、でてる」


そう言ってシーナの鼻を指差し、自分の手の大きさに硬直した。目をゴシゴシ擦り、手を見る。


「え、どうしたの」


兄が不安そうに見てくるが、どうしたもこうしたもない。


「わたし、なんさい?」


「え、8歳だよ?」


「ピャー!」


事実を受け入れられず、キャパオーバーを起こした私はそんな間抜けな声を出して意識を失った。




優しく頭を撫でる感覚にうっすらと目を開ける。

どうやらこれは現実らしい。一晩寝ても子供のままとは。

私は死んでいない。そして、まだ社交界デビューをしていない様だ。第一皇子、今で言う第二皇子と出会い、第二皇子の婚約者候補としてリストアップされてしまうきっかけの社交界デビュー。私の過ちはこれだ。社交界デビューまでに多くの婚約を貰っていたのだがそれを全て蹴っていた。『結婚めんどくさい』という理由で。流石に皇族相手にこの理由は効かず、結局婚約する羽目になった。

つまり、社交界デビューまでに誰かしらと婚約をすれば我が家は一家皆殺しにされず、第二皇子は壊れず、聡明なままでいられ、我が国は安泰というわけだ。


「こんやく、しなきゃね」


「え」


「え」


私の頭を撫でていた人が声を上げた。聞き覚えのある声だ。

目を開き、首を動かしてその人物を見れば、陛下ーーじゃなくて第一皇子をパヴェーフに逃すのに手を貸してくれた宰相ではないか。冷酷冷血慈悲のない、冷たすぎる冬の貴公子と密かに令嬢の間で囁かれていた、宰相様。私の知る宰相は黒縁眼鏡のインテリイケメンだったが、今は裸眼である。漆黒の髪が艶々していてなんとも艶かしい。我が国一のイケメンが何故ここに居る?


「婚約するのか、誰かと」


私と同い年のはずなのに平仮名ではなく漢字混じりの発音。解せない。


「しなくては、わたし、しぬ」


「は?」


「ん?」


絶対零度の眼差しで見られ、私の体は急冷凍された。口が動かない。


「そう」


固まったまま何も言わずに居ると宰相はそのまま去っていった。


「お大事に」


そう言って。


何だったんだ。

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