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第3話 赦されてはいけないのですよ。 後編

胸糞注意です。

「その後アンナはどこに向かったの?」


 ナシュリー様の質問が再開された。

 ここから私が話す内容は2人共知らない事だからしっかり話さなくては。


「シードレスがランドールを斬った後、そのまま宿を飛び出しました。

 ルーラや残された2人の仲間を置いて...」


 手当てもせずに走り去ったのだ。

 苦しそうに膝を着くランドールを棄てて。

『...アンナ...お前は...』

 背中で聞いたランドールの言葉。

 彼は私に何を言おうとしたのだろう?


「それで?」


「はい、それから私達は町を離れました。

 シードレスが仲間に隠して借りていた家に...」


「...だから見つからなかったのね」


 ルーラはペンを走らせながら呟いた。

 倒れているランドールを見つけたルーラ達パーティーメンバーは私の事をどう思ったのだろう?

 未だに怖くて聞けないままになっている。


「ルーラ」


「何?」


「...あの後どうなったの?」


「聞きたい?」


 ルーラは紙から目を離して私を見た。

 その瞳は何も映していない。

 暗い表情に身体が押し潰されそうな錯覚を感じた。


「あの後パーティーは解散した。

 私はルーラを正教会に呼び戻したの、彼女の希望だったから。

 だから詳しくは分からない、そうよねルーラ?」


「...はい」


「そうですか」


 代わりにナシュリー様が答える。

『それだけでは無い』暗く沈んだルーラの表情がそう言っていた。


「3ヶ月後貴女は怪我をして正教会に収容され、私が治癒に呼ばれた」


 ナシュリー様は話を跳ばす。

 確かに3ヶ月後私は酷い怪我をして正教会に担ぎ込まれ、ナシュリー様と初めてお会いした。


「そこにシードレスの姿は無かった。

 何があったの?」


 いよいよ核心だ。

 シードレスにされた更なる悪夢を語る時が来た。


「私はシードレスに抱かれました」


「抱かれた?」


「...はい」


 おぞましい記憶、私はとうとうシードレスに抱かれてしまったのだ。

 奴は隠れ家に着くと私を狂った様に抱いた。

 何度も何度も。


「ウグ!!」


 込み上げる吐き気に堪える事が出来ない。


「アンナ!!」


 ルーラが私に駆け寄り背中を擦る。

 吐き気が収まり嘘の様に嘔吐感が消えて行った。

 彼女の治癒魔法は昔と比べ物にならない。

 ルーラは司祭なんだ。

 もう昔のルーラでは無い。


「私とシードレスは爛れた日々を送る様になったのです。

 町から離れた家に籠り切りで」


「無理しないでアンナ」


「お願いルーラ、ちゃんと控えて。書き留めて!」


 ルーラは止めようとするが話さなくては。


「シードレスは私を隔離したのです。

 外部から全てを切り離し、私から思考を完全に奪う為に」


「...よく戻って来られたわね」


 ナシュリー様は悲しそうに私を見た。

 洗脳された私が何故教会に収容されたか知らないだろう。

 だが奴から逃げた訳では無いのだ。


「私が既に妊娠()()()()からです」


「...え?」


「妊娠していた?

 それって。シードレスじゃなくて、まさか?」


 ナシュリー様とルーラの表情が驚愕に変わる。

 そう、私は妊娠していた。


「ランドールとの子供です...」


「何故気づかなかったの、身体の変調とかあったでしょう?」


「確かにそうです。

 しかし当時私は完全に狂ってました。

 ナシュリー様は御存知でしょう、保護された時の私を」


「...そうだったわね」


 私は薬漬けにされていたのだ。

 隠れ家の食事はシードレスが用意していた。

 食事の中に薬を混ぜられ私は薬物中毒寸前だった。


悪阻(つわり)が始まりシードレスは私の妊娠に気づきました。

 奴は隠れ家から私を連れ出し崖から蹴り落としたのです」


「え!?」


「そんな!」


 ペンを落とすルーラ、ナシュリー様も思わず目をふせた。

 だが本当の事、僅かな意識の私を蹴り落とすシードレス。

 最後に奴の言葉を私は2人に言った。


「『呪いで子供が出来ない俺への当て付けか』そうシードレスが言ったのです」


「「「.........」」」


 部屋に沈黙が流れている。

 ナシュリー様は固まり、ルーラは涙を流し、私は悪夢に堪えるしかない。

 しかし話を続けなくては、


「その後の事は知っての通りです。

 奇跡的に通りがかった行商人に助けられた私は教会に運び込まれ命は助かりました。

 ...お腹の子供は助かりませんでしたが」


「...ごめんなさいアンナ」


 どうしてナシュリー様が謝るのだろう?


「私は貴女の子供を助ける事が出来なかった」


 しまった、あの時に『子供を助けて』とすがりついた人はナシュリー様だった!


「申し訳ありません!私はとんでもない事を!」


「いいえ、あの時私は自分の力の無さを痛感したのです。

 だから今の私があるのです」


「ナシュリー様...」


 私はなんて未熟な人間なんだ。

 ナシュリー様にこんな事を言わせてしまうなんて...


「続けましょう、いいですかルーラ」


「...はい、ここからは私が」


 項垂れる私にナシュリー様が優しく促す。

 そう、まだ終わりじゃない。

 最後にまだあった...ランドールの死が。


「アンナが収容されてから3ヶ月後、知らせを受けたランドールは教会に向かいました。

 その途中...ラン、ランドールさんは...」


「止めてルーラ!!」


 震えるルーラに叫ぶ。彼女にも辛すぎる出来事。


「魔、魔獣に襲われ、い、命を...」


 ルーラは崩れ落ちた。

 彼女はランドールが好きだったんだ。

 冒険者をしていた頃、私に言った事がある。

『アンナさんがランドールさんの恋人で良かった』と。


「もう終わりましょう」


「...ナシュリー様」


「シードレスを裁くには十分な調書が取れました。

 アンナ、ルーラご苦労様でした」


「そんな...」


「貴女の償いはこれからも続くでしょう。

 でも少しくらい救われても良いのですよ」


「...出来ません」


 ナシュリー様の言葉だが私の過ちは決して赦される物では無い。


「アリクスさんはランドールさんに少し似ていますね、ルーラ」


「ええ」


 ナシュリー様の言葉にルーラも頷く。

 気づいてたのか?


「貴女は心に、そして身体にも大きな傷を背負っている。

 それでも冒険者を、町の人達を導いているではないですか」


 ナシュリー様は私のフードを下ろし、顔に巻いていた布をほどいた。

 汗と涙で濡れていた顔が部屋の空気に晒される。


 ランドールの死を聞き、焼却炉に頭から飛び込んだ火傷の跡。

 全身火達磨の私をナシュリー様が治癒してくれた。

 だが、顔の治癒は拒んだのだ。

 私の顔半分、両目から上は酷いケロイドのまま。


「気持ちいいでしょ?」


「はい」


「貴女がいつか全てを終える時、その傷跡も消えるでしょう。

 頑張りなさいロッテン」


「また帰りに寄るから。

 多分1年後くらいかな?

 今度はアリクスさんの食事楽しみにしてるからねロッテン」


「ナシュリー様、ルーラ、本当にありがとうございました」


 剥き出しの顔から流れる涙。

 赦される時は来ないだろう。


 でも今は2人の暖かな気持ちに触れたのが嬉しかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] じゃあシードレスは人々に指差されて笑われながらなぶり殺しにされる刑で
[良い点] シードレスとロッテンの過去の過ちが、なんともいえませんん。自業自得と切って捨てるのは簡単ですが、誰でも陥りそう。安易な魔法ものやスキルでない分、やりきれなさを感じます。教会は本当に悔いが残…
[一言] 洗脳というより単に自業自得なのでは? 楽な方楽な方にいった結果でしょ
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