第3話 赦されてはいけないのですよ。 中編
胸糞注意です。
「大丈夫ですかアンナ?」
「...はい」
気がつくと私は椅子に座っていた。
どのくらいの時間が過ぎていたのか見当もつかない。
様々な悪夢が頭の中を一斉に甦っていた。
「ごめんなさい私達が今日ここに来たのはそういう意味もあったの」
「ルーラ...」
考えてみれば当たり前の事、いくら私がルーラに過去を引き合いに出しても高度な聖魔法の使い手が簡単に来る筈が無い。
そんな依怙贔屓出来る訳無い。
「辛いでしょうけどもう一度あの事を聞きたいの。
シードレスにされた事を」
「ごめんなさいアンナ、あれから9年も経ってしまったからシードレスを裁く為に今、貴女の証言がもう一度必要なの」
悲しそうなナシュリー様とルーラに覚悟を決める。
そんな事をしないで正教会が私を呼び出したら良いだけの所をマリアちゃんの治癒の為こうして出向いてくれた。
教会で好奇の目に私が晒されない様に気遣ってくれた彼女達の気持ちに応えなくては。
「分かりました、もう一度全てをお話しします」
2人を見つめながら頷く。
私の証言がシードレスを裁く材料になるのならいくらでも思い出してやる。
「ちょっと待って、アンナは話さなくて良いから」
「え?」
ルーラは鞄から大量の書類を取り出した。
古く色褪せた書類、その表紙には[A級冒険者アンナ・クラフト21歳 洗脳の経緯とその記録]
そう書かれていた。
「これをルーラが読み上げるから間違いや忘れてる所があったら教えて」
「はい」
9年前全てを失い、絶望から死のうとして失敗し療養所に収容された時に書かれた調書。
最初の頃は発狂ばかり繰り返していたので大変だった。
「アンナ・クラフト
ナンクスの町に準男爵の次女として生まれる。
13歳の時に男爵の三男であるランドール・フリークと冒険者になった、ここまでは良い?」
「...はい」
ルーラが読み上げた名前に息が詰まる。
『ランドール・フリーク』最愛の恋人の名前...
「15歳でランドールはB級冒険者に貴女はC級に、その年冒険者パーティー[ナンクスの木漏れ日]を立ち上げた」
「ええ」
懐かしい...
パーティー名は2人で決めたんだ。
貧乏貴族の末弟だったランドール『爵位は継げない俺だが冒険者で名を挙げたい』
そう目を輝かせる彼に私は着いて行った。
いつか夢が叶った時、この名前を故郷に響かせたいそう笑いあって。
「2年後正教会の修道女ルーラがパーティーに加入、彼女を通じて正教会の依頼もこなす様になる」
私とランドールは数々の依頼を成功させ冒険者の中で少しずつ名を知られる様になった。
そんな私達に正教会からルーラの加入を頼まれた。
優秀なヒーラー、ルーラの加入で私達のパーティーは益々充実した。
「ランドールは19歳でA級に昇格。
正教会本部の依頼をこなす為、度々パーティーを離れる様に...」
「...はい」
言葉に詰まるルーラ。
ランドールは異例の早さでA級に昇格した。
正教会は優秀な剣士で実直な彼を気に入り度々討伐隊に加えた。
当時私はまだB級、一緒に行けなかった。
「1年後...ナンクスの木漏れ日は新しくメンバーを加えた...」
「......」
ランドールが居ない間、私達は新しくメンバーを加える事にした。
[ナンクスの木漏れ日]のメンバーは当時5人になっていたので『数々の依頼をこなす為に必要』そう言ったのだ、ルーラが。
新しいメンバーはギルドで募集した。
そしてアイツが...B級冒険者シードレスが...
「少し休憩しましょう」
「...そうですね」
ナシュリー様とルーラが話を止める。
ルーラの目に涙が流れていた。
「...アンナ」
「はい」
「ルーラを責めないで」
「え?」
責めるとは何をだろう?
「メンバーを募集したのは私が命じたの」
「...まさか」
「ランドールが居ない間、貴女達に何かあってはいけない、そう思い私がルーラに...」
ナシュリー様は苦しそうに私を見つめる。
ルーラを庇って嘘を吐いてる訳では無いだろう。
「ごめんなさい、9年前に言うべきでした」
「お止め下さいナシュリー様!」
頭を下げるナシュリー様を慌てて止めた。
正教会の幹部である彼女に頭を下げさせるなんて。
「ルーラ続けて」
「え、でもアンナ...」
「お願い」
先を続けよう。
ナシュリー様は決して悪く無い。
もちろんルーラも、この先起こった事は全て私の過ちなのだ。
「シ、シードレスは言葉巧みにパーティーに溶け込み信頼を得た。
特にアンナに対し、早くランドールに追い付きたいと焦る彼女に近づき奴は...奴は...」
「大丈夫よルーラ、覚悟は出来てるから」
私の過ち、赦されざる記憶をちゃんと晒さなければ。
「...依頼で怪我をしたアンナにシードレスは必死で励ます振りをしながら彼女を...」
苦しそうに続けるルーラ。
9年前、こんな調書が作られていたとは知らなかった。
ただ何があったかを問われるまま話しただけだった。
今なら分かる、私は簡単に洗脳されたのだ。
ランドールに追い付けず自己否定する私に甘い言葉で励ます。
誰だって弱ってる時は受け入れてしまうだろう。
そして無理を重ね更に失敗する。
そしてまた励まされる。そうして私は奴に依存していったのだ。
ルーラ達の忠告や諫言等耳に入らなくなる程に。
「...シードレスが加入し半年後、アンナはA級冒険者に昇格しました。
その1ヶ月後、正教会の依頼を終えたランドールは再びパーティーに合流しました」
この時、私は人生最大の過ちを犯してしまったんだ。
「ここから私がお話しします」
「え!?」
「アンナ?」
「9年前の過ちを...シードレスにされた事、ランドールにしてしまった事を、ルーラお願い」
「ナシュリー様...」
私の決意にナシュリー様は静かに頷いた。
「分かった、ルーラここからアンナの話を記録して」
「...はい」
紙とペンを握るルーラを確認し、私は口を開く。悪夢の記憶を...
「帰ってきたランドールは私の昇格をとても喜んでくれました。
その夜何度と無くシードレスのお陰だとベッドで私はランドールに...」
「ベッドで?」
「はい、シードレスが言ったのです。
愛し合ってる時に頑張った話をすればランドールは喜ぶと」
「なんて酷い事を...」
この時既に私は完全にシードレスに依存していた。
そんな事をベッドで言えばランドールがどう思うか、そんな事すら考えられなくなっていた。
「翌日早くランドールはシードレスを呼び出しました。
怒りを露にするランドールにシードレスは笑みを浮かべて言ったのです。
『いくら自分が正教会の修道女を食い散らかしているからといってアンナを疑ってはいけないな』と」
「何ですって!!」
「そんな馬鹿な事を!?」
ナシュリー様とルーラは立ち上がり叫ぶ。
当たり前だ、彼女達は神に仕える身。
愛する人以外決してそんな事はしない。
いや出来ない、そんな事をすればどんなに隠しても聖女様から神罰が下される。
しかし当時の私はそんな事すら考えられなくなっていた。
「怒りを露にするランドールは剣を握りシードレスに告げました。
『貴様は追放だ、出ていけ』と」
「それで?」
ナシュリー様が先を促す。
この辺りは初めて話す内容、知りたいのだろう。
「...シードレスは言いました、『お前のアンナはもう俺無しじゃ生きて生けない、そうなったんだよ』と」
「まさか、貴女シードレスに...」
「...アンナ」
ナシュリー様達の方を見つめ静かに首を振る。
思い返してみれば確かに奴は私に身体を迫る素振りはあったがそれは洗脳状態でもまだ出来なかった。
だからこそ、ランドールの怒りが理解出来なかった。
『私は貴方以外に肌を許してないのに何故?』と。
「激昂するランドールはそれでも剣を抜かず堪えてましたが...私は」
言ってしまったのだ、最悪の言葉を...
「貴方がそんな人とは思わなかった、もう別れましょう...そう言いました」
「なんて事を...」
「ランドールは我を忘れシードレスに斬りかかりました。
私は咄嗟にシードレスの前に立ち塞がると奴はランドールの身体を剣で...死にはしませんでしたが彼は酷い怪我を」
「そうだったの...」
「...突然パーティーが解散したのはそんな訳があったのね」
重苦しい空気、しかしまだ話は続くのだ。
この後、ランドールを、子供を失った話へと...
込み上げる嘔吐感を堪え、視線を上げた。




