私に出来る事~小さな町で食堂を営む男の話。その6
「さあ積もる話もあるでしょう」
再会を喜ぶ3人を私の食堂に案内します。
保護院の前ではゆっくり話も出来ませんから。
「私仕事が、」
ルーラさんが涙に濡れた顔を向けられますが、大丈夫です。
「ちゃんと手は打ちます」
「...分かりました、お願いします」
私に出来る事もそろそろ終わりに近づいて来ました。
店を出た私は1人保護院に向かいます。
早く保護院の朝食を作らなくては...
「アリクスさん!」
「おはようございますマチルダさん」
息を切らし走って来るマチルダさん。
手に桶と布切れを持っているところを見ると、ロッテンさんのお墓を掃除した帰りのようです。
「そんな事より、なんですかこの馬車?
あの2人はルーラさんのお知り合いなんですか?」
「どうしてそれを?」
馬車は分かります。
しかし、どうしてヒューリさん達まで?
「ロッテンさんのお墓から見えたんです」
「あそこから?」
あんなに離れた場所から?
私にはロッテンさんのお墓すら見えませんよ。
「さすがは千里眼の女ですね」
「いえ、それ程でも...って、そうじゃなくて!」
「はいはい、分かってます。
一から説明しますよ」
興奮するマチルダさんを宥めながら馬車から荷物を下ろします。
街で買い求めた食材を保護院の厨房に運び入れながら彼女に説明しました。
「ロッテンさんのパーティーメンバー...」
「はい、ルーラさんとロッテンさんに会うために10年以上探しておられたんです」
「...ロッテンさんに会わせてあげたかった」
そう言ってマチルダさんは項垂れました。
そう、3年遅かったんです!
生きている内にロッテンさんと皆さんを会わせたかった!
「それでマチルダさんに頼みがあります」
「私に?」
「はい」
調理の手を休める事なく、マチルダさんにお願いを頼みます。
「分かりました、ルーラさんの代わりに今日1日ギルドの職員を派遣します。
たまに手伝ってますから大丈夫です」
「ありがとうございます」
「食事会の会場の設営も任せて下さい、考えがあります」
「お願いします、食べられますか?」
「ありがとうございます、ギルドで頂きます!」
出来上がった朝食、鍋一杯余分に作ったスープをマチルダさんに渡します。
良い笑顔ですね。
朝食を作り終え、そのまま次の準備に入ります。
商売が忙しいヒューリさん達には今日1日しか滞在時間がありません。
遠方に住むお二人、次いつ来られるか。
「よいしょ...」
疲れが出て来ました。
さすがに歳です、この2日間うたた寝しかしてません。
でも、もうひと頑張りです。
「アリクスさん設営が出来ました」
「もう?」
マチルダさんのご主人、ハロルドさんが教えてくれました。
しかし早いですね、まだそんなに時間が経ってませんよ。
「マチルダがギルドに張り紙をしたんです。
ロッテンさんの知り合いが来られ、食事会をするから無償だけど会場の設営を手伝って欲しいと。
そうしたら沢山の人が手伝いたいと言いまして」
「そうですか」
今もロッテンさんを慕う冒険者は沢山居られます、しかし無償で頼むとは。
「冒険者だけじゃありません。
町の人達、子供達まで」
そうでした、ロッテンさんは全ての人から慕われていたんです。
亡くなった時も町を挙げてお葬式を...
「アリクスさん?」
「いえ、なんでもありません」
涙脆くなったもんです、これも歳のせいでしょう。
「準備が出来た物から運びますね」
「...お願いします」
「分かりました、おい頼む!」
ハロルドさんが声に数人の男達が調理場へ入って来ました。
皆私の店で顔馴染みの冒険者達です。
「すみません」
「何言ってんだ、アリクスの旦那とロッテンさんの為だ」
「ああ、こんな事くらい」
「そうだぜ、アリクスさんよ」
なんて気の良い人達でしょう。
「...よし、お願いします」
ようやく最後の下拵えが終わり、待機していた人に渡し、準備は完了です。
「さあアリクスさん、行きましょう」
「はい」
ハロルドさんと一緒にロッテンさんの眠るお墓に向かいます。
そこが今回の食事会会場。
「これは素晴らしい」
会場はとても素晴らしい出来です。
綺麗にセットされた5つのテーブル、張り巡らした天幕の合間からは町が一望出来るようになっておりました。
「さあやりますか!」
特設された調理場で早速始めます。
作るのはナンクス料理だけじゃありません、ロッテンさんから聞いた、誕生日や特別な日にパーティーメンバーの為作っていた料理達です。
「お待たせしました先ずはスープから」
最初の一品が出来あがり、私はマチルダさんと天幕内のテーブルに。
中にはルーラさん達3人が席でお座りになってました。
「これは...」
「あぁ」
「...懐かしい」
「はい、干し肉と香草のトマトスープ、ナンクス風です」
鍋からテーブルに置かれた皿にスープを注ぎます。
ルーラさん、ヒューリさん、ニュートさん。
そしてロッテンさんとランドールさんのお皿にも。
「さあどうぞ」
「ちょっと待って下さい」
ニュートさんが慌てて立ち上がると、腰に巻いていた剣をランドールさんのテーブル脇に置かれました。
「これは?」
「ランドールさんの愛剣です。
これだけはどうしても手放せなかった...」
「...私も」
ルーラさんが修道服のポケットから何か取り出しました。
何でしょう布切れの様、まさか?
「アンナが巻いていた物です。
いつも私と一緒に、...ね、アンナ」
ルーラさんはそっとロッテンさんのテーブルに布を置かれました。
「...失礼します」
天幕を出た私は暫く立つ事が出来ませんでした。
「マチルダさん、お願いします」
「分かりました」
料理の給仕をマチルダさんにお願いする事にしました。
懐かしいウェイトレスの姿のマチルダさん。
少し窮屈...やめましょう。
「そういえばあの時ルーラったら」
「そうそう、ランドールも笑ってさ」
「へー、ルーラさんが?」
時折楽しげな声が聞こえて来ます。
お酒のせい?
いいえ、マチルダさんが盛り上げているんでしょう。
本当に助かります。
「ありがとうございます」
「いいえ」
最後のデザートをマチルダさんに手渡します。
これで私の役目は終わりました。
「ふう」
へたりこむように椅子へ腰掛けます。
眠気が私を襲って...
『...もうランドールったら!』
『ゴメンってアンナ』
『ランドールさんったら相変わらずですね』
『本当にね、ニュート』
『これでこそのナンクスの木漏れ日だよ姉さん...』
「え?」
今の会話は、まさか?
慌てて立ち上がり、テーブルに、
「...私は何を...」
もう一度椅子に座り直して目を閉じます。
「ロッテンさん...」
彼女の名を呟く私の目に再び涙が溢れました。




