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私に出来る事~小さな町で食堂を営む男の話。その4

 ヒューリさんの馬車で町まで戻る事となりました。

 大きな商会を営まれているだけの事はあります。

 こんな立派な馬車は見た事しかありませんでした。


 見た目だけではありません。

 中は広く装飾品も豪華で、まるで貴賓室の様です。


「アリクスさん、腰は大丈夫ですか?」


「はい、とても快適です」


 ヒューリさんは何度も気遣われますが、この馬車は殆ど振動がありません、こんなに揺れない馬車があるとは。

 ...長生きはするもんですね。


「それでアンナは...」


 ニュートさんはお茶を勧めながら先を尋ねられました。

 先程からずっとロッテンさんの話をしています。


 ロッテンさんが町のギルドで冒険者の指導員をされていた事。

 目を患ったマリアの為に奔走された事。

 大勢の冒険者達から慕われ、今も彼女を思ってお墓参りに来る人が後を絶たない事を...


「...そうよアンナはそうだったわ」


「ああ、お節介で、困った人を見ると放っとけない...ランドールも笑ってたな」


 ヒューリさんとニュートさんは思い出を辿る様に呟かれます。

 ロッテンさんの性格は冒険者をされていた頃と同じだったのですね。


「お二人はロッテン...アンナさんと同じパーティーだったのですよね?」


「ええ」


「そうです、2年間だけでしたが」


「2年ですか?」


 意外です。

 僅か2年で、これ程までにロッテンさんとルーラさんを探し回られていたとは。


「...姉さん」


「分かってる、ニュート。

 アリクスさん今度は私達の話を聞いて貰えますか?」


「はい」


 決意を秘めたお顔でヒューリさんは私を見つめられました。

 ロッテンさん達の昔話が聞けそうです。


「私達がアンナ達の冒険者パーティー、ナンクスの木漏れ日に入ったのは今から30年近く昔の話です」


「ほう」


 ロッテンさんが勧誘したんでしょうか?


「それ以前はずっと2人で冒険者をしてました。

 姉さ...同じ孤児院で育ったヒューリと」


「道理で」


 お二人は実の姉弟では無かった、似てないのも納得です。


「私の生家は商店を営んでました。

 8歳の時、実家は火事に遭い、生き残ったのは私と使用人の息子だった6歳のニュートだけでした」


「それでどうして冒険者に?」


「生きる為、そしていつか商会を再興する為です」


「私が13歳になったのを期に姉さんと孤児院を飛びだしたから無茶な話です。

 碌に剣も使えなかったのですから」


「最初は誰かのパーティーに入ったりしなかったのですか?」


「人を信用する事が出来なくなっていたんです、私もニュートも」


「...ああ」


 商会のお嬢さんが孤児院に、おそらく周りの大人達は残された彼等から全てを奪い、孤児院に棄てたんでしょう。


「食事も切り詰め、怪我をしてもろくに治療もしない。

 本当によく死ななかったと」


「確かに」


 無茶をする冒険者は沢山居ます。

 事情は人それぞれ。

 名声を得る為や、夢を叶える為だったり。

 殆どの方は志半ばで亡くなってしまいます。


「冒険者同士の情報交換もせず、ただ高報酬に釣られ無理な依頼をこなす。

 失敗ばかりでした。

 誰からも信用されず...当たり前です、自分達が人を信用してないんですから」


 ...何とも悲しい記憶です。

 人を信用出来ない2人、ただ金の為に危険な冒険者の世界に身を投じたのですか。


「そんなある日、私とニュートは依頼で魔物退治に向かい大怪我を負いました。

 命からがら街の近くまで辿り着いたのですが...」


「そこで力尽きてしまいました。

 その時、偶然通りがかったのがランドールさん達のパーティー、ナンクスの木漏れ日でした」


「そうだったんですか」


 ここで初めてロッテンさん達と出逢われたんですね。

 しかし心を閉ざしていた2人はなぜパーティーに加入したのでしょう?


「気がつくと私達はベッドに寝かされていました。

 ランドールが私達を宿まで担ぎ、ルーラとアンナが治療をしてくれたそうです」


「でしょうね」


 困った人を見逃せないロッテンさん達らしいです。


「でも人を信用出来ない私達はランドール達が私の金を奪うのが目的じゃないかと警戒して」


「宿から逃げる事ばかり考えてました」


「仕方ありません」


 人間不信はそう簡単に直らないでしょうから。


「『返す物なんか無い、早く私達を追い出せ』そう言った私達にランドールが言ったんです」


「『俺達のパーティーに入って身体で返せ』って」


「それでパーティーに?」


「ええ。打算もありました。

 ナンクスの木漏れ日の実力は冒険者の世界では知られてました。

 報酬もキッチリ山分けされるし」


「抜けるのも自由だと聞いてました」


「どうしてランドールさん達は貴方達をそこまでパーティーに?」


「アンナが言ったんです、

『命を粗末にしちゃダメ、無茶をしないように見張らせて貰います』って」


「彼女らしいですね」


「本当に」


「全くです」


 ロッテンさんの性格は昔からそうだったんですね。


「楽しい2年でした...」


「それなのに私達はあの男から...アンナを守ってやれなかった」


「...シードレスですか」


「そうです!あの糞野郎の本性を見破れなかった私達が!

 あれほどアンナを頼むとランドールさんから言われていたのに!!」


 呻きながら拳を震わせるニュートさん。

 ヒューリさんも肩を震わせます。

 彼等2人にとっても自分達が赦せない出来事だったのでしょう。


 2人の話はまだ終わりそうもありません。


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