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私に出来る事~小さな町で食堂を営む男の話。その2

「...やはりですね」


会場に併設された調理場、運び込まれて来た食材に思わずタメ息が出ます。


「どうされました?」


私の様子に心配そうな表情でバルホルトさんが聞きました。


「この食材の手配は例の料理人達が?」


「はい、必要だと言われた物を私が用意したのです。

不都合でも?」


「ええ」


用意されていた食材は一見今回の料理には全て揃っている様に見える。

しかし本当のナンクス料理に使う材料とは違う。


並んだ食材はどこでも手に入る物ばかり。

特にナンクス料理に必要なスパイス類が決定的に足りません。

おそらく奴等はバルホルトさん達の目を誤魔化す為に適当な材料リストを渡したのか、いや分からなかったのだろう。


「これでは本場の味は作れません」


「...そんな」


ガックリと項垂れるバルホルトさん。

しかし、いい加減な物は作れません。

ゲストの方はナンクス料理を指定する位ですから、本場の味を知っているでしょう。


「何とかなりませんか?」


バルホルトさんは縋る目で私を見ます。

なんとかしたい、騙された人を見捨てる事は出来ません。


「...そうだ、ロッテンさんのレシピなら」


「は?」


「いや何でもありません」


頭に浮かんだのはロッテンさんから教えて貰ったレシピ。

彼女は冒険者時代、どこでも故郷(ナンクス)の味が作れる様にと研究されていたのです。


恋人(ランドール)の喜ぶ顔が見たかったから』と。


記憶を頼りに急いでペンを走らせます。


「バルホルトさん、ここに書いた物を直ぐお願いします。

この街で直ぐ手に入る筈です」


「分かりました!」


バルホルトさんは紙を受け取ると調理場を出ていきます。

今夜は本当に大切な会なのでしょう。


「アリクスさん」


「ダンホルトさん」


入れ違いにダンホルトさんが調理場に入って来られました。

彼の後ろには調理服に身を包んだ2人の男性が控えています。


「何とか2人の料理人に来ていただきました、彼等はこの街でも腕利きです」


「ありがとうございます、早速始めましょう。

貴方はトマトの下拵えを、貴方はこのエシャロットを刻んで下さい」


2人の料理人に指示を出します。

彼等の実力は分かりませんが、腕利きとの言葉を信じて。


「よし」


まな板に玉ねぎを並べます。

時間が有りません、一気に行きましょう。


「...凄い」


「なんてスピード、しかも全くムラが無い...」


2人は私の後ろで固まってしまいました。

そんな時間は無いですよ。


「早く自分の仕事をしなさい!」


「「はい!!」」


彼等は慌てながら持ち場へ、少しやりすぎましたかね。

ついラインホルトの時みたいに怒鳴ってしまいました。


「よし」


食材の切り分けもどうやら終わりです。

後は火入れと味付けか...


「お待たせしました!」


バルホルトさんが荷物を抱えて入って来ました。

とうやら間に合いそうです。


「どうですか?」


「全て有りますね、後はお任せ下さい」


「お願いします」


バルホルトさんは急いで調理場を出ていかれます。

彼は幹事なので本来の役目があります。

私も役目を果たしましょう。


「それでは始めましょう」


「「はい!」」


鍋に調味料を入れ味見をします。

本来の物とは違いますが...


「ふむ」


なかなか良い出来です。

これなら遜色ありませんね。


『どうですかアリクスさん?』

『美味しいですよ、ロッテンさん』

脳裏にロッテンさんの面影が浮かび、涙がこみ上げて...


「どうしました?」


「いえ、何でもありません」


不安そうに料理人達は私を見ます。

いけません、私情で調理の手を止めては。


「さあ盛り付けですよ」


「「分かりました!」」


大皿に料理を盛り付けます。

立食パーティーなので豪快に行きましょう。


「...ふう」


ようやく最後の料理が運び出されました。

少し張り切り過ぎました。

椅子に座り一休み、私は60前のおじいちゃんですから。


「アリクスさん」


料理を手伝ってくれた2人が私の前に立たれました。

そう言えば怒鳴りつけてばかりでした。

彼等のプライドもあるのに。


「今日はご無礼を言ってしまい...」


素直に謝りましょう、静かに彼等の言葉を待ちます。


「私達は未熟でした。貴方は本当に素晴らしい料理人です」


「....そんな」


「本当です、さぞかし名の知れた料理人なのでしょう。

どこのレストランですか?

今度行かせてください」


「「お願いします!」」


「お二人共、頭を上げて下さい」


困りました、確かに昔は王都にあるレストランでコック長をしてましたが、今は小さな食堂を営む一料理人なのですから。


「アリクスさん」


「バルホルトさん、どうされましたか?」


突然調理場の扉が開き、バルホルトさんが顔を出されました。

何かあったのでしょうか?


「少し良いですか?」


「はい、料理に何か?」


「いいえ、料理は大好評でした。

それで、ヒューリさんが」


「ヒューリさん?」


誰でしたかね。


「今日のゲストです。

ナンクス料理をリクエストされた」


「ああ」


おそらく本場の味では無いのに気づかれたのでしょう。

仕方ありません。


「すみません、私なりに頑張ってみたのですが」


「そうじゃないんです。

料理を食べたヒューリさんは涙を流され、『是非料理をされた方にお会いしたい』と」


「それは?」


これは予想外です。

確かに上手く出来たとは思いますが、所詮は代用品です。

本来の味では無いのですが。


「会場に来ていただいて挨拶、宜しいでしょうか?」


「分かりました」


代役ですが、今回の料理を作った当人ですから、礼儀ですね。


バルホルトさんに続いて会場に入ります。

中には大勢の方が、皆和やかに話され、大皿の料理もすっかり無くなっているのにホッとしました。


「ヒューリさん」


「はい」


ダンホルトさんと談笑されている1人の婦人にバルホルトさんが声を掛けました。


「こちら、今日の料理を作られましたアリクスさんです」


「アリクスです、今日はありがとうございます」


調理帽を外し頭を下げます。

見たところヒューリさんは私とそう変わらないお年の様ですね。


「あ...貴方は」


「は?」


ヒューリさんの目が大きく見開かれ、固まってしまいました。

はて私の記憶に無い方の様ですが。


「...ランドール、いえまさか、彼は死んだ筈...」


「え?」


ランドール?

どこかで聞いた名前です。

確か、ロッテンさんの恋人...


「ロッテンさんのお知り合いですか?」


「ロッテン?」


おっと、ロッテンは本名ではありませんでしたね。


「アンナさんの...」


「やっぱりランドールなの!?

私よ、ヒューリよ!ナンクスの木漏れ日の!」


「わっ!」


いきなりご婦人は私に飛びつかれ、凄い力に飛ばされてしまいました。

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