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ロッテンさんの逝った後~港町で小さな食堂を営む家族の話。 その4

「どうぞ」


「...ありがとうございます」


ナフサを応接間に通し、暖かい飲み物を勧める。

部屋には私とナフサの2人っきり、お義母様とお義姉様は居ない。

さて、何から話そうか。


「あの」


「はい?」


先に口を開いたのはナフサだった。


「貴女はラインホルトの...」


そうだ、まずは自己紹介だな。


「ラインホルトの()でマリアと言います」


「...やっぱり」


やっぱり、とはどういう意味?ひょっとして主人と元鞘を狙っていたの?


「さっきの女の子はラインホルトの」


「娘です」


「...そう」


静かに俯くナフサ、その顔には安堵の色が浮かんでいた。


「似てますね」


何の事だ?


「ラインホルトに」


そういう事か。

確かに娘は結構主人に似ている、でも...


「主人の傷痕が無ければ、もっと似ているんでしょうね」


意地悪な言葉が出る。

でも本当の事、主人の顔には無数の傷痕。

冒険者時代、無理矢理盾にされて出来た物だ、ナフサの情夫だった男達によって。


「....ごめんなさい」


ナフサは項垂れる、そんな真似をさせたい訳じゃないのに。


「今まで」


「はい」


「今までどうやって生きてきたのですか?」


まずはそこから聞こう、ナフサが恋人だった主人を裏切って、弄ばれ、全てを失ってからを。


「どこまでご存知なのですか?」


怯えながらナフサは聞いた。


「貴女がカールスと浮気して、別の冒険者達と一緒になって主人を殺す寸前までいたぶった事と、その冒険者達にも抱かれて、カールスが激昂して逆に斬り殺された事、くらいかしら」


「.......」


知っている全てを話した。

主人から聞いた訳では無い、もちろんロッテンさんからでも無い。

昔、お父さんの食堂を手伝っていた時に聞いてしまった、冒険者達の格好な噂のネタとして。


完全に黙り込むナフサ。

聞いたから答えただけ、でもどうしてなの?心が疼く。


「....その通りです」


長い沈黙の後、ポツリとナフサが呟いた。


「それじゃ改めて次は貴女が答える番、その後どうやって生きてきたの?」


「わ、私はあの後、国を離れて別の国で冒険者を続けました。

事件の噂が広がって所属していたギルドに居られなくなったのです」


そうだろうな、男女の痴情なら冒険者にとっては日常茶飯事だが、刃傷沙汰にまで発展したら話は別だ。

カールを斬り殺した冒険者パーティーは札付きの悪だったそうだし。

その情婦だったナフサに居場所は無くて当然だ。


「3年掛けて冒険者で貯めたお金を持ってラインホルトの自宅を訪ねました。

全てを話す為、私の両親と一緒に」


「そんな事、主人の両親は望んでないのに」


「独り善がりでした...」


ナフサは涙を流すが、そんなの当たり前だ。

行方不明の息子を心配する家族の元に恋人が現れて

『裏切ってました、私のせいでラインホルトの身体と心は傷ついてます、行方は私も分かりません、お金をどうぞ』って。

人にもよるだろうが、主人の家族が受け取る筈無い。


「何故?何度も現れて、迷惑とか考えないの?」


「分かってました。でもこれしか償い方が思いつかなくって」


呻くナフサを見て思った、彼女は不器用な人間だと。


「それで?」


「30歳になって身体がキツくなり冒険者を辞めて」


「辞めて?」


「今は近くの町にある工房で働いてます」


「工房って?」


「木工品を作る工房です。

家具や民芸品、色々な物を作る」


そうか、ちゃんと真面目に働いているんだね...なんで私が安心してるの?


「あの露店で売っていたオモチャも?」


「廃材を使って私が作りました。夜や休みの空いた時間に」


空いた時間ってそんなにあるのかしら。


「まだ、お一人なんですか?」


「そんな気になりませんでしたから、それに何度も死のうと思いました...でも死ねなかった」


「それ、ロッテンさんの言葉ですね」


「...どうして彼女を?」


驚く表情のナフサ。

どうして私がロッテンさんを知っているか不思議だろう。


「私の家はロッテンさんの居たギルド近くて食堂をしてましたから」


「食堂?まさか雷鳥の...」


どうしてその名を?


「雷鳥の止まり木です、どうしてお父さんの食堂を知っているの?」


「新人研修の時にお世話になりました」


「そうだったんですか」


そう、お父さんの食堂には冒険者も大勢来ていた。

特に新人冒険者には、お父さんは殆どお金を取らず沢山の食事を提供していた...って事は、私は13歳の主人と会っていたのか!

怪我をする前の綺麗な顔をしていた主人を!

4歳の私と13歳の主人、これは運命だ。

全く覚えてないけど。


「あの?」


妄想を全開にしているとナフサが首を傾げる。

いけない、しっかりしろ私。


「よ、よく覚えてますね」


「あの記憶は決して忘れる事は出来ません」


13歳のナフサは夢に希望を膨らませ、恋人と一流の冒険者を目指していたんだろう。


「ご両親はお元気ですか?」


ナフサの言葉に私の心は急速に冷える。

彼女は知らないんだ、私の母がその一年後に男と出ていった事を。


「父は元気に店を続けてますが、母は亡くなりました」


「亡くなった?」


「はい、流れの冒険者に騙されて、娼婦に落とされ、最後は病気で」


「...そんな」


ナフサは絶句している。

被るんだろう、母の辿った末路と自分の人生が。


「ナフサ、貴女は母と少し違います」


「違う?」


「ええ」


分からないだろう、それは罪の大きさだ。


「母はお父さんと私を棄てたんです、家族を。

でもナフサ、貴女は確かに恋人を棄てた、でも主人は貴女の家族じゃない」


「...でも」


違うと言いたいんだろうが、それは許さない。


「最後はお父さんに引き取られて母は死にました。

意識を失う直前まで謝りながら」


あの光景が甦る。

窶れ果て、身体を横たえたまま、全てを垂れ流し、私と父さんに謝り続けた母の姿が。


「ナフサはそうじゃない、主人...ラインホルトを裏切ってしまったけど、冒険者にはよく有ることでしょ?」


ロッテンさんの受け売りだ、私は納得してないけど。


「もう良いでしょう、貴女の人生は貴女の物、主人の人生にはもう関係無い、関わって欲しくないのです」


厳しい言葉になるが本音なんだ。

ナフサとラインホルト、幼馴染みで恋人だったかもしれないが終わった事なのだから。


「これからは自分の人生を歩んで下さい」


「...でも」


煮え切らないナフサ、償いにすがって生き来たのだろう。


「お母さん」


「アンナ、どうしてここに?」


不意に扉が開き、アンナが入ってきた。


「ニーナが寝ちゃったの」


オモチャを抱き締めて笑うアンナ、今はそれどころじゃない。


「向こうに行ってなさい、お母さん大切なお話をしてるの」


「はーい」


アンナは笑顔で部屋の扉に手を掛けた。


「こんにちは」


ナフサがアンナに声を掛けた。


「あ、さっきの人!」


アンナは露店で会ったナフサを覚えていた。


「そうよ、オモチャは気に入ってくれた?」


優しい瞳で話すナフサに『止めて』と言えない。


「うん、ありがとう!」


元気に頭を下げるアンナにナフサは目を細めた。


「アンナちゃんって言うのね?」


「うん、ロッテンさんの本当の名前なんだ!」


「....ロッテンさんの?」


驚くナフサ、アンナもロッテンさんを知る事に驚いている。


「ロッテンさんを知っているの?」


アンナは目を輝かせてナフサに聞いた。


「...ええ」


言葉に詰まるナフサ、もう良いよね。


「おばさん、ひょっとしてお父さんの仲間だった人?」


真剣な表情のアンナ、主人の過去は娘に話した事無いのに。


「そうよ」


ナフサはごまかさず、アンナに言った。


「ありがとう」


「え?」


「アンナ?」


笑顔で頭を下げるアンナに私とナフサは呆気に取られる。


「お父さんが冒険者を辞めたのは、おばさんのお陰だよね?」


「...それは」


言葉にならないナフサ。

確かにそうだ、ナフサが裏切らなければ、私はラインホルトと再び会う事も無く、アンナも産まれてない。今の幸せは無かった。


「そうね、貴女のお陰だわ」


自然と、そう言えた。



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― 新着の感想 ―
[良い点]  過ちを償うにはどうすればよいのか?  ロッテンさんのような生き方?  マリアの母のような末路?  ナフサなりの償い方があるのでしょうか?  考え込んでしまいました。  その一方でアンナの…
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