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ロッテンさんの逝った後~港町で小さな食堂を営む家族の話。 その3

 楽しい1日目が終わり、2日目の朝を迎えた。

 結局主人達は夜通し飲み続け、まだリビングで3人酔い潰れている。

 私もお義母様とお義姉様の話に大いに盛り上がり、とても楽しい時間を過ごせたのだった。


 アンナはニーナちゃんとすっかり仲良くなって寝る時まで一緒、本当の姉妹みたい。


「マリアさん、朝市に出掛けませんか?」


 朝食を終えると、サリーさんから誘いが。


「朝市?」


「ええ、この街では決まった日に朝市が開くの、大通りに野菜やお肉、魚の露店が沢山並ぶのよ」


「へえ」


 市場や露店は珍しく無いが、決まった日に大通りでは聞いたことがない。


「高価な食材も安く買えるのよ、農家さんや漁師さんが直接売ってるから」


「そんな事して、街のお店は困らないんですか?」


「大丈夫、露店の人も普段は店に卸してるし。

 持ちつ持たれつな関係なの」


 そんな物か、田舎暮らしの私には分からないけど楽しそうだ。


「珍しい食材も手に入るわよ」


「珍しい?」


「ええ、数が少ないから店で流通しない物とか」


「行きます!」


 行きますとも、料理人の血が騒ぐよ。


「決まりね、子供と一緒に行きましょ」


「はい、お義母様は?」


「私は店があるから行ってらっしゃい」


 こうして義姉さんと私、そして子供達は朝市へと出掛ける事となった。


「凄い人」


「はぐれない様にね」


「分かりました、アンナ手を離さないでよ」


「うん」


 改めて凄い人の数に圧倒される、露店はゆうに100店を越えているし、買い物客は千人じゃきかない。


「ほらアンナさん見て」


 サリーさんが一軒の露店に足を止める、そこは生鮮野菜のお店。

 成る程、凄く安い、しかも見た事の無い野菜が沢山。


「これは何て言う野菜ですか?」


 思わず店の人に質問をしてしまう私、気がついたら両手には買い物袋、一旦戻ろうかな、...ってアンナは?


「アンナ!」


 しまった、うっかりしていた、私とした事が!


「大丈夫よ、アンナちゃんはニーナとあっちのオモチャの露店に」


 サリーさんが笑顔で一軒の露店を指差した。


「すみません」


 慌てて露店に向かう私達、その露店は沢山の子供達で賑わっていた。


「アンナ、行くわよ」


「えーもう少し」


 オモチャを手にしてアンナは少し不満そう。


「ほら、ニーナも」


「やだー」


 ニーナちゃんも残念そうだけど、我慢してね。


「ほら、お母さん達を困らせないで」


 店の人は優しく娘を諭す。


「すみません、そのオモチャいただきます」


 アンナとニーナちゃんが持つオモチャの代金を店の人に手渡した。


「....貴女は」


「...サリーさん」


 店の人を見たサリーさんの顔色が一変する。

 焦りと困惑が入り交じった表情で....


「行きましょう、マリアさん」


「は、はい」


 サリーさんはニーナちゃんとアンナの手を握り小走りで歩き出す、有無を言わせぬ態度に黙って着いて行く。


「ごめんなさい」


 実家に戻ったサリーさん、一息吐いて頭を下げるが一体何が?


「どうしたの、もう帰ってきたの?」


 お義母様も様子がおかしいサリーさんを見て部屋へ入って来た。


「ニーナ、アンナちゃんと奥で遊んで来なさい」


「え?」


「分かった、ニーナちゃん行こ」


 サリーさんはニーナちゃんとアンナを奥にいかせた。


「お義母さん、ナフサが」


「ナフサ?」


 お義母様も固まる、まさかさっきの店の人が?


「あの子、朝市に居たの?」


「ええ、露店でオモチャを売ってたわ」


「...そう」


 深刻な空気が部屋を包む、これは聞かない訳にはいかない。


「ナフサは今、何をしてるんですか?」


「マリアさん...」


「教えて下さい」


 2人は顔を見合せている。

 話すべきか考えているのだろう。


「お願いします」


「分かりました」


「...お義母さん」


「サリー、マリアはラインホルトの奥さんよ、知る権利があるわ」


 お義母様は私を見て頷いた。


「そうですね、こっちに来て」


 サリーさんも頷く。

 私達は店にある応接間に入り、テーブルを囲んで息を整えた。


「ナフサからあの事を聞いたのは15年前だった、『全てをお話しします』って」


 全てと言う事は...


「恋人だった主人を裏切って、男達と痛め付けた事をですか?」


「そうよ」


 お義母様は、怒りを滲ませながら吐き捨てた。


「どうして話す気になったんですか?」


 どんな心境の変化が?


「生きて、償う為って言ってたわ」


「償う?」


 それって、まさかロッテンさんから?

 いやまさか...


「ナフサの両親も一緒に来てね。

 部屋に上がるなり土下座をして、お金を差し出したの、訳を聞いた主人は突き返したわ。

『ふざけるな』って」


 そりゃそうだろ。


「それなのにナフサは数年(ごと)に来るの、ナフサの両親が亡くなっても、何度追い返してもね」


「ええ、私も最初びっくりしました」


 サリーさんが義兄さんに嫁いで来たのは5年前だから、何回かナフサと会ったって訳か。


「でもどうして今日は露店をしていたのですか?」


 ナフサは冒険者のはずだ。


「5年前に冒険者を辞めてたって聞いたわ」


「辞めた?」


「体力的に、じゃないの?」


 成る程、ナフサは主人と同い年だから今35歳か。

 体力資本の冒険者は続けるのがキツくなったって所か。


「ラインホルトから手紙で無事を知ってから、ナフサへの憎しみは減った。

 それで彼女に言ったの、『ラインホルトは生きている、もう息子の事は忘れなさいっ』て」


「そうなんですか?」


 お義母様はアッサリ言うが、私には出来ないよ。

 アンナが傷つけられたと考えたら、死ぬまで許す事はしないだろう。


「ナフサも哀れな娘よ」


「哀れですか?」


 何が哀れなんだろう?


「子供の頃からラインホルトと一緒に遊んでいてね、外の世界を知らない子だった。

 息子が冒険者になるって話にも付いていって、良いように騙された」


「はあ...」


 それは、まあ少し分かるかな。

 お父さんの食堂を子供の頃から手伝っていたから、ベテラン冒険者に食い物にされる新人冒険者も居た。

 もっともロッテンさんが叩き潰していたけど。


『大奥様』


 部屋の扉がノックされた。

 どうやらお客様が来たようだ。


「何かしら?」


『店に()()()()


「...そうですか」


 冷淡な店員の言葉に再び部屋は沈黙する。

『あの女』私にも分かった、ナフサの事だろう。


『追い返しますか?』


 扉の向こうで店の方が聞く。


「そうね...」

「待って下さい」


「マリアさん?」


「お願いですお義母様、ナフサと話をさせて下さい」


 お義母様とお義姉様は私を見つめる。


「分かったわ、この部屋をお使いなさい」


「ありがとうございます」


 お義母様の了解が出た。

 これでナフサと話が出来る、どんな生き方をしたかは知らない。

 だけど先に進む為には避けてはいけない。


『ロッテンさんならそうするだろう』

 懐かしいロッテンさんの笑顔が頭に浮かんだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  いなくなった人の行動や考えが自分の中で生きていると実感することがありますよね。困ったときにどうしたらいいんだろうと悩むとき、あの人ならどうしたのかなと考えます。マリアの中にロッテンさん…
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