貴女の逝った後~ある町の保護院の話。 その1
また、お付き合い下さい。
「今日はいい天気になりそう」
3日間続いた雨が上がり、外はきれいに晴れ上がっていた。
洗濯物の入った籠を井戸の側に下ろし、桶に水を張る。
「さあ、やりますか」
腕捲りして気合いを入れる、中には保護院の子供達の服やシーツが入っていた。
「おはようございます、ルーラさん」
朝靄の中、1人の女性が声を掛けた、もちろん誰か分かっている。
「おはようマチルダ」
マチルダは手に桶と布切れ、そして綺麗な花束を持っていた。
「今からお墓に?」
「ええ、結構降りましたから、早く綺麗にしたいんです」
「ありがとう、アンナも喜ぶわ」
マチルダは3日と空けずアンナのお墓を掃除している。
私も本当は行きたいのだが、小さな保護院の人手は私を含め5人しか居ない。
これで30人近い人の世話をしているので、なかなか時間が取れない。
「それじゃ」
「また後で」
少し急ぎ足のマチルダ、彼女はアンナの後任でギルドマスターを務めている。
しかも3人お母さん、旦那さんの助けがあっても大変そう。
「...ふう」
ようやく洗い終わった洗濯物を手早く干したら、次は朝食のお世話、子供達は自分で食べられるが、大人はそうはいかない。
保護院に収容されている人は病気や怪我で不自由な生活を余儀なくされているのだから。
「おはようございます、アリクスさん」
保護院の食堂に入る。
仲間のシスターに混じり朝食の調理をしているのはアリクスさん。
自分の食堂の準備が忙しいにも関わらず、彼は保護院の朝食作りを毎朝手伝ってくれている。
「おはようございますルーラさん、ちょうど出来上がりましたよ」
「ありがとうございます」
さすがに本職の彼は手際が良い、小さな調理場を感じさせない。
鍋には具沢山のスープ、そしてテーブルには焼きたてのパンが並んでいた。
仲間と食器に取り分け配膳をする。
私が担当するのは主に重篤な人達、大変だけれど、これは院長である私の役目。
「お疲れ様でした」
2時間を掛け、ようやく食事の世話を終える、次は食器を洗う仕事が待っていた。
「今の内に食べましょう」
「「「はい」」」
仲間と手早く私も食事、やっと食べられる。
「美味しい!!」
「本当に!」
アリクスさんが作った食事は本当に美味しい、そして沢山の量、少ない予算なのに不思議だ。
「ルーラさん」
「はい」
食事を終え、次の仕事に向かう私をアリクスさんが呼び止めた。
「来週の事ですが」
「来週?」
はて何かあったかな?
「ロッテンさんの命日です」
「あ!」
いけない、すっかり忘れていた!
「...ごめんなさい」
「ルーラさんは毎日お忙しいですから」
アリクスさんは笑顔を崩さず続けた。
「でも」
何という事だ、大切な親友の命日を忘れるなんて。
「もう3年ですか」
「...はい」
3年経ったんだ、アンナが旅立って、もう3年も...
「明後日マリアもハンフェから帰って来ます」
「マリアちゃんも?」
「ええ、子供と一緒に」
マリアちゃんの子供も帰って来るのか、だからアリクスさんは笑顔なんだ。
マリアちゃんはラインホルト君と5年前に結婚して、ハンフェの町で小さな食堂をしている。
「ラインホルト君は?」
「さあ?」
素っ気ないね、アリクスさん。
「お孫さん、大きくなったでしょうね」
「ええ、もうアンナも4歳ですから」
「そうですか」
マリアちゃんの子供の名前はアンナ。
ロッテンの本名、マリアちゃんとラインホルト君たっての希望で決めたそうだ。
「カジキを獲るんだと張りきってるそうです、漁師は辞めて食堂だけに絞って欲しいんですが」
少し困った顔のアリクスさん。
ラインホルト君の料理の腕も上がったからね。
「すみません、愚痴っぽくなっちゃって」
「いえ」
笑顔で食堂を出ていくアリクスさん。
こんな他愛も無い話が出来る様になったんだ。
アンナが亡くなった時、私もアリクスさんも落ち込んで、こんな会話が出来る日が来るとは思わなかった。
「アンナ...みんな元気でやってるよ」
仕事が終わったらアンナのお墓に行こう、そう決めた。




