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最終話 導きの光。 前編

「どうぞお通りください」


 数人の仲間と門に立ち、町を離れる住民をチェックする。

 組織の奴等かどうかの検査は厳重に行っている。


 住民達は近隣の町に用意した宿に避難して貰っていた。

 道中、もちろん襲われない様ギルドの厳重な警護付き。

 全てが終わるまでの一時避難なのだ。


「これで全員ですね」


「そうね」


 マチルダが住民の名前が書かれた名簿を閉じた。

 私達が来る前に大部分の住民は既に避難を終えていたので、私は殆んど知り合いの顔を見る事は無かった。


「どうしました?」


 マチルダは不思議そうに私を見る。

 変な顔をしていたのかな?

 覆面とフード越しでも彼女は私の表情を読み取れるみたい。


「いいえ、何でも」


 何でも無い筈がない。

 私の両親は今ナンクスに住んでいない。

 あの事(過ち)が原因で町を去ったのだ。


 しかしランドールの家族は今もナンクスに住んでいる。

 当然だ、ランドールの実家は男爵家。

 父親はナンクスを治める領主だったのだから。

 住民受け入れの準備に奔走するランドールの家族と会う事は叶わなかった。


[ランドールの父親は5年前に亡くなり、現在は息子が(ランドールの兄)領主、母親は健在]

 情報にそう書かれていた。


 末っ子のランドールを可愛がり、冒険者になる事を最後まで反対していたおばさん(母親)


『アンナちゃん、ランドールをお願いね...』


 最後に言われた言葉。

 私はその言葉に背いた。

 いや背くどころか死に追いやったのだ。

 彼女にとって息子と孫の命まで...


「大丈夫ですか?」


 マチルダは更に心配そうにしている。


「大丈夫よ、大丈夫」


 微笑もうとするが強張ってしまい笑う事が出来ない。

 大丈夫、私は自ら死んだりしないから...


 だけど、おばさんが私に死ねと言ったら?

 私を殺すと言ったら?


 そう考えると受け入れてしまう自分がいた。


「長閑な町ですね」


 マチルダはわざと暢気な声で町を見渡した。

 18年の間に村は町に変わっていた。

 だが中身は同じ、何も変わっていない。

 人口でも増えたのだろうか?


 長閑な牧羊と農業の町、ナンクス。

 取り立てての名産は無い。

 地元の料理だけが有名だった。


(アリクスさんはどの店で修行していたのかな?)


 そんな事を考えていた。


「今夜から見回りですね」


「ええ」


 町は全て封鎖されている。

 奴等を炙り出す為農作物や家畜、家に有った食料に至るまで全て運び出した。

 森や川にもギルドの目が光っている。

 連中が食料を求め市街地に姿を現すのを待つのだ。


「静かですね」


 深夜静まり返った市街地、マチルダは僅かな声を出した。

 私だけに聞き取れる小さな声、冒険者として彼女は本当に優秀だ。

 無人の市街地は物音1つしない。


「...あれは?」


 マチルダが呟いた。

 彼女の目が何かを捉えた様だ。

 私には何も見えないが素早く仲間に合図を送る。

 たちまち数人の仲間が集まった。


(人影があの建物に)


 マチルダは手振りを交え説明する。

 言葉はいらない。

 私達の連携は完璧だ。


 素早く建物の周りに散開する。

 間違いなく中から人の気配がした。


「動くな!」


 ドアを蹴破り中に、人影は10人程か。


「糞!!」


 中の1人が飛び掛かる。

 動きが鈍い。

 躊躇う事無く切り伏せた。


「違う」


 男はシードレスでは無かった。

 酷く窶れた男、服装から察するに元は貴族だったかもしれない。


「逃げろ!」


 暗闇で男達が叫ぶ。

 馬鹿な奴等だ、自分達の居場所を教えるとは。


 たちまち乱戦となる。

 一方的な戦い、数ヶ月に及ぶ逃亡生活を送っていた相手は我々の敵では無かった。


「ん?」


 マチルダが何かに気づいた。


「どうしたの?」


「外に人影が」


 この暗闇で外の気配に気づくとはさすがだ。


「分かった!」


 外に飛び出すと2人の人影が見えた。


「待ちなさい!」


 後を追うが、なかなか追い付けない。


「どうして?」


 奴等はもう体力が限界のはずなのに?

 焦る私を余所に2人は角を曲がった。


「しめた!」


 あの先は行き止まりだ!


「ち!!」


 壁に追い詰められた男、もう1人は女か?


「覚悟なさい」


 剣を突き出し2人に迫った。


「来るな!こいつを殺すぞ!」


「え?」


 男は突然連れていた女を羽交い締めにすると剣先を喉元に突き付けた。

 それ以上に衝撃を受けたのは男の声...


「...シードレス」


「誰だお前は?」


 間違いない、ついに追い詰めた。


「女を離しなさい」


「うるさい!」


 シードレスは女の喉元に突き付けた剣を更に近づけた。

 切られた女の喉元から少し血が流れた。


「...これは」


 女の様子がおかしい。

 全く精気が無いのだ。

 姿から察するに冒険者の様だが。


「まさか薬を?」


「何だと?」


 私の言葉にシードレスが食いつく。

 間違いない、この女は薬漬けにされ自我を失っている。


「...薬を」


 女が呟いた。


「薬、薬をお願い...」


「やるよ。あの女を殺したらな」


「まさか?」


 シードレスは女の背中を蹴り出す。

 血走った女が剣を振りかざし迫ってきた。


「止めなさい!」


「薬!薬!!」


 駄目だ完全に我を忘れている。

 昔の私もこうだったのか?


「グア!」


 女の剣を避ける私の背中に激しい痛みが。


「バーカ」


「シ、シードレス...」


 嘲る奴の顔、ランドールを斬った時の顔...


「チッ!」


 右腕に激痛が!


「お薬、シードレス様お薬を...」


「これは不味いな...」


 腕が上がらない、どうやら筋を斬られた様だ。


「...ごめんなさい」


 せっかく生きようと思ったのに。


「ロッテンさん!!」


 私の耳に聞こえた声。

 私を大切な場所に引き戻してくれた。


「マチルダ!」


 飛び込んで来た彼女は大きく剣を振り上げた。


「殺しちゃダメ!!」


「了解!!」


 一瞬で事態を理解するマチルダ。

 阿吽の呼吸で彼女は剣の握り部分を女の鳩尾に突きいれた。

 崩れ落ちる女を視界の隅に捉えながらシードレスに迫る。


「覚悟しろ」


 右腕は上がらない。

 背中から血が流れている。

 だが倒れる訳には行かない。


「糞が!」


「消えろ、私の悪夢と共に!」


 朦朧とする中叫んだ。

 シードレスの脇腹から背中まで横薙ぎに切り裂く。

 確かな手応えを感じ、私は意識を手放した。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 女の冒険者ってまさか、あの? [一言] いよいよ最後ですね。 女性冒険者の正体含め楽しみです。
[良い点]  推敲を重ねなければこのように無駄のない文章はできないと思います。  欠けるところも余すところも感じさせません。  それだけではなく、硬さのみにならないよう、剣劇などの動きにも心を配ってい…
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