表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/30

第5話 もちろんですよ。 中編

「ナ、ナシュリー様の元に行かなくては...」


 私が真っ先に考えた事。

 それは早く2人に会い、シードレスを捕まえ組織に復讐する事だった。


「ち、ちょっと待って下さい」


 マチルダが私の身体を抱き止める。

 意外な力に振りほどく事が出来ない。


「放して!早く行かないと!」


 早くしないと奴が逃げてしまう!

 私が傷つき死ぬのは構わない。

 だがただでは済まさない、ナシュリー様やルーラの為にも。


「ロッテンさん、落ち着いて!

 ナシュリー様とルーラさんは正教会本部に保護されているんでしょ?

 許可が無くては会えませんよ!」


「どうしてそれを?」


 マチルダを見ると先程の手紙が握られている。

 私が呆然としている間に読んだのか?


「2人は私の為にこんな事になったのよ!

 私が行かなくてどうするの!」


「落ち着いて下さい!」


 頬に受ける激しい衝撃、マチルダが私の頬を()ったのだと気づいた。


「...ごめんなさい」


「いいえ」


 頬の痛みに少し冷静さを取り戻す。

 目に涙を溜めマチルダは頭を下げた。


「マチルダ、ロッテンさん」


「はい」


 様子を見ていたギルドマスターは静かに私達を呼んだ。


「2人共来なさい」


 ギルドマスターに呼ばれ私達は応接室に、これ以上みんなに醜態を見せない様にだろう。


「座りなさい」


 促されマチルダと並んで座る。

 厳めしい表情のギルドマスター、いつもの柔和さは無い。


「ロッテンさん」


「はい」


「貴女の事は既に正教会から全て聞いていました」


「え?」


 聞いていた?


「貴女の過ち、悪夢、全てをです」


「...そんな」


 私の過去を?

 経歴をナシュリー様にお願いし、隠してこのギルドに採用されたとばかり思っていた。


「そしてマチルダは貴女を見張る為、このギルドに配属されたのです」


「マチルダが?」


「ごめんなさいロッテンさん」


 マチルダは申し訳無さそうに頷くが信じられない。

 そんな事があるわけ無いじゃない。


「考えてもみなさい、マチルダはこのギルドに10年ですよ?

 普通そんなに長く受付嬢をしますか?」


 確かに受付嬢は大体5年くらいしか勤めない。

 その後は違う部署に移動したり、結婚で辞めてしまう。


「正教会...いいえナシュリー様から頼まれたのです。

『私達の失態から取り返しのつかない事を貴女に』そう言われました」


「ナシュリー様...」


 そんな事をナシュリー様は。


「自殺されない様に見張るのが我々の目的でした。

 しかし貴女は死ぬ事はされませんでした。

 新人冒険者の教育、育成に尽力され、そして町の人々の為にも」


「それは」


 償いたかった。

 あてもなく、ただ償い生きる為にやって来た事。

 それだけ。


「今は落ち着いて下さい。

 我々が情報を集めます。

 正教会にはパイプがあります、今闇雲に動いても仕方無いですよ」


 ギルドマスターの言う通りだ。

 私が正教会の本部に行っても門前払いをされるだけ。

 ナシュリー様とルーラの、そして全ての情報を集めて貰おう。


「お願いします」


「分かりました」


 ギルドマスターはいつもの柔らかい笑みを浮かべた。


「それじゃ私は行きます、落ち着いたら仕事に戻りなさい」


 ギルドマスターは応接室を出ていった。


「マチルダ」


「はい」


「さっきはごめんなさい」


「そんなロッテンさん、私こそぶったりして」


「いいえ当然よ、でも結構な威力だったわね」


 ヒリつく頬を触る。

 実際マチルダのビンタは凄かった。


「すみません、私も正教会から派遣されてたの」


「そうだったの?」


 まさかマチルダが修道女?


「修道女ではありません。

 正教会の依頼でギルドから派遣された魔術師でした。10年前は見習いでしたけど」


「え!?」


 意外な告白に思わず大声が出た。

 でも言われたら彼女の能力(遠目が利く等)に納得出来た。


「ごめんなさい、私の為にマチルダの人生まで」


「いいえ、私ロッテンさんが好きですから」


「好き?」


 私のどこに好きと思えたの?

 こんな女のどこにそんな?


「いや違いますよ、私はちゃんと男性が好きですから。

 ロッテンさんの人となりと言うか人間性が」


 なにやら派手に勘違いしているマチルダ。

 いつもなら笑いが込み上げる所だが、今は笑う気分にはなれない。

 だが冷静さは取り戻す事が出来たのだった。




 そうして1ヶ月が過ぎた。

 逸る気持ちを必死で抑えながら情報を待つ日々。

 1日が1月にも、1年にも感じられた。


「お待たせしました」


 再び応接室に呼ばれた。

 ギルドマスターは大きな封筒を手渡した。

 正教会の刻印が押されている。


「見ても良いですか?」


「どうぞ」


 既に封書は開けられていた。

 先にギルドマスターが確認したのだろう。


「...良かった」


 ナシュリー様とルーラは一命は取り留めた。

 怪我は重かったが懸命の治療で2人の命は助かった。

 暫くは治療に専念すると書かれている。

 まだ詳しい事は分からないが最悪の事態は避けられた様だ。


「もう一通あります」


 ギルドマスターが更に封書を差し出した。


「ギルド本部?」


 封書にほギルド本部の印が押されていた。

 世界中のギルドを束ねる本部の封書、初めて見た。


「どうやら正教会とギルドは王国内部に密通者が居ると睨んだ様です」


「密通者が?」


「人身売買に関与している貴族ですね」


「まさか...」


 震える手で封書を受け取る。

 内容はシードレス移送は極秘であったにもかかわらず周到に用意されていた事。

 王国内部では組織の壊滅に消極的な一部貴族が居る事等が書かれていた。


「ギルドは王国を信用してません。

 ギルドとしては正教会と協力し組織の壊滅に動いてます」


 そんな大事な情報を私が知っても良いのだろうか?


「世界中のギルドは組織の壊滅に向けて立ち上がり、有志を募っています」


「それはつまり...」


 そういう事なんだ。

 全てのケリを着ける日が来たのだ。


「行きますか?」


「もちろんです」


 止めても無駄だ。

 この日の為に生きて来たのかもしれない。


「分かりました。

 手続きはやっておきますが...」


 ギルドマスターは何やら言いたげだ。


「生きて帰って下さい」


「え?」


 今何を?


「ロッテンさん、止めても無駄でしょう。

 しかし必ず生きて、無事な姿で帰って来て下さい」


「....」


 答える事が、安易な返事は出来ない。


「「「「ロッテンさん!」」」」


 突然応接室の扉が開く。

 そこにはギルドの仲間達と...


「アリクスさん」


「ロッテンさん、死なないで下さい。

 私は貴女が戻って来るのを店でお待ちしてます」


 強い瞳に何を言えば良いの?

 言葉が出ない。


「ロッテンさん!」


「マリアちゃん...」


「絶対だよ、私ずっと待ってるから!」


 駄目だよ、こんな女を待つなんて言ったら...


「さあ行きますか!」


「へ?」


 明るい声に振り返るとそこには...


「マチルダ?」


 マチルダは冒険者の服装で佇んでいた。

 引き締まった顔はいつもの彼女では無い。


「行きましょうロッテンさん。

 これでも私はA級冒険者並の実力ですから」


 自信満々のマチルダ。

 でも自称でしょ?


「連れて行きなさい。

 マチルダの実力は私が保証します」


 ギルドマスターの言葉にマチルダは頷く。

 漂う雰囲気は間違いなくそうだ、今まで本当の姿を隠していたの?


「マチルダさん、無事ロッテンさんを連れ帰ってくれたら一生食事代はいただきません。

 お願いします」


「もちろんです!」


 アリクスさんの言葉を聞き笑顔で応えるマチルダ。

 彼女の目は最後まで笑って無かった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] まさかマチルダが。 [一言] マチルダが何と只の受付と思ってたら監視要員。 配属時見習いから、今じゃあギルマス推薦上位冒険者へか。ロッテンさんがマチルダお休みですかと思ってる時にクエストこ…
[良い点]  枯れた味わいを楽しんできましたが、まさか、この作品で魂が燃えるような熱い展開が見られるとは!  起承転結の転換場面で、強烈なスピードでカーブを曲がるハンドルさばきを見せられると、これまで…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ