第一章
BGM: Independent Woman Part 2 (Destiny’s Child)
(マリアとレスリーは道を走っている。レスリーは手にたくさんのグミを持っている。お菓子屋さんは彼女たちの数メートル後ろを追いかけている)
お菓子屋さん:こら!泥棒め!
(レスリーはマリアの手をとり、二人は誰かの家への道を走る。お菓子屋さんは追いついてきている。レスリーとマリアは家の玄関に続く小さな階段を上る。お菓子屋さんもついてくる。レスリーは飛んで郵便受けの上に乗る。そして玄関の屋根をつかむ。マリアはその間に郵便受けの上によじ登る。レスリーは玄関の屋根の上に登る。お菓子屋さんは郵便受けから5メートルほどのところにいる。)
マリア:レスリー!
(お菓子屋さんはマリアに向かって手を伸ばす。)
お菓子屋さん:(嬉しそうに)捕まえた!
(レスリーは一生懸命マリアを引っ張るが、お菓子屋さんはマリアの右足をつかんでいる。)
マリア:(空中で、左手を屋根の上にいるレスリーに引っ張られ、右足を地面にいるお菓子屋さんに引っ張られながら)レスリー!何とかして!!
レスリー:足を振ってごらん、マリア!
(マリアは足を振り始める。レスリーはいくつかのグミを口に入れ、残りをポケットにしまった。そして両手でマリアの手を強く引っ張る。マリアは屋根の上に左手がつく。しかし、お菓子屋さんは彼女を放さない。)
レスリー:大丈夫、マリア。落ち着いて。
お菓子屋さん:落ち着いて?ふんっ!警察に連れていかれてからも落ち着いていられるか見ていな。
(レスリーは少し微笑んでお菓子屋さんに顔を近づける。お菓子屋さんは彼女を睨みつける。すると、突然、レスリーは「ヤー」と叫びながら、口の中のグミをお菓子屋さんの顔に飛ばした。お菓子屋さんは驚く。)
お菓子屋さん:何―
(お菓子屋さんがショックでマリアの足の握り方が弱まると、レスリーは全力でマリアを引っ張る。マリアも無事玄関の屋根の上に乗る。お菓子屋さんも玄関の屋根の上に飛び乗ろうとするが、そこまで高く飛べず落ちる。レスリーは窓へと移動する。窓辺に立つと、マリアもついてこれるように手伝った。こうしていくつかの窓を移動する。すると、彼女たちが乗っている窓が開く。怖がっている小さな男の子が顔を出す。)
男の子:君たちは誰?
(レスリーはただ男の子に微笑みかける。マリアは答えようと口を開ける。)
お菓子屋さん:(立ち上がりながら)お前たち!ふざけるな!絶対に捕まえてやるから!
(お菓子屋さんは家のベルを鳴らす。)
レスリー:まずい。
(レスリーは急いで家の平らな屋根の上に上る。そして、マリアに手を差し出す。)
男の子:(心配そうに)どこ行くの?
マリア:えっと―
レスリー:マリア!(マリアに急ぐようにジェスチャーする。)
(女性がドアを開ける。マリアはようやくレスリーの手につかまり、屋根の上に乗る。彼女は男の子の方を見ている。)
お菓子屋さん:すみませんが、非常に悪い子供たちがあなたの家の屋根の上に乗っているので、捕まえに行く許可を頂きたいのです。その間、あなたは警察を呼んでください。
女性:(混乱しながら)誰が屋根の上に乗ってますって?
お菓子屋さん:未成年の泥棒です。すぐに警察に通報する必要があります。
女性:何歳なの?
お菓子屋さん:知らないよ。かなり機敏で、早く捕まえないと逃げられてしまう―
女性:私は子供を警察に通報するのを手伝うことにあまり賛成できないわ。まだ若いんでしょ?見逃してあげたらどうでしょう?
お菓子屋さん:(怒って)泥棒は泥棒だ!何歳だろうと許されるべきでない。協力してくれないなら―
女性:(屋根を見上げながら)じゃあ、どこにいると言うの?
(マリアとレスリーは身をかがませ、下から見えないようにする。)
お菓子屋さん:屋根の上に隠れている。
女性:あなたの言うことを信じないわ。
お菓子屋さん:分かった、黙れ。自分で警察を呼ぶから。あの子供たちはどうせ屋根から動けないだろう。(携帯をポケットから出す。)
(レスリーはセーターを脱ぎ、電線に引っ掛ける。)
女性:一体どうやって屋根の上まで行けたというのですか?
(レスリーとマリアはセーターの腕の部分につかまり、電線を滑っていく。男の子は感心して二人を見ている。)
お菓子屋さん:(レスリーとマリアが滑っている時)まず、あなたの玄関の上に乗って、その後窓を渡って―っておい!そこにいるじゃないか!あなたの家の電線を使って逃げようとしている―
女性:ベニー!あんまり窓から外に出ちゃダメよ!落ちちゃうから。
男の子:(レスリーとマリアを見ながら)はい、お母さん。
お菓子屋さん:あの、すみません!彼女たちはあなたの電線を壊すかもしれませんよ!二人は侵入者です!
女性:(きつく)あなたは勝手にしなさい。ベニー、その窓を閉めて!
(レスリーとマリアは電線の途中で止まる。レスリーはマリアを抱えながら近くの太い木の枝に飛び移る。葉っぱは大きな音を立てる。お菓子屋さんは彼女たちを追いかける。レスリーとマリアは枝をつかみながら、木から木へと移っていく。)
マリア:(息を切らしながら)もういないかな?下に降りれる?
(レスリーは自分たちのいる木から10メートルほどのところにある茂みから少し靴がはみ出しているのを発見する。)
レスリー:(囁く)ダメ、茂みの後ろに隠れている。
(二人は更にスピードを上げて、木々を渡り、大きな家の柵までくる。レスリーはその柵へ飛び移る。彼女とマリアは柵の上をかけ走る。)
マリア:そんなに早く走ったら落ちちゃうよ!
レスリー:それは起きた時に心配しな。
BGM: Childhood (Michael Jackson)
(レスリーは走りながら、大きな家を時々見る。)
レスリー:この家、大きいわね。
マリア:(心配そうに)私たちがここでつかまったらどうなるんだろう。親に知られたらどうしよう。
レスリー:心配しないで。私たちつかまらないから。
マリア:お菓子屋さんは?
レスリー:(肩を上げ)いなくなったわよ。私たちが速すぎたのよ。(二人は歩き始める)
マリア:どうして盗むの?とてもバカなことだわ。
レスリー:私、非常識だもの。でも、盗むのには理由があったの。
マリア:それは?
レスリー:簡単よ。買うお金がないから。盗む以外どうやってこのグミを食べられるの?
(ポケットからグミを取り出す)
レスリー:マリアもいる?
マリア:ポケットの中がパウダーだらけよ。
レスリー:大丈夫よ。洗わないから。
マリア:(顔をしかめながら)いいえ、いらないわ。
レスリー:それは英断かもね。私の汚いポケットに入ったグミを食べるとお腹壊すかも。でも、味は素晴らしいのよ。
(レスリーはグミを何個か口に入れる)
マリア:(ナレーション)レスリーはよく躊躇なく盗んだグミを食べられるわね。彼女は良心と常識に欠ける。私はなぜいつも彼女と一緒にいて、彼女の問題に付き合っているのか分からない。でも、私は彼女の力を必要としている。お菓子屋さんから逃げている時も、レスリーが私を誘導してくれたり、茂みの後ろにお菓子屋さんがまだ隠れていることに気づいてくれたりしなければ、私は警察に連れていかれていただろう。まあこの子と関係なくしてればそもそも問題に巻き込まれることもなかったかもしれないけど。
レスリー:ねぇ、見て!車がないわ。
マリア:だから何?
レスリー:もしかしたら家に誰もいないのかも。ちょっと探検する?
マリア:あなたは頭がおかしい。
レスリー:それは知っている。それで―
マリア:結構です。
レスリー:あなたつまらないわね。なんであなたと友達なのかしら。
マリア:それは私のセリフよ。
レスリー:(笑いながら)冗談よ。私はあなたといるのが大好きよ、マリア。
マリア:(苦笑いで)あ、ありがとう。
レスリー:見て!あそこに大きなプールがあるわよ。本当に熱いわね。泳ぎに行きたいわ。
マリア:(厳しい顔つきで)いいえ、しませんよ!
レスリー:もちろん、しないわよ。水着がないじゃない。私は実際泳ぐなんて言ってないわ、ただ泳ぎに行きたいって言っただけよ。
マリア:(目を回しながら)あら、そう。
レスリー:あそこのブランコで休憩しようよ。
マリア:(疲れた顔で)あなたがなぜ他の人の所有物を自分のもののように使おうとすることができるのか理解できない。
レスリー:私もよ。でも、できるの。
マリア:(ナレーション)そういう行動やめてほしいわ。もうたくさんよ。
レスリー:走ったり、飛んだりして疲れてない?2分だけ休憩して、ここを出よう。約束するから。
(マリアは反論するのに疲れてうなずく。レスリーは飛び降りて、マリアも降りるのを手伝おうとするが、マリアは自分で飛び降りる。レスリーは嬉しそうにブランコに向かい、マリアは重い足取りでついていく。)
レスリー:明日はあなたと遊べないわ。
マリア:(安心して、でも少し残念そうに)そう。どうして?
レスリー:明日は父の命日で、私はアホな家族と彼のアホなお墓に行かないとなの。
(マリアは少しひるむ)
レスリー:今日を含めてあなたと一緒にいられるのがあと1週間なのに、あそこに行かないとなんて信じられない。明日の朝、電車でボストンに行って、夜には帰ってくるわ。もし家族がそれ以上いたいというなら一人で帰る。あんまり長く父のお墓にいるつもりはないわ。
マリア:(優しく)あなたのお父さんは殉職した警察官でしょ。とても偉大な方だと思うわ。
レスリー:まあ、私の最低な義父よりはましだわ。私の義父は本当に無能なのよ!だから給料が低くて、あちこち飛ばされるのよ。彼は使えないから誰も必要としない。
マリア:そんなこと言わないの!私は彼は優しくて愛情に満ちていると思うわ。
レスリー:(怒ったように)あなたは1回しか会ったことないのに、彼について何か言う権利はないわ!
(マリアは驚く)
レスリー:あなたは2階建ての家に住んで、普通の生活を送っている。でも、私は寝台車に住んでいて、朝ごはんが食べられないから1日2食なのよ!これは私のバカな母が、頭の悪い男性と再婚して私たちの人生を一層大変にしたからよ。それで、何?私は日本まで行ってまた何も買えないから盗んだり隠れたりするの?私は学校からも社会からも追い出され、気が狂うと思うわ。私はただのバカだから。マリア、これって本当につらいことなのよ。
マリア:レスリー、落ち着いて。そこまであなたの人生は悪くないわ。あなたはバカではなく、頭良くて面白くて活動的な女の子よ。それに、経済的に豊かでなくても、あなたの寝台車に前行った時は居心地が良かったわよ。日本でもきっとやっていけるわ。あなたには十分幸せになるチャンスがある。
レスリー:(ため息をつきながら)そうだけど、あなたと別れるのはつらいわ。あなたはとても優しくて頼りになる。私、あんまり友達作るの得意じゃないんだ。
マリア:私も寂しいわ。他に誰が理科の授業のパートナーをしてくれるの?
レスリー:(笑いながら)私が塩酸をこぼしたり、アルコールランプを爆発させたりしない方がうまくいくと思うよ。でも、本当にあなたを日本に連れていきたいわ。
マリア:まあ日本にちょっと行ってみたい気もするけどね。一度も行ったことないし。
レスリー:本当に?そしたらぜひ来て。私がお金出すから。
マリア:お金ないんじゃなかったの?
レスリー:(ずるそうに)私は家族がどんなに貧しくてもお金を集める方法を知っているわ。
マリア:そしたらお店から万引きする前に良く考えた方がいいわよ。
レスリー:それについては、本当にごめんね。でも、例えば最初の数日だけでも一緒に来てくれない?慣れない場所に一人で行くのは不安だわ。私も日本には行ったことがなくて。
マリア:ちょっと家族と相談してみる。
レスリー:ありがとう!あなたは世界で一番いい友達だわ!
(マリアは笑顔になる)
マリア:(ナレーション)私はこうしてストレスを受けながらも、いつもレスリーのそばにいる。彼女は人を一緒にいさせるのが得意みたいだ。彼女はいつも悪いわけではない。そして彼女も色々と苦しんでいる。まあ、私はもっと苦しんでいる気がするけど。