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この世界だけの秘密――一歩手前

リメイクじゃありません


一歩ずつ進んでいきます!




 現在の朧由梨――昔の名前は特にない。

 今の私には、お婆さんとお爺さん、倍近く離れた妹がいる。

 そしてこの間から“学校”と言う場所にも通っている。


 無限に続きそうな螺旋の形をした学校に来るのは二度目だ。

 一度目は、片瀬貞芽という人をどうにかしようとしたとき。

 あのときはシャドーが私に命令したわけじゃなかったけど……理由はなぜか思い出せそうになかった。

 あのとき私は、力の大半を封じ込められ、今では元通りになりつつあるがいくつか思い出せないことがある。

 なぜ片瀬貞芽を殺そうとしたのか。

 そしてシャドーの主が誰だったのかなど。

 それらを忘れさせたのはあのとき覚醒しかけた片瀬貞芽による後遺症なのか、それともシャドーの主かそれに類する他の何者かによるものなか今の私には判断することすらできない。

 そうして迎えた学校で出会った一人は、また判断に困ることをしてきた。

 この学校内であれだけのことをしたのにそんなことを感じさせない一言。


「おはよぉ」


 それは簡単な挨拶だってことくらい知っている。

 判断に困ったのは、私のことを忘れていること。

 元々ここにいるはずだった人を押しのけて私が座っていることにも気付かず、周りから聞いていた仲の良かった人のことを忘れていることだった。

 私と彼女が学校でこうして再び会うまでには数日の猶予が合った。

 それは彼女が入院している間に私が転入してきたからだ。

 その猶予の間に私はいろいろな事を経験することになった。

 始めは人と会話することの大切さだった。

 他の動物と違って、しっかりした言語で会話する人とは意志を伝えあうことでお互いを理解するものだった。

 元々人の形をしただけの私にそれが欠如していたとそのとき痛感した。

 他にもいっぱいのことを周りにいた人が教えてくれて。

 あるとき不思議な体験もした。

 それはここと同じ世界だけど、ループした世界だった。

 その世界の中で死んだとしてもまた最初から再開され、私は死に――いいえ、知っている事になっていた他の人が死ぬのを何度も見たのだ。

 その世界ともいつの間にか別れがきて、手元には小さな小さな指輪が一つ残された。


「そうだ。こいつは餞別だ――受け取っとけ。なんか由梨の助けになるらしい」


 そう言ってくれたのが彼だったのか彼女だったのか分からない。

 でも私の胸元にはチェーンに繋がれた指輪が残されていた。


 片瀬貞芽と再会して幾日か経った。

 今日は学校でお祭りのようなことがあるそうだけど、私は家でお婆さんとお爺さんと三人でゆっくりしていた。

 お婆さんがお昼ごはんの作りに台所へ行き、お爺さんはお腹を減らしに外へ飛び出していった昼ごろのことだった。


 この世界が再び、何かの力に影響されてゆがみ始めたのは……。





 ★(フィーネ)

 夏の長期休暇前に催された剣道部の練習試合は、全国大会さながらの盛り上がりを見せていた。

 奏進高校の剣道部といえば、北欧帰りの外国人侍という設定のクラウド・ビットと、人類を宇宙の未知へ導いてきた会社の副社長的立場でありながら、文武両道をこなしつつ剣道界でもその名を轟かせてきた赤威蕾。

 この二人が中心に立っている剣道部なわけなのだが、最近でこそ全国大会で優勝するほどの実績が残せているが、昨年までは最高でも全国ベスト4止まり。

 団体戦では夢の一回戦突破などと言われている。

 その奏進高校の歴史に新しい一ページを作ったのが、今から二年前の全国覇者の八代星奈。

 道場の娘で、幼い時から道場の手伝いをしていたら世の中に怖いものなしの無敵の剣道をするようになってしまったという。

 その剣道のスタイルは、クラウドの奇抜な二刀流や蕾のするスタンダードなものとも一線を画し、独特の呼吸法と間合いの取り方で相手の“攻め”と“回避”、“妨害”。

 それらを巧みに使いこなし、相手の動作が中途半端なものとなったところへ鋭い振りで一閃するというものだった。

 その大会を最後に蕾と仲違いした星奈は剣道部へ来ていなかったのだが、この日の練習試合になぜか彼女の姿があった。

 この日の練習試合は、両校の男女剣道部員を合計五人出しての団体戦で、勝ち抜きルールのあるお祭りじみたものだった。

 ここまで全六試合が行われ、八代星奈と相手校の神童高校の大将との試合が終わったばかりだった。星奈が三年、相手の大将が一年の少女と言うこともあってか身長差があり、終始、星奈ペースの試合展開で行われていた。

 神童高校の大将も西欧から来た留学生で、クラウドと違い日本語も上手に使えないが剣術については他を圧倒するものがあった。

 それは彼女の実家がそう言うことに精通した名家であり、西欧の剣術という剣の道を極めたのが彼女と言うことらしい。

 それでも剣道という類の剣の道では、経験値の違う星奈がわずかばかり圧倒しているのだ。

 全国大会でも数回しか見せなかった星奈の剣道は、本気であった場合――相手の出だしを中断させて自身の世界へ引きずり込むようなものを見せつけてくる。

 それは周りから見れば、相手が見当違いの方向へ深く踏み込み、その横を悠々と歩く星奈が、相手の竹刀の出だしに合わせて自分の竹刀をぶつけるというものなのだが、やられた本人からだとその動きに全く気付けないのだ。

 まるでもう一人の星奈あらかじめ横に潜んでいたのではないかと思ってしまう。

 神童高校の大将も、動きこそ他の誰よりも素早いものだったが、シーナの術中にはまって攻めの出だしを止められていた。

 しかしその試合は中断されて、奏進高校の途中棄権ということでそのまま神童高校の大将の勝ち。時間帯を考えて昼休憩と言うことになっていた。


 次の試合は、私の兄で奏進の副大将を務めるクラウド・ビットと神童の大将のシーナ・ゼクスとの試合が予定されている。


 そんな――普通の――剣道の試合のはずだった。


 昼食にそれぞれが休憩に入ると同時に得体の知れない何かが現れた。

 昼食を取ろうと運動場の方へ向かっていた私は片瀬姉妹と一緒に行動していた。

 その二人には先に行ってもらうとして、校内の永遠と続きそうな廊下の途中で私はそれと対峙した。


「あなたは何者ですか。見た目はツルギが消えたと言っていた“シャドー”に似ていますが。あんな、戦闘力のかけらも感じない雑魚とは違って多少骨がありそうですわね」


 黒化したクリオネとも最初思ったが、予想以上にアレとの一件は心に残っているのだと改めて思った。

 だが目の前に現れた奴は、少し開いた窓の隙間から侵入して、私の目の前で形を整えて人のような形に変わっていった。


「それでも一瞬で片付けさせていだだきますわ。お昼の時間は限られているんです」


 特に警戒することもなく、視線だけ外さないように壁に手を付けて“氷結”を発動させる。

 その一手だけで十分解決することだと思っていた。

 しかし、いっこうにグニグニ動く黒い物体はその場に居続けた。

 それどころか、自分の体の中で力が外側に出ていくときの感覚がいっこうに感じられない。

 まるで、自分がこちらの世界の人のように――または千年来の友人の“シャイネ・ゼクス”と同じ普通の人間のようではないか。


「――お前は二つの罪を犯している――」


 それが口をきいた。

 話しかけてきた。


「――何をしようとしたのか分かっている――――お前はこれを殺そうとしたのだろう? 食前の運動程度という考えで、皆に等しい命を葬り去ろうとした――」


「別に、そう言うつもりじゃ――ない」


「――いや、分かっているはずだ――こちらの世界で生まれ死ぬはずだったひとりなのだからな、お前は」


「どういう意味? どうしてわたくしとクラウド、エルデ側の友人にしか教えていないことを知っているんです…………それじゃあまるでわたくしやクラウドが本当に生きていた時代の」


「――そうゆうことだ――そして、お前を迎えにきた――」


 黒物体から細長く伸びたものが私の腕を掴む。

 それ氷で避けようとしても何も変化は起きず、ゼロ距離で氷結をかけてもビクともしない。

 そして、それはまた一つの命を奪ってしまう行動だった。


「――大丈夫だ――これが死のうと世界に何ら影響はない――これは生き物でもなければそれ以外の何ものでもない――」


「……わたくしをどうしようと?」


「――なに、簡単なことだ――まずは試させてもらう――」


 人のことを無差別殺人者のように言っておきながら、それは告げる。


「――姫の傍に居るのにふさわしいかどうか――だ――いまからこの学校内で力のあるもの全てに襲撃をかける――それをお前はただみていろ――問題はない――力が使えないようにしたのは姫一人――残りは使える――そうだな、お前の兄はやっかいだな――一番でかいのを当ててやろう――」


 細長く伸びたものに引き寄せられ、私の体は黒い何かに溶け込んでいく。

 普通の人とかけ離れた力を生まれつき持っていた自分が、それを奪われたとき――こんなにも無力なものだったとは思わなかった。

 黒い元の体が合わさってから、学校中の光景が次々に映し出されていった。



 ☆(蕾&負傷の星奈)

 道場に残った二人は、フィーネが出会ったモノと同じものに挟み撃ちにされていた。

 星奈が学校裏で会った“大熊に化けるもの”ほどの脅威はなかったが、竹刀一つで太刀打ちできる相手ではない。

 基本性能が熊に変身する奴と同じなら、人の大きさで人を超えた力を持っているのだろう。

 力なきはずのものが、巻き込まれようとするのをフィーネは傍観していた。


「蕾、こうゆうのに会った経験ってあるのか?」


「ずいぶんと楽しげに聞いてくれるものだな。だがクラウドと一緒にいてこうゆう事に出会った事が一度だけあるな」


「――――じゃあこれが現実だって分かってるんだな」


「優等生の八代星奈がいつのまにか“男まさりの言葉”を使い、本当なら走ることさえできない足で試合するほどタフだったとは思わなかった。

 そしてなにより、怪我をした女性を守れないなら、これまで剣道をやってきた意味がないだろう? ここは任せておけ。面白いものも見せてやる」


 我慢して竹刀を構えて立っていた星奈を座らせる。

 それを守るように、黒い剣を持った二人を前に蕾が立ち向かおうとしていた。



 ☆(政道&千夏&シーナ)

 このことを事前に予測できた政道は、彼女である千夏を連れて学校から出ようとした。

 学校から出てしまえばその運命から逃れられることも政道には分かっていた。

 玄関まで来たところで、黒い点が天井まで遡り背の高い人に囲まれる。

 その数は二人や三人どころじゃなく出口全てを覆い尽くすほどの大勢だ。

 この場から逃げることだけは絶対に許さない意思表示にさえ思える。

 学校から逃げ出すよりも、まずこの場所から離れなければならないと思い、怖いものを見せないように目をつむったままの千夏の手を引き逃げ出そうとする。

 そのとき小さな影が二人の前に現れた。


「またキタのか。――――(おもしろい)」


 興奮しているのか。

 言葉足らずの日本語となまった英語で飛びこんできたシーナ。

 自分の背丈ほどもある竹刀を昼食の間も持ち歩いているはずもなく手ぶらだった。

 政道が千夏を連れて逃げだそうとして転ぶ。

 そんなことに脇目も振らず、シーナは十以上の敵を見据えて小さく告げる。


「――(我が手に極光の剣を)」


 シーナの手にシャイネとはまた違う黄金の剣が現れる。

 彼女の小さな体に合った剣は、少ない光を極限まで輝かせる作りになっており不安定な揺らぎを持っていた。

 それが“本物”でなく、彼女の実家に伝わる剣術の一種でそこにあるように見せる錯覚だとは誰も思うまい。

 それはそこにあって、ないものだ。

 シーナはそれを手に、非日常を相手に立ち向かう。



 ★(クラウド&ツルギ)

 運動場の真ん中でこの二人が一緒にいたのはたまたまだが、ツルギの前には他の人と同じような黒。

 クラウドの前には、黒いのを使ってフィーネに話しかけていた奴にきわめて近いものが立っていた。


「おいクラウド。そっちのは任せてもいいのか?」


「俺はフィーネを待っているだけだ」


「さっきそいつはフィーネを捉えたって言ってたぞ」


「なら殺す前にそのことを聞いておかないとな」


 フィーネの一言に過剰に反応するクラウドと能力の十分の一にも満たない力で黒いのを握りつぶしたツルギは大丈夫そうだった。

 となれば。 

力はあるけどそれを隠している。

 力の覚醒に気付いていない、平和ボケしている人が狙われているということになる。



 ★(朧由梨)

 一人のときに襲われてほっとする自分がいた。

 どうしてこうゆう状況になったのかは分からないが、家からそう遠くないところで大きな黒熊に襲われていた。

 それはシーナと星奈が対峙したものと同一で人を殺すのに十分な力を持ったもの。

 学校の中にいないのに、唯一狙われてしまった一人が、殺す気で襲われていた。


「あなたがどのような人かは知りませんが。私の今を壊すというのなら容赦できませんよ」

『そうですね』


 おかしい。

 熊の方じゃなくて、近くから声がした気がする。


「私の力はある世界では最強種と言われた人だった。相手が誰だろうと敵いませんよ」

『それは使う人次第ですね』


 胸元から声が聞こえる気がする。

 間違いなく指輪がしゃべっているようにしか思えない。

 指輪を取り出して、手のひらの上に転がしてみる。


「やっぱりこれなのかな」

『これ呼ばわりは酷いですね~。これでも四年かけてパワーアップしたのに、

持ち主がこんな屑じゃどうしようもないですね~』


 なんか以上にムカつくアクセサリーを投げ捨ててやりたいと思った。


『でも使い方を知らなければ、いまのあたなじゃアレに敵わないことくらいわかりますよね』


 アクセサリーは手の上で拳銃へ形を変えた。

 ちょうど良い大きさの銃になる。


「そうね。せいぜい不良相手に勝てるくらい。私は四年前に姿を消した彼女と違って、力の使い方を知らずに使ってきたから」

『なら教えて差し上げましょう~。この状況を打破して、さらには私の前マスターのように“神を殺せる力”と呼ばれるくらいにしてあげましょう』



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