ハピカタ04
愛たちと言葉を交わした真人は、その日から愛たちと共に戦う形をとるようになった。
残り約五日間――この日が、ここにいる愛たちと真人が一緒にいられる最後の日――となる。
昨夜のことや、最後の人か関係なしに真人の謎の多いクラスメートは色気だっていた。
その日の学校の体育の授業後に、教室の中がピンク色にざわついているところ、その周りで男子がもんもんしていた。
主に雷と斎藤、愛がそうゆうことに興味のない真人を巻き込んでもんもんしていた。
「あ、いい香りがする」
「それは俺の匂いか? 俺に興味があるのか?」
「甘い香りなんだ。へぇ~、そのまま覗くの? 自分の尊厳を捨て身タックルして覗くの?」
「…………雷と斎藤と愛は、何してるの?」
真人は心底興味なさそうにしているが、愛にはそう見えていなかった。
「中原真人! ――これは、そうね。残り少なくなった今週のリーダー権限を使って、男の願望を間近で追体験、ってさっさとどこかへ行くな!」
「いや、変な女子には関わるなって師匠が言ってたから」
「師匠? そんなのはどうでもいいけど、変な女ってどこにいるの?」
「…………」
「じゃあ、一緒に覗く? 私もまだ着替えてないから、むしろ私を覗いちゃう?」
「そうだ、着替えた場所に忘れ物――」
「してないっ! 絶対面倒だから咄嗟に考えたっ!」
「それよりさ、真人」
斎藤が愛と真人の間に真面目な顔で入ってくる。
「ん? 真剣な斎藤は若干気持ち悪いんだけど」
眉間にしわを寄せて、一際体格のしっかりした男子生徒が考え込むと、まともなことは考えていないだろうと真人は思う。
「良く知らないこの女はどうでもいいんだけどさ」
「あんた失礼ね!」
「ほんとごめん。お前はダメだ」
「リーダー命令。真人、この男を……いてこまして!」
「…………」
「それよりさ、最近の来夏を見ていると、こう、胸のあたりの膨らみが豊かになった気がするんだ。幼馴染としては、その成長を真人と共有したいと思ってな」
「…………」
斎藤は本当にまともなことは考えていなかった。いちおう、真人と斎藤剛志と佐須来夏は幼馴染だから、見た目についてときどき話すことがあったが、そこまで一部分に偏ったことは話したことがなかった。
もちろん真人は興味がない。
「掴めるぐらいにはなったと思うんだ」
拳なんか握り締めて熱心に語る斎藤の右側で、教室の扉が一瞬開いて一瞬で閉じる。
一人の女子が着替えを終えて出てきたようだ。
「ちょっといいですか、斎藤」
そこには、着替え終わって……言わなくてもわかるだろうが、中からでも熱意の籠るトークが聞こえたので根源を断つために話題にされていた来夏が出てきていた。
変なことを言う斎藤を幼馴染のよしみで躾けてあげる、といって二人でどこかへ行こうとする。
来夏の得意な躾は、割と容赦のない暴力だ。小柄な見た目に反してバンバン手が出て、危なくなったら自分能力で回復させる。つまり、めっためたに叩きのめして、来夏の持つ再生の能力で蘇生させる――なる段階まで無限ループで斎藤の地獄が待っているだろう。
「さよなら、斎藤」
「真人……縁起でもないこと言うなよ」
「今日は朝まで返せないです。……楽しくない意味で」
「ボソリと怖いこといったよ。やっぱりさよならだね、斎藤」
「来夏が、そんなわけないだろ……聞き間違いに決まってる。俺は悪いことをした覚えはない」
「斎藤が悪いことを言った覚えならあるのです。さっさといきますよ」
いつになく――いや、懐かしいほど殺気漂う二人の関係性がすごく気になる。楽しい思い出になるように、二人の幸福を願おう。
「新入り、こっち――」
愛に手を引かれる。
男の真人でも抵抗できないほどしっかり握られたまま、連れて行かれる。
――連れて行かれる?
「どこへ?」
「確認してないことを確認できる場所へ」
そこは、埃を被った本屋や机が置かれている物置教室だった。札には、以前使われていた部屋としての名が記され、人が入るような空間がない場所だ。普段なら掛けられているはずのカギも、偶然かかっていなかった。
「……見て」
愛が体操服の首下を掴んでいる。真人は既に着替えてしまっているから、愛が掴んでいるのは自身の体操服。
そのまま徐々に下へと愛は服を引っぱり、胸元があらわになりそうなところで引くのを止める。
白い肌と、二つの小さなふくらみの間に――真人は目をそむけることなく確認した。
「見える? 我々が……ううん。いわなくてもわかるよね。この体に刻まれた一ケタの数字が、我々を人でなくしてしまう。
昨日の夜に、サボリにしては良く調べた既存の事実を飲み込むには十分な証。
そして中原、田村を筆頭に活動したこと全てが全否定される証。
そうだよね?
だってあなたが一生懸命していたことが、――――になるもんね。
これの真実をみても、昨夜の言っていた通りわたしたちに協力するの?
それが自分が死ぬ以外で唯一この夢の世界から抜け出せると思ったから」
色気があるような、ないような格好で愛が昨日の夜のことを真人に思い出させていた。
もしかすると、この真人は昨夜の真人ではないのかもしれないと……愛は感じたから。
***
夜になり、アタッカーとして真人が加わった愛たちは、昨日とは違う二つ頭の怪物と出会っていた。
戦い慣れていない五人と、比較的戦い慣れている一人。
対する敵が一体一体でも、強力な能力者とされるフィーネやクラウドに匹敵する九十番代というのが怪物たちの持つ数字で分かる。
それらが組み合わさった連中が真人一人でどうにかできるはずもないが、昨夜言った言葉の通りに真人は動くだけだ。
愛の指示でアハトとノインが動き、周辺の人を安全な場所へ避難させる。
本当の双子ではないが、それを思わせるほどの意志疎通をする二人は、戦いよりはこのようなバックアップに近い作業を主にしていく。
「現状報告! この場にいる人間は戦うことを自らの意志で立つ者のみ!」
「ようするに、関係ない人は安全なところにいきました!」
漫画の影響を受けたような発言をたまに混ぜてくるが、基本仕事をしっかりする二人組だ。
十数階もある建物の屋上に真人を含め愛たちの一団が揃っている。
その建物に住んでいる人を一斉に逃がしている二人は、この後も下の階の人を安全な場所へ導いていくことになっている。とりあえず二つ、三つ屋上から近いフロアだけ安全は確保された。
愛が敵を前にして後ろを振り返る。
「どうする?」
「リーダーが自信なさげにそんなこというなよ。俺らを信じろって」
「いや、だって、今まで以上に相手が強そうだしね。実績ゼロだからね」
「僕が一人でやるよ」
「昨日もそうだったけど、意外と弱いんだから黙っててっ! ――あぁ、あと言い忘れていたけど、このエリアに敵を誘い込んだのは、神の力を二種類以上使う敵に対抗するためだから。つまり、つまりね……このエリア内は神の力がクラス5以上しか使えないから」
愛たちの力は、それほど強くない。
そのために考えたのが、完全にその場所では能力を使えなくすることだった。
なぜなら、敵は必ず一つの大きな力を持っていて、それを防げるだけでだいぶ違うからだ。だが、知らなかったとはいえ、単身で飛び込もうと一歩踏み出していた真人にとってもだいぶ違うことだった。
リーダー愛の発言で、行こうとした真人がありえない速度で愛の方を振り向いて、津が慌てている。
愛は口をパクパクさせて、自分に不利な視線は気付かないことにしたらしい。
敵の体は真人の見たこともない形状をしている。うるおいを持った表面は人肌のようにきめ細かく。所有している武器も昆虫の持つカマのようなものをより鋭く進化させた剣のように製錬されていた。頭が二つあることを除けば、まるで人のような見た目だ。
その見た目に真人が動揺することは、だぶんない。
周りには自分よりすごい人が大抵いて、いまだって残してきたフィーネやツルギに能力面では勝てそうにない。だが、それ故に目の前の敵が自分に近いということもわかっている。
なんとなく、実験とやらで作られ続けた数字を持つ奴らは能力が不完全で、すごい能力だったとしても平均すると真人のそれと大差がないことが多かった。
「あんた一人でどうにかなるなら、わたしらはここにいないっての!」
「そうだろな。津なんてすぐに逃げ出したいだろうし」
「に、逃げ……はしないだろうけど。でもでも」
「つまり――――、今日で最後になるように協力しなさい! 守ってやるとか偉そうなこと言ってないで、いつもどおりにあんたは自分にできることをやれ。わたしらもできることをやって、明日はまた学校なのよ!」
数字持ちとして分けられた彼女たちは、
ナンバー1“愛”、ナンバー2“津”、ナンバー3“雷”
それに、ナンバー8&9“アハト&ノイン”
そして、元々アタッカーの『4』と『5』がこの場所に向かっていた。