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ハッピー・エンド・カタストロフィー01

『ハッピー・エンド・カタストロフィー01』



 生温かい風が吹く堤防の近くで、通り雨に打たれている少年。

 シャワーでも浴びているかのように、気持ち良さそうに見える少年だが、服の中にしみ込んでくる雨粒とぴったり張り付く薄いシャツにくるものがあり……やはり寒そうだ。

 帰る道も分からなければ、帰る家もない。

 その少年の帰り道を教えてくれる家族や友達も、きっといない。

 なぜなら、この場所のどこにも少年が知るものはなく、知らないものはない。逆に少年のことを初めて知るものは多く、少年が初めてと感じることは少ない。

 ここを何処かといえば少年たちの故郷。

 ここを何処かといえば、イフの世界に許された幸せな世界だったというだけの話である。





 たった一人、中原真人はエルデへ帰ってきていた。方法はよしとして、持ち物はこっちの中学の制服とネックレス型の特殊装備、小遣い程度のさみしい財布、それとフリスク。

 二つの世界の間に時差があったかのようにずれた時間帯は明け方だった。

 迫りくる敵も、襲いかかってくる恐怖もない世界の明け方に知り合いの美少女がくれた食料を口に放り込んで学校を目指した。

 学校へ着くと、陽も昇らぬ空が大体の時間を教えてくれる。

「五時くらい」

 本当は途中のコンビニでパンを買ったときに時間を確認した。

「えっと、中に入っていても大丈夫かな……家は少し遠いし、一応在学生のはずだし。といっても知り合いでいるのは貞芽と斎藤、来夏くらいだけど」

 独り言が暗闇の中に溶け込んでいった。

 そして真人は校舎の中で朝を迎え、――明日から夏休み――終業式の陵桜中学の一年の自分の席のある教室にいた。

 ここで見る風景は真人が生まれて、今ここにいるまでの間見てきたもので違いない。ただ、この風景の中に見える人影が真人の信じる世界と少しだけ食い違っていた。

「あの、ここの生徒ですよね」

 その声がするのは、真人が寝ていた教室の隅とは対角線に位置する入口のあたりからだ。

 朝早くに来て、自分が一番だと思って少し驚きつつがっくり肩を落とすような声色だ。

「え、あ、あの……もしかして不審者ですか?」

 ちょうど影になって見えない真人の姿は、入口で足をとめた生徒には不審に見えるらしい。

「警察呼んだ方がいいですか……って何を聞いているんだろ……」

 入口のドアにすがりついたまま動こうとしない生徒は、一人問答を繰り返しながら徐々に教室へ入ってくる。

 時差ぼけとは言い方が、不十分に眠りに落ちた真人は少なくともいい気分ではなかった。むしろ初対面の相手を邪険に扱ってもしょうがないほど寝ぼけた表情をしているかもしれない。

「あっ……やっぱりこの学校の生徒だったんだ。

 このシチュエーションから推理して、

 きっと――夏休みも直前となったこの時期に、深夜の学校で肝試しをしようとして、友達に声を掛けたが誰も載ってくれなかった。それでも興奮さめ切らない君は夜の学校へ一人でも忍び込んで遊び疲れてここにいる――とか?」

 真剣に聞く気のない真人も半分だけ聞いて答える。

 ここで答えないと半開きのまぶたから耀避けのためかぶっているカーテン越しに薄ら見える少女がどんな気持ちになるのか――考えなくもない。

「家が遠いから、そのまま学校で寝てたんだよ」

「……」

 真人がヘタレの境地のようなことをぽつりと言うのを凝視して、互いの顔を確認できていない二人がようやく視線を合わせる。真人は顔に覆いかぶさるカーテンを横に流し、立っている少女は膝を曲げて真人の視線に自分の視線を合わせる。

「もしかして転校生?」

「いや、学校へ来てなかったただのサボリ。またすぐにいなくなるから気にしなくていいよ。だって――――――――」

「どうしたの? 何か信じられないものでも見てしまって口が開いてよだれが垂れてしまいますって顔をしているよ」

 その少女の目に映るのは、普段は誰も知らないところで自毛の銀髪を黒く染める前の少年の姿。

 半開きだった少年の瞳が全開になって見つめるその子は、ショートカットになってはいるが、四年前の面影を残した蒼い髪と黒い大きな瞳をしている。


 運命のいたずらか、または誰かの意志があるのか。


 ずっと探していた人の姿がそこにはあった。


エルデと真人とイフの世界の物語。


エルデに起こった謎の現象と、これまでにあったこと(非公開含む)そのすべての謎を解き明かす真人の見た夢の世界がそこにある。


例えそれが幸せな世界=悲劇的な結末であろうとも……


すべてが一つに収まる絶対の法則がそこにある。




登場人物は、中原真人、愛、津、雷、フィー、ファン、ジープ、アハト、ノインの問題児と真人の知らないかつての友達――?

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