序章04
若干未完成。
『インターブレイク 神童高校編』
奏進から少しだけ離れた高校に、神懸かったこと……をしそうな生徒たちがいる。
国際的なことは前から有名で、校内を歩けばたくさんいないにしても髪の色の違う生徒が見られる。
焦げ茶の髪が頭の上で跳ねている少女に、金髪の青年、色素の薄い肌色の男女のグループが、夏から男女合同で使用している剣道場に集まっていた。
もちろんその手には竹刀を握っている。
「これはなんだ? モノホシザオというものなのか」
「いや、そんな昔の人の武器みたいな名前の竹刀はないからさ。竹刀っていうものだな」
髪の跳ねている少女に必死に説明するマネージャー。
信じられないほどマネージャーが似合わない男子生徒だった。
「お前がワタシの相手をしてくれないのか? 強そうなのニ」
「……ああ、まあな」
「ざんねんダ」
心底残念そうな顔をする留学生だ。好戦的なのは彼女の長所でもある。
それの名前も知らずに今まで振り回してきた彼女は、竹刀を持つのが様になってきていた。
これでも伝統がなく、歴史の浅い剣道部の部員なのだ。
「いつまで我が校の期待の新星とたわむれているんですか、斎藤」
「なんだよ……ぶしつけに、来夏」
「では失礼」
よく見れば、飛行する鳥が風に流されて流動的な毛並みになるように、彼女の頭の跳ねっ毛も空気の流れに身を任せている。
何よりも早く駆け抜けていく戦場の騎士が現代にも生きていれば……というような。
「保健委員であり、剣道部のマネージャーもやってくれる俺の幼馴染の佐須来夏さんが、何かごようでしょうか?」
おどけた様子で剣道部員と別れた少年が来夏と話していた。
斎藤――とは少年の名字らしい。
「説明ありがとうです、斎藤――――ところで“斎藤”というのがややこしく思うのですがどうしましょ」
「いや、来夏の言っていることがよくわかんないけど」
「ほら、斎藤被りですよ」
「なんだよ“斎藤被り”って!」
「そうゆうものなのですよ。なので小学校からの幼馴染で高校まで一緒なのですから、これからはあなたを“剛志”と呼び捨てます」
斎藤剛志はその一言に惑わされた。
目の前には、初対面の奴から見ても上の中に入りそうな美少女がいる。
ちなみに幼馴染で、よく知っている。
佐須来夏は、あまり慣れ合いを好まない性格だということを。
「そもそも真人、由依、貞芽を下の名前で呼んでいるのに斎藤だけ斎藤なのはおかしいです。直していきましょう」
「いや、別にいいけどさ。ここには三人ともいねえからな」
「……剛志……、何を寝ぼけたことを言っているんですか? 竹刀に叩かれてボケることのないマネージャーが頭ぽかんなのですか?」
「その微妙な丁寧語の使い回しは変わらねえな、やっぱり」
青年が少年じみた笑顔を来夏に返していた。
感情のない笑顔で来夏も答える――感情を押し殺して、悲しみも喜びもすべてなかったことにする優しい笑顔だ。
「もう少し愛想がよければ早くに彼氏でもできるんじゃねえかな」
「いりませんよ。…………もうとっくに相手はいるんですから」
剛志に聞こえない小さな声で来夏は口に出した。
跳ねっ毛の少女は周りの騒音を跳ね返して集中していた。
高校生にもなって少女呼ばわりの小柄なその身に、長めの竹刀を一生懸命に振っている。
もっぱらかわいいと評判の剣道部名物とまでなっている。
「強いヤツがほしい。わたしがわたしである理由を見つけられる。ご先祖様のような強い人にナレルように――強くて美しくなりたい!」
その場にいる誰がわかるでもないその剣聖は闇の中に一筋の光を生んでいた。
好敵手となる存在を待ち焦がれる。
遠い国の廃れた刀術を五つ習得した、今ここにいる騎士は何を思ってその剣をふるうのか。
そもそもそんなものを奮える相手なんていやしないはずだった。それこそスポーツの垣根を越えて君臨し、過去から甦ったような本物がいなければ。
「わたしについてこれる相手が、いるなら出てこい! わたしはここで待っている!」
奏進と離れた神童で殺気立つ少女は、その身に流れる血の本当の意味も知らずに昔の英雄を追い求める。
ゼクスの名を受け継ぐ少女。
彼女と生き残りの遠い日の友を知る男が衝突する日は近づいていた。
――――実はまだ彼女の名前は決まっていなかった。