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五人の居場所 第二幕

 かならずやっておかなければならないことがある。


 そう思ってこの章があるのだと、思えたらいいな。



 すこしいいペースでかけてきました。

 手を伸ばした。

 一秒に満たないほんの一瞬の浮遊感の中、落ちる二人の距離が少しでも縮まるように。

「どうして、お前がいるんだよ!」

「絶対に助け出すから、待っていて」

 ここは駅のホーム。夕暮れのちょうど帰宅ラッシュ時のど真ん中だ。

 由梨は数秒前、急に走り出して、高低差のある線路に飛び込んでいる。まだ地面に足がついていない浮遊している状態である。

 どうして飛び込んでいったのかといえば、そこに少年がいたからだ。

 人数が少なくはない駅のホームで、不運にも肩に衝撃が走ったと同時に少年は突き飛ばされたのだ。

 いわゆる事故のように。

 そこへ、その場に偶然居合わせた由梨が、自らの命を投げ捨てて飛び込んだのだ。

 これは由梨にとって二巡目のゲームだから、そう判断して行動していた。



 一巡目に戻る。



 ***

 学校の体育館には中等部、高等部の生徒がほぼ全員集まっていた。

 どうして集められているのか分からない、生徒たちはガヤガヤと騒がしくしている。そこに奏進の代表者、いわゆる校長と呼ばれる人が壇上へ上がっていく。

 生徒たちの視線は、次の言葉で一斉に校長の元へ集まった。

 それだけの事を校長が口にしたからだ。


「ほんとなのかなぁ……風邪とかして休んでいるだけだと思ったのに――四人もだなんて」


 解散していく生徒の一人が沈んだ様子でそう言っていた。

 由梨もその流れの中でボーッとして、何人かとぶつかりそうになりながら歩いていた。

「夢じゃなかった。本当のことだった」

 落ち込む由梨の原因は、もう一日前のことに戻る。

 五人組がそれぞれの家に別れた直後に一枚の紙キレを由梨は偶然拾った。

 それには箇条書きで文が綴られていた。そして先の集会で詳細に語られたのも同じような内容だった。



 ☆☆☆

 ゲームヒント。

 少年は駅のホームから落ちすぐに来た電車にひかれて即死。

 少女Aは階段から落ち数時間後に死亡する。

 少女Bは偶然起きた銃撃戦の流れ弾に当たり事故死。

 少女Cは強姦に襲われ無残に殺害される。



 電波な内容。


 それが現実になったとき、それはどうしようもない怖れへ変わっていた。


 その場に再び彼女が現れた。その姿だけで、このゲームの事を思い出す。

 学校の中で図られたかのように二人だけになっていた。

「ゲームオーバー、寸前のクイーンに追加説明です」

「――なんなんですか?」

「怪物能力者のコピーだから、もう少し鋭いと思っていたのに残念だな。事前に教えておいたことも忘れてしまうなんて、とんだおっちょこちょいだよね」

「――どうしてこんなことをするんですか?」

「……」

「――こんなつまらないゲームは参加したくない。でも……もしあの人たちを助けることが私の犠牲の上で成り立つなら、やってみたい! 今ならそう思える」

 自分でもわからない衝動に由梨は突き動かされていた。

 こうなるように斎藤が由梨に刷り込んだ仕掛けの一部とも分からずにである。

「誰かを救える力が、まだ私に残っているなら! 全部使い果たしてでも――」

「ストップです! クイーンはやはり忠実にあの人のコピーのようですね。自分でも気付かないうちに“あること”をいってしまう。そのことが分からなければ、このゲームからは抜け出せない」

「だから――」

 詰め寄る由梨の手を掻い潜るように斎藤が再び銃を突きつけていた。

「だーかーらー、友達との時間を守れるように。自分の力のちゃんとした意味を分かるように。やってみてきなきゃね――――“リセット”」

 軽い音が校内に響き。一巡目は終わり、すぐに二巡目で由梨は行動を起こすことになる。



 メモの方には正確な時刻も記されていた。

 それも、うまい具合に全員を回り切れる時間のようになっている。

 だから走っていた。

「一人目は、別れるときにお金を下ろしにコンビニに向かったかわいい子の方か、本屋によって帰るといっていた暗い子のどちらか。もし銃撃戦が繰り広げられるとしたら、こっちしかない」

 拳銃なんて物騒なモノを持っている人は、斎藤真実や紛争地域で住む地球中原以外でそうそういやしない。もしも持っている人がいて、その人が起こそうとするのは強盗とかしか考えられない。

 ならばコンビニ強盗の方が、可能性としてずっと高い。

 一番死の時刻が近いのは少女Aなのだから。

「……ま、まにあったはず。時間まで後二分。その後五分の間にあれが起こる」

 一番近くのコンビニの近くに到着。

 探せば、まだコンビニへ入る前の彼女に会えるはず。由梨はできるだけ大きな声で叫ぼうとしたが、出来なかった。

 その子の名前を叫ぼうとして、そんなことも知らなかった自分にようやく気付いた。

「あ! どうしたの由梨!」

「よかった――」

 正面にその子の顔が見えたのと、ガラスがはじけ飛ぶ音が同時に聞こえた。

 すぐに由梨はその子の手を引っ張り、自分が前に出る。自分の手の平に蒼い光を収束させて全てのモノを防ぐ完全無二の盾をイメージして能力を発動させようとした。

「シールド、展開! …………やっぱり。ダメ……」

 全身に酷い痛みが走った。

 結果として銃弾は飛んできていない。傷んだのはひねり出そうとしたものが、、無理をして中で事故を起こしたからだ。由梨の体は以前のようにあまり余裕がなくなってきている。

 だがここは目の前のことを解決するのが先だ。

 まだ生きているのだから、少しだけ時間が残っているからなのかもしれない。この五分を絶対に彼女を守るために使いきる。誰か他の人が代わりに傷つくことも許さない。

 由梨は静かな意志を固めた。

「なんかすごい音がしたね~。由梨でよく見えないけど、はっぽう?」

「絶対に、友達って心から思える人を傷つけさせたり、痛い思いはさせたりはしない。少しだけ私の後ろにいて下さい!」

「うん、わかった」

 由梨は片手を前に、さっき失敗した事をもう一度繰り返す。

 やはりというか、盾のようなものは一度も作り出すことはできなかった。それ以前に、由梨はあの日以来能力を使えたことがないのだ。

 貞芽と真人と由梨。その他数名の対峙した決戦の日以来である。

「でも大丈夫。流れ弾の狙いは正確にわかっている」

 由梨はあくまで冷静だ。

 発砲する音がはっきり聞こえ、体の一部に強烈な痛みが走る。

 頭の中が割れそうな痛みと違い、激しい脱力感と多少のふらつきがくる。

 少し体の一部を銃弾はかすめて、時刻は予定の五分を過ぎていた。

「よしっ……誰も死んでない。次は駅……」

 座り込んでわけのわからない子に言葉一つ残さないで、由梨は再び走り出した。

 自分を犠牲に左肩に銃弾は貫通していた。そのおかげで逸れた弾丸は誰にも命中せずどこかへ飛んでいったのだ。

「次は彼が家に帰るためにのっていく電車の駅……まだいける、このくらい死ぬよりずっと苦しくない」



 ***

 咄嗟な事にすぐに動き出せなかった由梨は、このゲームのルールを思い出して身を投げ出していた。制限時間いっぱいの四分後に彼は線路に落ちていったのだ。

「どうしたんだよ! その怪我」

 その肩を見て少年は心配した。自分の今の状況を忘れているかのように自然なセリフ。

「俺に抱きつこうとするなら、もう少し色っぽい服装にしてくれよ。主人公キャラは見栄えのいいヒロインとそうゆうことするもんだぜ。いい意味でなっ!」

 早口に訳の分からないことをいう。由梨は学校指定の制服のままだ。ここに突っ込み役の彼女がいれば、浮遊しているところを叩き落としているところ。だとしてもそんな悠長なことをしている時間も、希望もない状況だった。

 由梨の出した決断は、このゲームのゲームオーバー条件の裏に隠されている、クリア―条件を考えてのもの。どうやっても覆せない状況を突破するためには、

「やっぱり私が死ねばいいのかな。いまも、きっと助けられない。この程度のことを跳ね返せる絶対的なものがあったのに、それもない。ここにいる意味がな――」

「ふざけんなあっ!」

 少年の足元の線路に強い振動が伝わってきていた。

 数瞬が何時間にも感じられるときのなかで少年は叫ぶ。

「お前が死んだら、それですまねえんだよ!」

 落ちてくる由梨を先に着地した少年が突き飛ばす。

「このゲームのクリア―条件は、俺たち四人の生き残ることでも! 他の何でもない! その条件は――」

 鉄の塊が迫る。空中で突き飛ばされた由梨はめちゃくちゃな格好で飛ばされたせいで目を開けていられなかった。だけど唯一助かりそうな、溝にいるのだけは土の感じから何となくわかる。

「……お前の考えているのと全然違うことなんだよ……」


 電車は、鈍い音を伴って走り抜けていく。そこに少年のまともな姿は残っていなかった。


 ――リセット。







 ***

 不思議な感じだ。

 放課後、気の合う仲間とどうでもいい話をしているはずだった。

 帰りもいつもの道を歩いている。

 あるはずの自分の家へと。


 いや、違う。


 俺は……。


 変な音がして妙な浮遊感を覚えたとき。

 別れたばかりの女子がいた。

 名前は、朧由梨――こいつの名前だけは知っている。

「どうして、お前がいるんだよ!」

 こいつはここにいちゃいけねえ。

 そして俺は救われる方の人じゃなくて、救う方の立場の人のはずだ。そう刷り込まれいるかのように頭の中の何かが教えてくれる。

 朧は飛び込んでくる。自分も一緒に死んで全てをリセットできると勘違いして。

「どうしたんだよ! その怪我」

 朧を見て無意識に口から出た言葉だ。かなりひどい怪我をしている。

「俺に抱きつこうとするなら、もう少し色っぽい服装にしてくれよ。主人公キャラは見栄えのいいヒロインとそうゆうことするもんだぜ。いい意味でなっ!」

 俺はバカなんだろうか? それとも、俺の元になった奴がよっぽど変な奴なのかもしれないと思う。

 すこし思い出してきた。俺はこれから必ず死ぬのだ。

「ふざけんなあっ!」

 勝手に死のうとする由梨を見て叫んだ。

 助けられもしない大馬鹿かあいつは! 絶対に死ぬってわかってあいつは飛び込んできている。

「お前が死んだら、それですまねえんだよ!」

 直感的にそう叫ぶ。

 俺は超能力者なのかもしれないな。だが違うんだろうな。そもそも俺は自分の名前すら分からない。俺は誰なのだろう?

 いや、俺の事はきっとどうでもいいことなのだろう。

 これはそうゆうゲームなんだよな。

「このゲームのクリア―条件は、俺たち四人の生き残ることでも! 他の何でもない! その条件は――」

 何いってるんだ、俺。とうとう死ぬ寸前でおかしくなっちまったのか?

「……お前の考えているのと全然違うことなんだよ……」

 あぁ、思い出せた。

 左には鉄の塊。正面には無理やり突き飛ばして、怪我の増えたあいつ。そしてそれを実行した俺は……なんどかこの瞬間を見たことがある気がしていた。


 ただの少女となってしまった元ファイナルナンバー。


 この捻くれたゲームから脱出するためには、新しい力が必要なのか?


 あるいはクリアー条件にみあった**が必要なのか?



 次でこの章、最終になります。


 よろしくお願いします。

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